第47話 やっと会えた旦那様
『よーし、じゃあ僕いってくるね!』
「うん、気を付けてね!」
塔へのお使いを託されたフォスは、任せとけ! と言わんばかりにクルクルその場で2,3回転すると、そのままバビュンッと凄いスピードで飛んでいった。
旦那様もイルノもフォスも、みんな無事でいてね……!
祈る様な気持ちで塔を見上げる。
「そうだ! ティナはどっちにする? 私と一緒に塔の中に突撃するか、精霊達と一緒に塔の外で騎士を蹴散らすかなんだけど」
「はぁ? 何よその二択。精霊とそんな作戦立ててたの?」
クリスティーナは呆れた様な声を出していたけど、しばらく黙って考えてからこう答えた。
「……塔の外で待っててあげるわ。さっき話の中で、対精霊用の魔道具の事を心配していたでしょう? もし魔道具を持っている人間がいたら、それに対応出来る人間がいた方がいいものね」
独り言の様に聞こえていただろう私の言葉を聞きながら、そんな事を考えてくれていたんだ。相手の状況を見て、聞いて、自分の頭できちんと判断をする。
……クリスティーナ、本当に成長したんだね。
「クリスティーナ、頭良くなったね!」
「ちょっと失礼ね、元々頭は良かったわよ! ……説得力ないかもしれないけど」
確かに、公爵令嬢時代のクリスティーナの学園での成績は良かったはずだ。
外向きの令嬢としての評判もすこぶる良かったし、
貴族の令息や令嬢に多いよね、このタイプ。
やっぱり圧倒的な経験不足なんだろうな、と思う。あのクリスティーナが一年でこれだけ変われたのだ。うちの旦那様も出会った時から比べると随分変わったし、貴族の教育にはもう少し実地教育的な物も加えた方が良いのではなかろうか?
そう遠くない未来。
私と旦那様の間に子供が生まれたら、小さいうちは領地の学校に通ってみるのもいいかもしれないな、なんて考える。
ハミルトン伯爵領の教育水準は高いし、これからもっと上げていきたいと思ってるしね!
……と、そこまで考えてハッと我にかえった。
私ったら! 気が早過ぎる上に、この非常事態に考える事じゃないでしょコレ!?
誰に聞かれた訳でもないけれど、あまりの恥ずかしさに一人で顔を真っ赤にして慌てていると、頭上から砂の様な物がパラパラと降って来た。
「……え?」
塔を見上げた私の目に、煌々と天から降り注ぐ光と、崩れてゆく壁がうつる。
「ええーー!?」
ガラガラと落ちて来る瓦礫に驚愕していると、クンツとカイヤがすかさず瓦礫を吹き飛ばして守ってくれた。
うちの
いや、そんな事より一体上で何が起こっているの? 旦那様達は無事!?
塔の上からの瓦礫は、丁度塔の入り口に陣取っていた騎士達の頭上にも降り注いでいる様で、辺りはちょっとしたパニック状態になっている。
……予定とは少し変わるけど、この隙に中に侵入しちゃうとか?
私が何とかこの状況を活用できないかと頭を捻っていると、さっき塔に向かって飛んでいったはずのフォスが、今度は凄い勢いで塔の上から飛んで来た。
『アナ! 大変、大変!!』
「フォス!?」
『アナへのメッセージを、ユージーンが開いちゃって大騒ぎになってるの! とにかく早く来て!!』
「え? え? ええっ!?」
全くもって意味が分からず混乱している私をよそに、何故かクンツとカイヤはすぐに事態を理解した様で話しだす。
『とにかく急ぐなら、アナを直接ここから飛ばした方が早いね!』
『うん、上にユージーンも仲間の精霊達もいるし何とかなるよ!』
……おいおい、君たち何をなさるつもりだい?
『アナ、ちょっと怖いかもしれないけど、安全性は保証するから我慢してね』
『僕も一緒に飛ぶから大丈夫だよー!』
『上でユージーンも待ってるからね!』
いや、せめて説明……説明を……!
『『『それではー…………ドッセーーイ!!』』』
「きゃぁぁあぁぁあーー!!??」
突き上げる様な爆風に煽られ、私の身体が凄い勢いで飛び上がる。
物凄い風圧と、どんどん遠ざかる地面、流れる景色。今の気持ちを何とか言葉で表すのならば『超絶コワイ』の一言だ。
あっという間に塔の一番上まで身体は飛ばされ、壁が崩れた所から塔の中が見える。
そこには、必死に私に向かって手を伸ばす懐かしい姿が……
「アナーーーー!!」
「旦那様!!」
私も旦那様に向かって必死に手を伸ばす。
……が、あまりに勢いの強い風に乗っている私の身体は旦那様の手をすり抜けて更に上へと飛ばされてしまう。
『ありゃ、飛ばし過ぎちゃったね。アナごめーん!』
一緒に付いて飛んでくれると言っていたクンツの声がしたかと思うと。
今度は一気に私の身体が落下し始める。
荒っぽい! 荒っぽいよー!!
心の中で泣きながら、舌を噛まない様に歯を食いしばって落下感に身を任せていると、ガッ! と誰かに抱き止められた。
いや、誰かなんて決まってる。
この感覚を、温もりを。
私が間違える訳がない。
「旦那様!!」
やっと、やっと会えた旦那様に。
私は、力いっぱい抱き付いた。
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