第20話 アウストブルクの国力
「お、奥様、こんなに大きな物がほんとに飛ぶんでしょうか?」
マリーが私にコソコソと
フェアランブルの王都を出発して五日。
アウストブルクとの国境まで移動した私達を待ち受けていたのは、最新鋭の『魔導飛空挺』だった。
空飛ぶ乗り物は気球しか見た事のない私にとって、飛空挺なんて物語に出てくる乗り物だ。
カーミラ王女殿下に促されて乗り込んではみたものの、私もマリーも緊張でカチンコチンになってしまう。
「二人とも、そんなに緊張しないで? 高い所は平気なのでしょう?」
「……高い木や家の屋根には登ってましたので、高い所は平気だと思ってたのですが、まさか飛ぶとは……」
私がそう答えると、王女殿下がクスクス笑う。
「私も木に登った事はあるけど、流石に屋根は無いわね。ふふっアナはお転婆さんだったのね」
いや、王女殿下が木に登る方が凄くない?
「私は両方ありますよ! 屋根の上ってお芋を干すのに丁度良いんですよね」
ダンセル男爵家も凄いな!
ご令嬢がそんな事までするの!?
ここにいるのは王女と伯爵夫人と男爵令嬢のはずなのに、全員木に登れるとはコレ如何に?
……そんな話をしている間にも飛空挺はどんどんと上昇していく。
うわー、ホントに飛ぶんだ!
「飛空挺なら王都まで二日もあれば着いちゃうわ。フェアランブルからこの飛空挺が使えれば三日で移動できるんだけど、さすがに他国の領空を飛び回る訳にはいかないものね」
確かに、こんな大きな飛空挺が空に浮かんでいたら、フェアランブルの国民は恐慌状態に陥りそうだ。
「アウストブルクでは、飛空挺も一般的な交通手段なのですか?」
「一般国民にはまだそこまで普及していないけれど、王家や貴族はよく使うわね。契約を結んでいる同盟国とは空路での行き来もしているから、他国へ行く時や、国内でも長距離の移動の時は国民も飛空挺を使うわよ」
「他国と、空路で行き来を……!」
「ええ、特に海を挟んでいる同盟国へ移動する時はとても便利なの」
それはもちろんそうだろう。やばいな
窓の外には綺麗な空が広がっている。
飛空挺が非常に安定して飛んでいる事もあり、段々と緊張が薄れて景色を楽しむ余裕が出てきた。
見下ろすと、そこには大きな森が広がっている。フェアランブルとアウストブルクの国境にある大きな森、通称『魔の森』だ。
ここを馬車で抜けるのは中々に難所らしく、通常は迂回するので余計に時間がかかるのだ。
「……旦那様が追いかけて来る時は、大丈夫でしょうか?」
森を見ながら私が尋ねると、王女殿下が笑顔で答えてくれる。
「もちろん、ハミルトン伯爵が国境付近まで来たら迎えの飛空挺を出すから、心配いらないわ」
「! ありがとうございます!」
何から何まで本当に申し訳ないが、ここはありがたくお世話になろう。
旦那様も、今頃は私を追いかけて馬車で移動をしているのだろうか?
……早く会いたいな。
飛空挺の中には個室も沢山あって、まるで空飛ぶ高級
ちなみにマリーの部屋はすぐ隣りだ。
専属侍女として国まで越えて付いて来てくれたマリーを、王女殿下もまるで客人の様に接してくれていた。
マリー本人はあくまで使用人として振る舞っているけれど、マリーを大切に思っている私としては王女殿下の気遣いがとてもありがたい。
『ねぇねぇアナー! 僕この飛空挺と競争したけど、僕の方が断然早かったよー!』
『僕は動力部を見て来たよ。これだけ大きな物を魔力で動かすんだから凄いよね』
『お菓子もおいしかったー!』
精霊トリオもそれぞれに飛空挺を楽しんでいた様で何よりである。
——— そして翌朝。
王女殿下が言っていた通り、飛空挺は王都のすぐ近くまで進んでいた。
窓から進行方向を見ると、遠くにお城の様な物も見える。
「そろそろ飛空挺から降りて、馬車で王都を案内しながら王城へ向かうわね!」
飛空挺が着陸すると、王女殿下に促されドキドキしながら地面に降り立つ。
ああ、もうここは他国なんだ。
飛空挺に乗っている時から入国はしていた訳だが、やはり地に足をつけると実感が湧いて来る。
「カーミラ!」
飛空挺を出迎える為に沢山の人が並んで待っていてくれた様なのだが、その先頭にいた黒髪の男性がカーミラ王女殿下に駆け寄って来た。
艶やかな黒髪に、アメジストを思わせる紫色の瞳。しっかりと鍛えられた体躯に、凛とした佇まいからは只者ではないオーラを感じる。歳の頃は40代位か? かなりのイケおじである。
「あら、お父様!」
ああ、王女殿下のお父さんか。
……。
…………って国王!!
う、うそ!
国王陛下自らお出迎えーー!?
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