第41話 ティナの事情
「ねぇ、探してる人ってハミルトン伯爵?」
私がカーミラ王女殿下にする言い訳を考えながら精霊トリオとの再会を喜んでいると、騎士を吊るし終えたクリスティーナがぶっきらぼうに聞いてきた。
「そうよ」
「……そう」
あ!
こっちは旦那様の事が心配で心配で、朝ご飯も残さず食べるのが精一杯だったっていうのに。
「ちょっと! ホッとした顔しないでよ」
「!」
私にそう指摘されたクリスティーナは、驚いた顔をした後、気不味そうに下を向いて何やらボソボソ言っている。
「……悪かったわよ。『カーミラ王女殿下の関係者』としか聞いてなかったから、お兄様かと思ったの」
『げっ! クリスティーナじゃん!?』
『本当だー! なんでここにー?』
『大丈夫だった、アナ?』
小声で何か言ってるな、と思った時、丁度クリスティーナに気が付いた精霊トリオがわぁわぁ騒ぎ出したせいで何を言ってるかほとんど聞き取れなかったんだけど……まさか、『悪かった』って言った?
……まさかねー。
とりあえず、私を心配して周りをパタパタ飛び回っている精霊トリオに先程までの出来事を説明する。
「……という訳で、非常に不本意ながらクリスティーナに助けられたみたい、です」
『『『マジで!?』』』
「うん」
精霊トリオが驚くのも無理はないけど、クリスティーナの方も私を見て怪訝な顔をしている。
精霊が見えないクリスティーナからすれば、さっきから私が盛大な独り言を言っている様に見えているのだろう。
『アナ、はやくはやく!』
イルノに
イルノには何となくだけど旦那様のいる方角が分かるらしい。羨ましいな、その力。
私達は、足元の悪い森の中を草を掻き分ける様にしてさらに奥へ進んでいった。
結局クリスティーナも付いてきたんだけど、そもそもクリスティーナは何でこんな所にいたのだろうか?
気になるので、歩きながら聞いてみる。
「ねぇ、何でクリスティーナはこんな所にいたの? 魔導士団員なの?」
「まさか。一年やそこらで魔導士団になんて入れる訳ないでしょ? 私はまだ学生よ」
「学生?」
「魔導士養成学校の学生。三日前から野外演習で魔の森に来てたのに、昨日の夜、急に演習を切り上げるって知らされたの」
魔導士養成学校……。
クリスティーナが国外に出されたと聞いた時は、お義兄様にしては随分思い切ったな、と思ったのだけどそういう事だったのか。
「詳しい事は知らされなかったけど、騎士団は来るわ魔導士団は来るわでかなりの大事みたいだったし、『カーミラ王女殿下の関係者が森で行方不明になってる』って聞いちゃって。お兄様じゃないかと思ったら気が気じゃなくて、こっそり様子を見に行ったの。そうしたら……」
騎士に追われた私が、森に逃げ込むのを目撃したって訳か。
ん? ……って事は、つまり……。
「私を助けようと思って、追いかけてくれたの?」
「は!? か、勘違いしないでよね! お兄様が心配だっただけなんだから!」
話から推測すると明らかに私を助けに来てくれたのに、真っ赤になってプイッと横を向くクリスティーナ。
これはまさか、……ツンデレ?
ただでさえ見た目は文句なしの美少女、優しく嫋やかな令嬢(外ヅラ)でお馴染みだったクリスティーナに、更にツンデレ属性と魔導士属性がプラスだと!?
なんて男ウケしそうな人材なんだ。
周りの男子大丈夫かコレ?
「クリスティーナ、恐ろしい子……」
「だから、今はティナよ。誰かに聞かれると困るんだから、そのクリスティーナって言うのやめてくれない? 私の事より、そっちの状況を説明してよ」
クリスティーナにそう言われ、今度は私がこちらの状況を簡単に説明した。
旦那様のお祖父様お祖母様にお会いする為にアウストブルクへ来た事。旦那様が拐かされて、そこから逃げたらしい事。今はこの森のどこかにいるはずだという事。
「そう。ハミルトン伯爵も災難だったわね」
クリスティーナがそう言った後、二人の間に何となく沈黙が流れる。
私が気を使う必要は全く無いのだが、何となく気不味くてキョロキョロしていたら、前方に塔の様な古い建物があるのが目に入った。
「あれ、何だろう?」
「ああ、あれは監視塔らしいわよ。今は使ってないけれど、森の中の国境を挟んでフェアランブルとアウストブルクのそれぞれに建ってるらしいわ」
なるほど、国境を監視する為の塔か……。
今は使われてないらしいけど、なんかちょっと気になるな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます