第12話 私と旦那様の朝とフェイラー辺境伯家の噂
夜会の翌朝。
眠りについたのが遅かった分、目覚めた時にはもう随分と日が高い所まで昇っていた。
すっかり馴染んだ温もりに包まれてまどろんでいると、旦那様の寝息がスースーと聞こえてくる。
……! 旦那様まだ寝てる!!
パチっと目を開けると、私は旦那様を起こさない様にそーっと顔をあげて、まだ寝ている旦那様の顔を覗き見た。
久しぶりに見る旦那様の寝顔、
……イイ!!
美形は寝ていても絵になる。
はぁー、まつ毛長い、鼻高い、肌キレイ、首筋から鎖骨にかけてのラインが……
いかん、これ以上は破廉恥だ。
結婚当初は寝起きが悪いと思っていた旦那様だが、最近はすこぶる目覚めがよく、いつも私より早く起きてしまうのだ。
何でも、以前寝起きが悪かったのは熟睡出来ていなかったかららしい。
今は、すっかり習慣化した筋トレと、私という抱き枕をゲットしたお陰で睡眠の質が劇的に向上し、目覚めも爽やかという訳だ。
当初は私も旦那様の寝顔が見たくて早起きしてやろうと画策したのだが、そうすると旦那様も私より早起きしようと作戦を立て、意味不明の早起き合戦が勃発してしまった。
結果何が起こったかというと、普通にミシェルに怒られた。
伯爵家の当主夫妻が『朝は大人しくおやすみ下さい!』と怒られるなんてとんだ羞恥プレイである。
仕方がないので私が折れて現在に至っている。
……ふふっ!
何やら口をムニャムニャさせている旦那様が可愛くて、思わず笑みがこぼれてしまう。
私が久しぶりの旦那様の寝顔を堪能していると、んんっと小さく身じろぎした旦那様がゆっくり目を開けた。
「ん、アナ……起きていたのか?」
「はい、おはようございます、旦那様」
旦那様は寝起きのトロンとした目で私を見つめると、ふにゃりと笑う。
「アナより早く起きたいと思っていたが……、こうやって、笑顔のアナが待ってくれているのもいいな」
……。
可愛いかよ!!
今日も
二人とも目が覚めたので、軽く身支度を整えてマリーを呼ぶ。
もうお昼近いけれど今日の朝食はここでとると伝えたら、マリーはすぐに何種類かのサンドイッチと温かいカモミールティーを持って来てくれた。
私と旦那様はそれを食べながら、昨日の夜会とこれからの予定について話をする。
昨日の夜会はフェアランブルの駄目駄目っぷりが他国に露呈する、という非常に残念な結果となったが、個人的な収穫は大いにあった。
今、私は領地の税制改革に手を付けている所なのだが、税の在り方というのはそれぞれの領地や国によってかなり違う。様々な国の話が聞けたのは非常に為になった。
出来れば使者の方々が帰国される前にもう少しお話がしたいし、ダンセル男爵夫妻が領地に戻られる前に晩餐を共にしたいし、カーミラ王女殿下ともゆっくりお話や打ち合わせがしたい。
アウストブルク行きを一ヶ月後に控えて随分と忙しくなりそうだ。
そうだ、確か来週辺りに定時報告でマーカスが王都に来るはずだから、その準備もしなきゃ。
これは本格的に忙しくなるぞー!
気合いを入れてふわふわの卵を挟んだサンドイッチをパクっと食べる。
「そういえば、やはりフェイラー辺境伯は今回も夜会には来ていなかった様だ」
旦那様がカモミールティーを飲みながらそう言う。
王家主催の夜会は
その中の数少ない例外がフェイラー辺境伯なのだ。
かつて他国との関係性が今よりも悪かった時代、国境を守る役割を持つ辺境伯の力を削ぐ訳にはいかなかった、というのがその理由だ。
王家からの干渉を受ける事なく自治を行っていた辺境伯領は、今も尚フェアランブルの中でもかなり異色な領地だと思う。
カーミラ王女殿下から話を聞いた後、旦那様も独自にフェイラー辺境伯について調べようとしてくれたのだが、そこは本当に謎の多い領地だった。
ナジェンダ様がハミルトン伯爵家に嫁いで来られた当時の事を知る使用人にも話を聞いてみたのだが、分かったのは『辺境伯家は結婚に反対していた』という事位。
秘密主義とも思える程情報を外に出そうとしない辺境伯家はどこか不気味で、下手にこちらから探りを入れるのは止めた方が良いという事になった。
「そうですか……」
「ああ、やはり相変わらず得体のしれない領地だが、後継者問題で揉めているという話を聞いた」
「! フェイラー辺境伯の情報がそんな風に漏れてくるなんて、珍しいというか……怪しいですね」
「私もそう思う。ともかく、アウストブルクへ行ってナジェンダお祖母様から話を聞けば色々と分かるだろう。それまで、一応アナも身の回りには気を付けてくれ」
「はい。旦那様こそ気を付けて下さいね?」
……フェイラー辺境伯か。
何事もないといいんだけどな。
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