第35話 両親の行方

『うーん、でも精霊界に帰らずによく十年以上も消えずにいられたね』


 私と一緒にはいたけど、今まで口を挟まずに話を聞いてくれていたカイヤが首を傾げる。


 私にはよく分からないけれど、カイヤがそう言うという事は、通常はもっと頻繁に帰らないと精霊は魔力がもたないという事なのだろう。



『ターニャ、助けてくれたの』

「お母さんが?」

『はくしゃくの所、ターニャ遊びにくるの。イルノに、魔力わけてくれた』


 一生懸命に説明してくれるイルノがすごい可愛いけれど、残念ながら内容はあまり要領を得ない。


「タチアナ様は時々ハミルトン伯爵領へ立ち寄って下さっていたから、その時の事かしら? 幼い頃のアナスタシア様も一緒に来られていたのですよ。私がアウストブルクへ居を移してからはそれも叶わなくなってしまったのですが……」


 そうナジェンダ様が教えてくれる。

 そういえば、確かに小さい頃はお父さんとお母さんと一緒に旅行に行く事があった。


 その中に、精霊さんが沢山いて大好きになった場所があったはずだ。可愛いお花が沢山咲いていて、パンが美味しくて……。


 あれは、今思えばハミルトン伯爵領だったんだ。


 ん? あれ? ……て事は、待てよ?



「あーー!!!!」


「うおっ、ビックリした! 何だアナ急に!?」

「お、おじ様! 私、子供の頃に旦那様に会った事あります!!」

 

 あれは確か、私が五、六歳頃の事だったと思う。


 両親に連れられて旅行に出かけて、精霊さん達と花畑で遊んでいた時に、少し歳上のお兄さんに優しくして貰った事があった。


 さらさらの緑色の髪の、すっごくカッコいいのに発言がちょっと残念なお兄さんだった。


 あれ、絶対旦那様だーー!! 

 今思えばすごい旦那様っぽい言動だもん!


 あの時貰った四葉は、ちゃんと栞にしてとっていた位嬉しかったのにすっかり忘れていた。

 公爵家に引き取られた時に私の私物はほとんど処分されちゃったから、多分もう無いと思うけど。


 うわぁ、何でこんなタイミングで思い出すかな……。


 ただでさえ心配で恋しくてすぐにでも旦那様に会いたかったのに、ますます顔が見たくなって胸がキュウっと痛い。



「そうか、確かにアナとユージーンが顔を合わせていてもおかしくないな」


『ひゅー! 運命的ぃ!』


 いつの間にか近くにいたフォスが冷やかしてくる。


 私、ちょっとしんみりしてるっていうのに通常運転だな、君は!?



『ターニャ、魔力わけてくれる。かわりに、約束』

「約束?」

『消えないように、約束。アナ泣いてたら、イルノ、アナたすけるの』


 お母さんが、魔力を分けてあげる代わりに私が泣いてたら助けてあげてねって、イルノと約束してたって事?


「契約と約束は違うの?」

『ちがうの』


 イルノの説明だけでは理解できず、困った様にナジェンダ様を見たけれど、ナジェンダ様も首を横に振る。


「残念ながら、私にもよくわかりませんわ」


 とにかくまとめると、旦那様とイルノは子供の頃に仲良しで仮契約の状態になっていたけど、旦那様のお母様が旦那様と精霊の関わりを断ってしまったと。


 で、魔力を貰えなくなったイルノは精霊界に戻らないと消えちゃうのに旦那様が心配で帰れなくて、そこをお母さんに助けられて、代わりに私が泣いてたら助ける約束をした。


 そういう事でいいのかな? 

 後でカイヤあたりに聞いて、詳しく確認しておこう。



 あれ? でも、それならなんでイルノは消えかかってたの?


 ……お母さんは?


 イルノの、ターニャは大丈夫だという言葉を信じていたからこそ、今まで頑張ってこれたのだ。

 何だか嫌な予感がして動悸が激しくなる。



「イルノ、なんで魔力が足りなくなってたの?

 ……お母さんはどうしたの?」




『ターニャ、精霊の国、かえっちゃった』



 ……。


 …………。


 ………………。



「「「え、えぇーーーー!!??」」」


 

 あまりに予想外な答えに、一瞬頭が真っ白になる。

 おじ様とナジェンダ様も、想定外の展開に口があんぐりだ。



「え、あ、じゃあ! お、お父さんは!?」

『エドも、いっしょ!』



 お父さーーん!?



 え、嘘でしょ、

 娘置いて二人で精霊界行っちゃったって事!?

 私に何も言わずに!!??



 あまりのショックに、その場にガーンと立ち尽くす。



『アナ、イルノげんき。ジーンのとこ行きたい』



 イルノの声にハッと我にかえる。

 そうだ、両親の事はもちろん気になるけど、今優先すべきはそちらではない。



「おじ様、ナジェンダ様、私も旦那様を助けに行きたいです。辺境伯領について、分かる範囲の情報を全て下さい」




 よし、兎にも角にも、まずは旦那様の救出だ!!




~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 本日もお読み頂きありがとうございます!


 お気付きの読者さまもおられると思いますが、今日の話にあったユージーンとアナの過去のエピソードは、前作『ビジネスライク~』の番外編、『雑草魂誕生秘話?』のものです。


『まだ読んでないよ!』や『そんなのもう忘れたな』という読者さま。宜しければ是非そちらも覗いてみて下さい(^ ^)/


 そして、お知らせついでにもう一つ。


 ただ今カクヨムにて開催中の『この男’s(メンズ)の絆が尊い! 異世界小説コンテスト』に応募するべく、先週末からひっそりと新連載をはじめております。


 もしご興味とお時間に余裕がおありでしたら、こちらも覗いて頂けると、作者が小躍りして喜びます(*´∇`*)


作品はコチラ⬇️⬇️⬇️

『僕にはやんごとなき御身分のストーカーがいます。しかも増えてます。』

https://kakuyomu.jp/works/16818093073245103562


 よろしくお願いします✨

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る