第49話 私の母という人は
「旦那様……!」
やっと会えた旦那様にギュッと抱き付くと、旦那様も私をギュウッと抱き締め返してくれた。
『ああ、やっと会えたんだ』と思って嬉しくて、旦那様の胸元にスリスリと頬擦りしようとした時。
肩に手を置かれたかと思うと、くるんっと体を半回転された。
ええーっ、まさかの塩対応!?
旦那様に塩対応されるなんて想像だにしていなかったので動揺する私の目に、光り輝く人影がうつる。
……へ?
見慣れない神様みたいな服を着て、何故か発光しているその姿は、それでも私にとっては見覚えがあり過ぎる人だった。
「おお、お、お母さん!!??」
え、何であれだけ探していたお母さんが、旦那様を探して森に入ったらいるの??
私の人生奇想天外過ぎない!?
思わず叫んでしまった私に対して、お母さんの方は私を見る事すらせず話を続けている。
……これ、記録された映像……?
戸惑いを隠せず、説明を求める様に旦那様を振り返る。
「すまん、アナのペンダントをこの塔の壁に嵌め込んだらこうなったのだ。多分これはアナの母君がアナに残したメッセージなのではないだろうか」
心底申し訳なさそうにそう言う旦那様。
私は改めてお母さんの映像を眺めた。
「……一緒に過ごしていた間に何も伝えなくてごめんなさい。お父さんとあなたと、親子三人普通に暮らす日々があまりに幸せで、出来る事ならあのままずっと人間界にいたかったの。本当の事も貴方がもっと大きくなったら伝えようと、ついつい先延ばしにしてしまって。まさか、あんな形で別れる事になるなんて思いもしなかった」
いつもフワフワと、どこか掴みどころの無かったお母さん。そのお母さんが、今は真摯に私に語りかけてくれているのだと分かる。
「一度精霊界へ渡った人間が、そう簡単に人間界に戻る事は出来ません。いくらあの時はああするしか命を守る術が無かったとはいえ……。貴方に何も言わずにこんな事になって本当にごめんなさいね。いつか貴方がこの仕掛けを見つけてくれる事に
真摯に語りかけてくれている……とは思うのだが、どうにも話が繋がらない。
これ、恐らく前半結構聞き逃したのでは!?
隣で旦那様が蒼い顔をして冷や汗をダラダラ流している。
「アナ。お父さんと私はいつでも貴方の味方よ。いつもいつも貴方の幸せを祈っているわ。どうか、どうか幸せに……」
—— お母さん!!
映像のお母さんの姿が、段々薄くなっていく。
そんな、こんなのって無いよ。
きっといつかお父さんにもお母さんにも会えると思って、だからこそ辛い時も頑張ってこれたのに……。
薄くなっていくお母さんを見ながら涙がボロボロと溢れてきた。
「お母さん、お母さん……」
ついにお母さんの映像は消えてしまった。
諦めきれない私が残された光の前で泣いていると、旦那様がそっと私を抱き寄せてくれる。
私が旦那様にギュウっとしがみついた、その時——
「なーんちゃって! サプラーイズ!」
場違いに明るい声がしたかと思うと。
——— 生身のお母さんが、光の中から現れた。
「「…………」」
「あ、あら?」
あまりにも何とも言えない空気が、辺り一体を支配する。
「えーっと……私、お邪魔だったかしら?」
「お、お母さん……」
空気の読めない、いや、読まない母だとは思っていたけれど、まさかここまでだったとは。
私はプルプルと震える己の体を抑え、スックと立ち上がると、渾身の力を込めて叫んだ。
「サプラーイズ!! じゃないでしょうがー!? 空気読んでって、いつもあれ程言ってたのにー!」
『ごめんなさーい!』と謝る母の姿が、あまりにも記憶の中と一緒過ぎて思わず脱力する。
どこの世界に、ある日突然行方不明になり生死不明で、やっとの思いで数年後に再会した娘にサプライズを仕掛ける母がいるというのか。
旦那様もあまりの出来事に呆然としている。当然だ。
すみません、本当にすみません、旦那様。
私の母という人は……
こういう人なんです。
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