第42話 いざ、中央突破!!

 監視塔の事は気になりつつも、今は寄り道をしている場合ではないのでそのまま横を通り過ぎる。

 

 何だろう? やっぱり塔から不思議な魔力みたいな物を感じる気がするんだけど……。


 落ち着いたら王女殿下に詳しい事を聞いてみようかな? なんて考えながら進んでいると、ふとある事に気が付いた。


「ねぇ。そういえば、イルノが森には仲間がいるって言ってたけど……さっきからみんな以外の精霊を全然見かけなくない?」


 私が不思議そうに聞くとカイヤが答える。


『うん、それなんだけどね。どうも《精霊避け》の魔道具が使われたみたいだね』


『カーミラの書』にも書いてあった対精霊用の魔道具か!


「それって、どう考えても私対策だよね?」

『どうかなー? カーミラに対してって可能性もあるんじゃない?』


 クンツが首を傾げながら答える。


 あ、そうか。王女殿下も精霊使いだし、何なら私より余程名前も顔も売れているのだ。

 そっちの方が可能性として高いか?


『いや、辺境領の反領主派と繋がっている人間なら、アナの事も当然調べてるだろうからね。やっぱりアナ対策じゃないかな。それが分かってるから、リアは僕たちにを貸してくれたんだよ、きっと』


 そう言ってカイヤは自分が結んでいる薄紫のスカーフをヒラヒラさせる。


 なるほど、流石リアちゃん先読みが凄い。


「それを付けてるから三人には魔道具の効果がないって事? イルノはスカーフ付けてないけど大丈夫なの?」

『大丈夫、ない。くしゃい』


 く、臭いんだ、可哀想に。

 何か害虫避けとかみたいだな?



『アナー! 大変、大変!』

「どうしたの? フォス?」


 先程カーミラ王女殿下への報告の為に飛んでいったフォスが、慌てて戻って来た。

 私に無事会えた事、クリスティーナが何故か一緒な事、吊るされた騎士がいる事などを伝えに行って貰ったのだ。


 空を飛ぶスピードは、精霊トリオの中でもフォスがダントツだからね。


『ついでに、森の中もビューン! と偵察して来るからね!』


 と張り切っていたので、くれぐれも危ない事をしない様に言っておいたんだけど……。



『森の反対側から、騎士が沢山森に入って来てる! 多分あれ、辺境騎士団ってやつじゃない!?』

「! 大変、早く旦那様を見つけないと!」


 カーミラ王女殿下は『アウストブルクの騎士がフェアランブルに入る訳には行かない』って言ってたけど、裏を返せば、旦那様を連れてアウストブルクへ逃げ込んでしまえばフェアランブル側は追って来れない、という事だ。


「イルノ、急ごう!」

『うんアナ、こっち!』


 森でさっきみたいに走り回るのは危ないけれど、イルノについて小走りで奥へ奥へと進んでいく。



「何? 精霊が何か言ってるの?」


 文句も言わずに小走りに付いて来ていたクリスティーナがそう聞いてきたので、驚いて振り返る。


アウストブルクこっちで暮らすようになって一年近く経てば、流石に精霊の話くらい聞くわよ。アナタには見えてるんでしょう? 精霊」


 この状況で隠しても仕方がないので曖昧に頷くと、クリスティーナは半ば呆れた様な諦めた様な何とも言えない表情でため息をついた。


「ティーポットを割ったり、私にワインを浴びせたのも精霊の仕業って訳ね……。完全に負け戦じゃない」

「いや。あれは完全にクリスティーナが悪かったよね!」

「…………」


 こんな所で種明かしって訳でもないけれど、後から知ったクリスティーナにしてみれば、『そんなん勝てるか!』状態ではあるだろう。


 まぁ、自業自得だからしょうがないよね。


 私も精霊の力は降りかかる火の粉を払う時位にしか使ってないし。……多分。



 グルルルル……


 そんな話をしながらも森を進む私達の耳に、前方から低く唸る様な声が聞こえて来た。


「魔獣!?」

「いえ、これは犬の声だわ。軍用犬まで投入するなんて、何が何でもお義姉様たちを捕まえたいってわけね。最悪」


 そう言ってクリスティーナは杖を構えた。


『うーん、人間に調教されてる動物は話が通じにくいんだよね』

『どうする、アナ? 逃げちゃう?』

『えー、逃げても追いかけられるだけだよー。強引に中央突破しちゃおう!』



 …………。


 時間はない。


 フォスの言う通り、逃げても追われて騒ぎになれば、みすみす敵に居場所を教える様な物だろう。


 ならば、ここは……。



「よし! 中央突破、行きましょう!!」

 

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