第45話 監視塔への突入大作戦

  

 イルノ、行っちゃったよ……。


 突然イルノが消えてしまい、残された私は呆気に取られてその場に立ち尽くしていた。


「ねぇ、ちょっとどうしたの? 大きな声出さないでよ」


 私の様子に驚いたクリスティーナが小声で話しかけてくる。


「ご、ごめん。案内してくれてた精霊が……消えちゃって」

「はぁ!?」

「いや、消えたって言っても、場所を移動したってだけで消滅したとかそういう訳ではないんだけど……!」


 言いながら気付く。

 そう、イルノは場所を移動しただけだ。


 置いていかれたのはちょっと……、いや結構困るけども、大体の場所は伝えて貰っている。

 こうなったら自力で旦那様の元に辿り着くしかない。


「とりあえず監視塔はもう見えてるんだし、騎士達に見つからない様にもう少しだけ近付いてみようか?」

「……そうね」




 そろりそろりと慎重に塔の方へ進んで行くと、まだ結構距離はあるのに騎士達の話し声が聞こえる様になって来た。


 不思議に思っていると、カイヤが風を操って声を運んできてくれているんだと説明してくれた。こんな事まで出来る様になっていたなんて驚きだ。

 


「……ったく、いつまでこんな所にいないといけないんだか」

「まぁ、逃げた伯爵はこの塔の中にいるんだろ? もう時間の問題だろ。袋の鼠ってやつだな」


 

 ……旦那様が、この塔の中に!?



 思わず塔を見上げると、フェアランブル側の監視塔はアウストブルク側のものよりもっと古そうに見えた。そしてやっぱり、何か不思議な魔力みたいな物を感じる。


『ねぇアナ、この塔、なんか精霊の力を感じるよー』


 私のドレスのリボンに隠れていたクンツがそう言って顔を出す。

 クンツもそう言うなら、これは勘違いじゃ無さそうだ。


 フェイラー辺境伯領は、昔フェイヤームがあった場所だ。

 そこに精霊の力を感じる塔。

 これは、ただの監視塔ではないのかもしれない。



 私が塔に気を取られている間に騎士達に動きがあった様で、塔の前に何だか偉そうな人物が現れて、何やら話をしている。


 私は風にのって聞こえて来る話し声に耳をすませた。


「ユージーン様には、我々の悲願を叶える為にも是非とも協力して頂かなければなりません。まずは私が行って説得して来ましょう。それでも駄目ならあなた達の出番です。力ずくでも神殿にお戻り頂きます」


 ……!


 随分と勝手な事を言っているのが聞こえてくる。

 我々の悲願だか何だか知らないが、旦那様を力ずくで連れ去ろうなんて不届千万だ。



 ……どうしよう。何とかしてあっちより早く塔の中に入る方法は無いかな?



「ねぇ、何とかあそこの騎士達に気付かれない様に塔に入る方法はないかな?」

 

 精霊トリオにこそっと相談してみる。


『うーん、僕たちだけならどうとでも出来るけど……』

『バゴーン! と壁壊す?』

『風でブワーッと飛んで、屋上側から入るとか?』


 いや、目立つ目立つ目立つ。



「……私が騎士達の気を引いて陽動してあげるから、その隙に中に入れば?」


 クリスティーナがボソリとそう言う。


 く、クリスティーナがそんな事言う様になるなんて!?


 この一年で随分と考え方とか色々変わったんだな、と思わず驚愕の表情でクリスティーナを見つめてしまう。


「そ、そんなに驚かなくてもいいでしょ!? 私はただ、あの、そう! あの騎士達が気に入らないからちょっと邪魔してやりたいのよ!」



 ……やはりツンデレか。


 私自身はクリスティーナの更生を強く望んでいた訳ではないけれど、お義兄様は違う。


 きっと今のクリスティーナを見たらとても喜ぶだろう。私のお父さんによく似たあの笑顔を、また見せてくれるかもしれないな。

 そんな事を考えて少しだけホッコリする。


 ……いや、ホッコリしてる場合じゃないけど。



『アナは、誰にも危ない目にあって欲しくないんだよね? それなら僕にいい考えがあるよ』


 私とクリスティーナの様子を見て、カイヤが言う。


『今、塔の中にはユージーンが連れて来た精霊たちが沢山いるみたいだからね。僕たちの誰かがコッソリ中に入って、その精霊たちを全員引き連れて一気に塔を飛び出すんだ。騎士にイタズラし放題って言ったら、みんな喜んでイタズラするよ?』


 カイヤはにやりと笑うと、『僕もするしね』と付け足した。

 こいつは脱毛待ったなしだ。



『それなら、僕が適任でしょうー! バビュン!っと行って来ちゃうよ!』


 と、フォスが張り切った声を出す。


『アナは、精霊たちが飛び出して来たタイミングで、逆に塔の中に飛び込むんだ。出来る?』


 カイヤに聞かれ、覚悟を決めて私も頷く。


 色々心配はあるけれど、とにもかくにもまずは旦那様と無事に合流したい。

 


『塔から精霊達と飛び出した後は出来るだけ騎士を引っ掻き回すから、アナはその隙にユージーンを連れて塔から逃げてね!』

「分かった! 辺境騎士団は精霊対策もしてるかもしれないから、みんなもくれぐれも気を付けてね」



『『『ラジャー!!』』』



 よし、いよいよ旦那様に会えるんだ!!

 待ってて下さいね! 旦那様!!

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