第43話 再会目前のお邪魔騎士団

「ティナ! このまま真っ直ぐ突っ切って、フェアランブルの領内に突入するよ!!」

「はぁ!?」

「大丈夫、精霊達が守ってくれるから。私から離れない様に一緒に走って、もし危ないと思う事があれば、自分の身を守るために魔法を使って!」


 それだけ言うと、私は全速力で犬の唸り声が聞こえる方へと突っ込む。


 向こうもまさかこちらから突っ込んでくるとは思わないだろう。

 

 先手必勝!



「ちょ、ちょっと! 嘘でしょ!?」


 クリスティーナも慌てて私を追ってくる。

 

 ドレス姿というハンデを背負っているとはいえ、すぐクリスティーナに追い付かれたのは軽くショックだ。



 ……帰ったら、私も旦那様と一緒に筋トレしようかな……。



 ふとそんな考えが頭をよぎった時、目の前の藪から黒い影がガサッと飛び出して来た。


 —— お、大きい!!


 『軍用犬』とクリスティーナが言っていたその犬は、私が知っている犬の、ゆうに二倍はあろうかという大きさだった。


 グルルル……と低く唸り、敵意と牙を剥き出しにするその様子に思わず怯みそうになったけれど、精霊トリオを信じてそのまま真っ直ぐ駆け抜ける。


 グワっと飛びかかってきた軍用犬が、精霊トリオの巻き起こした風に飛ばされて地面に叩きつけられた。

 キャインッという鳴き声を聞くと少し可哀想な気もするけど、こちらも手加減できる様な状況ではない。


『近付かなければ攻撃しないよ!』

『こっち来ないでー!』


 カイヤとクンツがわざと外した所に電撃を落として威嚇して、それでも襲いかかって来る軍用犬をフォスが風で薙ぎ倒す。


 その間を私とクリスティーナが駆け抜け、気が付けば私達を追ってくる犬はいなくなっていた。


 何匹かは反対方向へ逃げて行ったので、恐らく主人に私達の事を伝えに戻ったのだろう。


 私達の存在がバレるのは時間の問題だ。



『アナ、ジーンあっち! でも、そっち他の人間もいる。いっぱい!』

「そんな……!」


 イルノが示すのは、フェアランブル側の監視塔がある方角だった。

 他の人間というのは、恐らくさっきの軍用犬を放った辺境騎士団だ。


 せっかく後少しで旦那様に会えそうな所まで来たっていうのに……!


 なんてお邪魔な辺境騎士団め。


 夫婦の間を裂こうとする人間なんぞ、精霊に蹴られてしまえばいいと思う。



「とにかく、出来るだけ見つからない様に旦那様の側まで行きましょう。いざとなったらまた強行突破で、旦那様を連れて逃げるしかないわ」



 私達がコソコソと塔に向かって歩いていくと、確かに騎士らしき人間が遠くに見えて来た。


 みんな白っぽい鎧を身に付けているけど、あれが辺境騎士団なのかな?



「お義姉様、あれ、多分正規の辺境騎士団じゃないわ」

「え?」


 私が騎士団について考えていたのと同じタイミングで、クリスティーナがそう私に耳打ちする。


「……何人か、見覚えのある顔の騎士がいたの。あれは公爵家の私設騎士団をクビになった騎士よ」

「!!」


 フェアファンビル公爵家では、お義兄様に代替わりする際ほとんど全てと言っていい程使用人を入れ替えた。

 そしてその時、私設騎士団の騎士もかなり入れ替えたのだ。


 具体的に言えば、私のペンダントを奪って魔石を割った騎士などはお義兄様が真っ先にクビにした。


 ザマーミロである。


 残念ながら私設騎士団は風紀が乱れまくっていたそうで、公爵の命令の有無に関わらず結構悪どい事もしていたらしい。

 クビになるだけでは済まず逮捕された者もいると聞いた。



「他所で問題を起こしてクビになる様な騎士まで集めてるって事? ……穏やかじゃないわね」

「どうするの? これ以上近寄ればさすがに見つかるわよ?」


 クリスティーナにそう問われ、どうしたものかと頭を悩ませる。



『僕たちの誰かが、ユージーンを見つけて来ようか? 場所がしっかり分かれば合流しやすいし、ユージーンにアナが来た事を伝えられるよ!』


 私が悩んでいるとクンツがそう提案してくれた。

 多分、それが一番いいんだと思う。


 ……でも、辺境伯領の人間もきっと精霊慣れしている。

 ここで別行動して精霊トリオの身に何かあったらと思うと、どうしても心配になってしまう。



『……あ!』



 ふいにイルノの声がしてそちらを見ると、何故かイルノがほんわりと少し輝いている。



『ジーン! イルノ、思い出してくれた!!』

「えっ!?」



 イルノは嬉しそうにパタパタ飛び回るとこう言った。



『今なら、ジーンのとこ行ける。イルノ、行ってくる!』

「えっ、嘘!? ちょ、さすがに今はちょっと待ってイルノ! イルノーー!?」



 イルノはそのままクルクルっと回ると、あっという間にポンッと姿を消してしまった。



 —— そして、後にはイルノという道案内を失った私達がポツンと残されたのだった。

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