第48話 《一方その頃の旦那様•終》アナの夫として
(Side:ユージーン)
……え、誰?
信じられない程の神々しい光景と、『私の可愛い子』と言われたにも関わらず全く知らない人が出て来たという現状に戸惑いが隠せない。
「あ、あの申し訳ない。人違いでは?」
『ここまで来るのは大変だった事でしょう。成長したあなたの姿を見られないのがとても残念です』
戸惑いがちにかけた私の声をよそに、光り輝く女性は話し続ける。
これは……実際にここにいるのではなく、何らかの映像か?
そう思って改めて女性を見ると、ある事に気が付いた。
よく見れば、アナに似ている?
…………!!
自分の首にかけられたペンダントと光り輝く女性、そして崩れた壁。
点と点が頭の中で線に繋がり、サーッと顔が青ざめる。
とんでもない事をしてしまった。
—— これは、アナへのメッセージだ!!
よく考えれば当然だ。このメッセージはペンダントが無いと聞けない物で、このペンダントはアナが両親から託された物なのだから。
……という事は、これはアナの母君……。
どんどんと顔色を悪くしていく私の気持ちなどはもちろん知る由もなく、アナの母君(仮)は話し続ける。
い、一体どうすれば……!?
『ユージーン! ユージーンこれ何!? 一体何があったのさ!?』
「フォス!?」
どうして良いか分からず、狼狽しきった私の元に猛スピードでフォスが飛んで来た。
「こ、これ! 恐らくアナの母君のメッセージなのだ! 私が間違って開けてしまって……。早くアナに伝えないと、メッセージが終わってしまう!!」
何度でも聞ける類いのものならまだ良いが、ペンダントを嵌め込む壁はもう崩れてしまったのだ。
あくまで予測だが、このメッセージは一度しか聞けないものの様な気がする。
『ええっ? 大変じゃん!!』
「そうなのだ、大変なのだ! フォス、何か良い考えはないか!?」
もはやプライドも何もあった物ではない。
私は、何とかアナに母君のメッセージを届けたいと、藁にも縋る様な気持ちでフォスに尋ねた。
『うーん……とにかく、最短でアナをここに連れて来るしかないね! 僕たちが下からアナを飛ばすから、ユージーンが上でアナを受け止めて!』
「アナを……飛ばす!?」
いくら何でもそれは危険なのではないか?
と、思いはしたものの、アナの母君(推定)の話はドンドンと本人が聞かないとマズイ物になっていく。
『……は、これくらいにして、大切な事を伝えなければなりません』
大事なお話始まっちゃうー!!
「わ、分かった、フォス。頼む。ただ、くれぐれもアナの安全だけは守ってくれ。本当に頼む」
『任せといてって! 僕たちはアナに危ない事は絶対しないよー! じゃあ、急いでアナをこっちに飛ばすね!』
そう言うと、フォスはまた来た時と同じくらいの猛スピードで塔の下の方へと飛んでいってしまった。
ああ、どうしよう。しかしこうなったら私が安全にアナを受け止めるしかない。
崩れた壁から目を凝らす様に下を覗き込みながら、飛んで来たアナを受け止めるイメージトレーニングに励む。
……こうか? いや、やっぱりこうか!?
私が手を伸ばしたり引っ込めたり、立ったりしゃがんだりとウロウロ動き回っている間も、アナの母君(ほぼ確定)は話し続けている。
『……た。しかし、精霊の姫は密かに地上に残っていたのです。それが私達のご先祖さまよ、アナ』
なん、だと……?
じゃ、じゃあアナは精霊のお姫様なのか!?
確かに、人間を遥かに超越した可愛さだと思ってはいたが……。
いやそうか、うん、むしろ納得だな!!
私がウンウンと一人頷いていると、突然下からゴッ!! という凄い音と共に突風が吹き上げて来た。
「これか!? アナ!!」
塔の下の方からアナの悲鳴が聞こえたかと思うと、あっという間にこの高さまでアナの体が吹き上げられて来た。
凄いスピードだ。
私はアナを捕まえようと必死で手を伸ばす。
「アナーーーー!!」
「旦那様!!」
私に気が付いたアナも必死に手を伸ばしてくれたが、飛び上がるスピードがあまりにも速過ぎて、アナの身体は私の手をするりとすり抜けてしまった。
更に上空へと浮かび上がったアナの姿と、空の自分の手を見て、自分のあまりの不甲斐なさに歯噛みをする。
—— 私は、何でいつもこうなんだ!!
上空を見つめながらギリッと歯を食いしばっていると、今度はアナがこちらへ向かって落下を始めた。
—— 今度こそ、今度こそ絶対にアナを!!
必死に腕を伸ばし、落ちて来たアナを抱き抱える様にして受け止めると、全身にかなりの衝撃が走り、手がビリビリする。
—— 私はアナの! 夫だぁぁぁーー!!
心の中でそう叫ぶと、無我夢中でアナを守る様に抱き締め、体中の力で踏ん張った。
ほんの数秒が一生にも感じる程の時の長さの中。
フワリと金色の髪が私の顔をくすぐる。
「旦那様!!」
アナの声が聞こえて、アナがギュウっと私に抱き付いて来た。
……ああ、アナだ。
私はこの腕でアナを守る事が出来たんだ。
やっと感じる事が出来たアナの温もりに、感触に。
泣きそうになりながら、私もギュウっと強く、強く、アナを抱きしめた。
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