第46話 《一方その頃の旦那様⑦》ペンダントの導き

(Side:ユージーン)


「ごめんな、イルノ。こんな大切な事を忘れていたなんて……」

『いいよー!』


 溢れて来る涙をようやく止める事が出来た私は、自分の手のひらに乗っている小さな精霊にそう謝った。


 一方のイルノは、まるでそんな事はなんて事ないかのように笑って許してくれる。


 不思議そうに様子を見ていた子魔狼と精霊たちが、ゆっくりこちらに近付いて来た。


『ジーン、お友達沢山! 良かったねー』


 ああ、そうか。

 イルノにとって私は、一人寂しそうに自分を探していた、あの子供の頃の私のままなのだな?


「ああ、ここにいる皆の他にも、助けてくれる友達が沢山出来たんだ。そうだ! 結婚もして、素晴らしい伴侶も得たんだぞ!」


 嬉しくなって、イルノに結婚したことも報告する。


『結婚知ってる! アナ!』


 楽しそうにクルクル飛ぶイルノの言葉に驚いた。

 何故イルノがアナの事を知っているのだ?


「イルノ、アナを知ってるのか?」

『知ってるよー! だって一緒に……あ』

「うん?」


 クルクル飛んでいたイルノがぴたりと止まる。

 そして、しおしお……と私の手のひらに戻って来た。


『ごめん、ジーン。アナ置いて来ちゃった』

「んなっ!??」



 イルノの一生懸命な、けれどもつたない説明に寄ると、何とアナとイルノは一緒にこの近くまで私を探しに来ていたらしい。


 アナが私を探しにこんな森の中まで……!


 嬉しさと不甲斐なさで胸がぎゅうっと締め付けられる。今すぐアナに会いたい。


 クッ、外の状況は一体どうなっているんだ?


 イルノによると、アナの側には精霊トリオと魔導士の女性が一人いるらしい。

 カーミラ王女殿下か?


 その面子なら滅多な事は無いだろう。

 むしろ、そこらの騎士なんて余裕で蹴散らしてしまいそうだ。


 とはいえやはり心配で、ウンウンと考え込んでいると、最初に助けてくれたあの精霊に声をかけられる。


『あのね、ユージーン。塔に着いた時くらいから気になってたんだけど、服の中、光ってるの。それ、だいじょうぶ?』


 服の中? ……もしやペンダントか!?


 言われて、慌てて服の中に隠していたペンダントを覗き込む。


 ……確かに、光ってるな。


 言われなければ気が付かないくらいだが、確かにペンダント自体が微かに発光している。

 服の中で淡く輝いているペンダントを急いで引っ張り出すと、その光は真っ直ぐに、塔を登る階段の方へと伸びていった。


 階段を、登れという事……か?


 本来であればもっと用心深くなるべきなのかもしれない。

 しかし、このペンダントはアナの両親がアナを守る為に託し、そしてアナが私にお守りとして持たせてくれた物なのだ。信じたい気持ちが強い。


『どうする? ユージーン?』

「ああ。……行こう」


 覚悟を決めて階段を登る私に、子魔狼もイルノも他の精霊たちも付いてくる。

 長い長い階段を、ペンダントの光に導かれる様にゾロゾロ登って行くと広いフロアに辿り着いた。


 何もないガランとした部屋だが、四方に窓が付いていて、そこから外の様子が見える様になっている。


「……! やはり追っ手に見つかってしまった様だな。塔の外に騎士の姿が見える」


 この近くにアナがいるのか?

 危険なのではないか?


 追い詰められた状況の自分を棚に上げてアナの心配をしていると、木々の間をチラリと金色の何かが通った。


 —— アナ!!


 間違いない、アナだ。

 私がアナの色を見間違えるはずがない。


 思わず窓から飛び降りたい衝動に駆られたが、もちろんそんな事をしても状況が悪化するだけだ。


 何か……何かないのか!?


 壁をバンバン叩きながら調べていると、ある方角の壁に近付いた時だけペンダントの輝きが大きくなる事に気が付いた。


 この壁に、何かあるのか!?


 丁寧に指でなぞっていくと、目では分からない程の薄らとした模様が壁に彫り込まれている事が分かった。

 模様の大きさは、丁度ペンダントと同じ位の大きさだ。


 これは、もしかすると……。


 首にかけられたペンダントを、そっと持ち上げ壁に近付ける。

 ペンダントはまるで壁に吸い寄せられるかの様にピタリと合わさり、そして ——



『ジーン、危ない!!』



 目も絡む程の眩い光が部屋の中を埋め尽くしたかと思うと、何とペンダントを嵌め込んだ側の壁がガラガラと崩れ落ちていく。


 壁が崩れるのに巻き込まれない様にとペンダントをしっかりと握りしめた私は、みっともなくその場に尻もちをついてしまった。

 

 かけ寄ってきた子魔狼を守る様に抱きしめ、呆然と崩れてゆく壁を見つめる。



『やっと会えましたね……。私の可愛い子』



 空から降り注ぐ光の中、柔らかく響く優しい声と共に、ゆっくりと人影が降りてくる。



 —— まさか、お母様……!?



 息を呑む様にして、その人影が光の中から姿を見せるのを待つ。


 そして、ようやく目にうつったその顔は……

 



 —— 全然知らない人だった。

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