第50話 精霊姫の天罰

「とにかく! 最初っからちゃんと分かる様に説明して!? 私、本当に心配したんだからね!?」


「あ、あら? メッセージは見てくれなかったかしら? 怒られたくなかったからわざわざ先にメッセージを流したんだけど……って、あ」


「お母さん!!」


 怒られたくなかった、って。

 本当に相変わらず子供みたいな人だ。


 ……いや、お母さんが精霊姫の生まれ変わりだったって事は、これは子供みたいなんじゃなくて、精霊みたいだったって事?



 ぬぬ、納得したくないけど納得……。



 私が子供の頃から、お母さんは本当にこんな感じだったのだ。お父さんもお父さんでどこか良いとこの坊ちゃん感が抜けないし。


 結果、二人揃って浮世離れ感がハンパなく、必然的に娘の私がしっかりタイプになってしまった。


『この家族の生命線はアナちゃんだな!』


 なーんて言われながら、近所のおじちゃんやおばちゃんに可愛がって貰っていた頃が懐かしい。




「申し訳ない!!」


 私が思わず過去の思い出にトリップしている隣で、旦那様がお母さんに向かってガバァっと頭を下げた。


「私が、まさかこんな事になるとは思わず、ペンダントを使って壁の仕掛けを作動させてしまったのです。アナがメッセージを聞けていないのは、全て私の責任です!」


 ペンダントって、お父さんとお母さんから貰ったあのペンダントだよね?

 そう言えばさっきも旦那様がペンダントがどうのと言ってたけど、そんな仕掛けの鍵になってたんだ……。



「あらあら? さっきアナとギューってしてた美男子さんね。あらあらあらー? もしかして貴方、アナの恋人さんかしら?」


 急に目をキラキラと輝かせて旦那様に詰め寄るお母さん。


 ……ていうか、母よ。そういう時は見て見ぬふりをしてくれるもんじゃないのかい?


 わざわざ蒸し返してくるなんて、控えめにいって死ぬ程恥ずかしいんですけど!?



「これは失礼致しました。私はユージーン・ハミルトン、アナスタシア嬢の夫です!!」

「まぁー!!」



 旦那様が、ババーン! と効果音でも背負いそうな勢いで自己紹介をする。


 いや、こんな所で結婚の報告とか!?


 生真面目な旦那様らしいけども……。

 


 塔の頂上辺りがカオスな空間に変貌を遂げている一方で、下からはドンッ、ドンッ、と、扉に何かをぶつけている様な音がする。


 そう、事態は何一つ好転していないのだ。



 ……ややこしくはなったがな!




「お母さん、詳しい話は後にして! 実は私達、追われてるの!」

「まぁ!」


 相変わらずマイペースなリアクションのお母さんの事はひとまず置いておいて、私はクンツに聞く。


「クンツ、私いきなり飛んで来ちゃったんだけど、下の状況ってどうなってるのか分かる?」

『さっきまでは落ちて来た塔の瓦礫でパニックになってたけど、今は扉が開かなくて、無理矢理こじ開けようとしてるみたいだよー』


 扉が開かない?


「そりゃそうよー。ここの塔の扉は封印してるもの」

「私はすぐに入れましたが?」

「それは、アナの夫君がペンダントを付けていたからよ」


 旦那様とお母さんが会話しているのを不思議な気持ちで見つめながら、今後の脱出経路を考える。


 予定は大分狂ってしまったけど、旦那様と合流は出来たし、敵の撹乱にも何故か成功した。

 

 ……となると、この騒ぎに乗じて、騎士達がいるのとは反対側から思い切って飛び降りる、とか?


 結構な高さがあるので恐怖心はあるけど、精霊たちの力を借りれば無事に着地出来るだろう事は、先ほど自らの体で実証済みだ。


 ただ、一つ気になるのは……


「お母さん、私たちがここから逃げるって言ったら、……一緒に、来れる?」

「まぁ、せっかく会えたのにもう行っちゃうの? 私が付いて行く事も出来るけど、エドを置いて来ちゃったから、今すぐにって訳にはいかないわ?」


 そうだよね、実は私もさっきからお父さんの事が気になって仕方ないのだ。


 けど今は、詳しい話が出来る状況でもないしな……。


 私が困って頭を捻っていると、お母さんが私の顔を覗き込む様にして聞いてきた。


「困ってるのね? あの人達は悪い人?」

「極悪人です」


 何せ私の旦那様をかどわかすという人類史上稀に見る大罪を犯した人間と、その一味ですからね!!

 


「そうなのね! じゃあ、天罰いっちゃいましょう?」

「へ? て、天罰? ちょっとお母さん何を…」


 お母さんは、私の言葉を最後まで聞く事なく崩れた壁の所から塔の下を見る。



「ん? んんー? あれは、私とエドをしつこく追い回してた人達だわ!」

「え! 本当!?」


 私も慌てて下を覗き込むけど、とてもではないが人の顔の判別なんてつかない。


 お母さん、目が良過ぎない!?



「私達だけじゃなく、アナの事まで追いかけ回していたなんて……許せないわ!!」



 お母さんはそう言うと、右手を高く掲げた。



「えーい! 天罰!!」



 お母さんの高く掲げた手が振り下ろされた瞬間。轟音がとどろき、稲妻の様な物が頭上から塔の下へ降り注いだのが見える。



 ええぇぇー!? や、やり過ぎー!!

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