第63話 精霊姫のやり残したこと
お母さんと王女殿下に話しかけようと思って近付くと、声をかける前に二人の会話が聞こえて来た。
その思いがけない内容に思わず足を止める。
「そうですか。ではやはり、ずっと人間界にいるという訳にはいかないのですね?」
「そうなの。見ての通り、私は普通の人間よりちょっと目立っちゃうでしょう? むやみに人の目に触れるのも良くないし、魔素の問題なんかもあってね」
お母さん、ずっと人間界にはいられないの?
実は、少しだけそんな気はしていた。
でも、どうしてそんな大切な話を私にしてくれないのだろう。
『アナが大きくなったら話そうと思っていた』ばかりで、結局私には何一つ伝えずにいなくなってしまったお母さん。
この上まだ私に大切な事を伝えてくれないだなんて、何だか凄く胸がもやもやとした。
……よし、こういう時の私の行動は決まっている。
突撃一択だ。
王女殿下とのお話に割り込むなんて無礼だとは思うけれど、ここはお許し頂きたい。
「王女殿下、お話中に失礼いたします! お母さん、そういう大切な話は私に直接するべきだと思うよ?」
「あら、アナ! おはよう。……聞いちゃった?」
「うん。割としっかり」
私とお母さんの様子を見比べて、王女殿下が苦笑する。
「これは母娘でしっかり話した方が良さそうね。アナは朝食もまだでしょう? 用意させるから、サロンでゆっくりお話しするといいわ」
「すみません、ありがとうございます」
私は王女殿下にお辞儀をすると、お母さんを引っ張る様にしてサロンへ向かう。
「あらあらあら。ごめんなさいね、カーミラちゃん、また後でね」
カーミラちゃん!?
思わずギョッとしてお母さんと王女殿下を見ると、お母さんはヒラヒラと手を振り、王女殿下はカーテシーともまた違う胸に手を当ててするお辞儀をしていた。
何故に!? ……はっ、もしかして精霊は信仰の対象だから、その王族のお母さんは王女殿下より立場が上だったりするの?
うーん、脳みそが混乱する。
その後、お母さんを連れ大量の精霊でごった返す飛空挺内を移動して、何とかサロンに辿り着く。
途中、『あそぼー、あそぼー!』と寄ってくる精霊たちに待って貰うのは中々に骨が折れた。
いやもう、旦那様精霊集め過ぎでしょ!?
朝食の用意をして貰って席に着いたけど、もう既に大分疲れている。
いかんいかん、お母さんとしっかり話をしなければ。
「で、お母さん。ずっと人間界にいられない事、どうして私に話してくれなかったの?」
「うーん、アナに話してないというか……実は、エドにもまだ話してなくて……」
げっ!? お、お父さんも知らないの!?
「そ、それは……いくらなんでも酷すぎない? お父さん泣くよ?」
「もちろんね、最初に話をした時に、精霊界へ一緒に行くって事は、もう人間界では暮らせないんだって事は説明してあったのよ?」
あ、そうなんだ。良かった。
「それでもいいってエドが言ってくれたの。だから、アナが大人になってから良い時期を見計らって移住するつもりだったのに、アイツらのせいでこんな事になっちゃって……」
昨日聞いた、あの誘拐未遂事件か。
あの事件に関してはお母さんも完全に被害者だし、その状況なら精霊界へ帰ったのも仕方がない。
ただ、まだ一点気になる事がある。
「お母さんは、精霊界と人間界の時間の流れが違う事は知ってたんでしょ? 何でお父さんに教えてあげなかったの?」
「あの時は、アナに何も説明してなかった上にまだ子供のアナをいきなり置き去りにしちゃったでしょ? エドも混乱と心配で憔悴しきってて、とてもじゃないけど、人間界ではもっと時間が流れてるなんて言えなかったのよ」
……なるほど。確かにそれはそうかも。
向こうの時間軸では五日しか経っていないはずなのに、随分やつれていたお父さんを思い出す。
むしろ、お母さんにもそんな気遣いができたのだな、と変な感心をしてしまった。
「じゃあ、お母さんもお父さんも、またすぐに精霊界に戻っちゃうの?」
我ながら子供みたいな事を言っているな、とは思ったけれど、やっとの思いで会えた両親とまた離れないといけないのはやっぱり寂しくて思わずそう聞いてしまった。
「まさか! そんなにすぐ帰らないといけない訳じゃないのよ? エドにもきちんと納得して貰わないといけないし、アナともゆっくり過ごしたいわ」
そう言って微笑むお母さんに、少しほっとする。
「それにね、次に精霊界に帰る前にやり残した事をやっておかないといけないの」
「やり残した事?」
「そう。旧精霊教の神殿との因縁にケリを付けるのよ。私が精霊界へ戻れば諦めるかと思ってたのに、アナやユージーン君にまで手を出すなんて許せないわ」
お母さんの言葉を聞いて、思わずゴクリと唾を飲んだ。何だかお母さんの迫力が凄い。
「
そう言って微笑むお母さんに、今度はゾッとする。
や、やり過ぎる予感しかしない……!
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