第13話 精霊使いになるには

 カーミラ王女殿下とお義兄様との晩餐が実現したのは、王家の夜会が終わってから二週間もたった後だった。


 私達にも色々と予定が入ったのもあるが、やはり王女殿下が多忙を極めていたのだ。



 その間に、私は無事他国の使者の方々と約束を取り付け交流を持ったり、マリーのご両親であるダンセル男爵夫妻とお食事会をしたりと実に有意義な二週間を過ごす事が出来た。


 ダンセル男爵夫妻がマリーにお見合い写真を持って来たのには一悶着あったけど、そっかー、マリーもお嫁に行く様な年頃なんだよね……。


『私はずーっとアナスタシア奥様のお側にいます!』


 フンスと力説していたマリーの姿を思い出すと心が温まるが、マリーには幸せになって欲しい。

 もちろん結婚が女の幸せ、なんて前時代的な事を言うつもりはないが、私に尽くす以外の未来も考えて欲しいのだ。


 ちなみに、マリーの縁談の話の時、何やら旦那様が焦っていたのでその日の夜に理由を尋ねてみたら


『いや、だってベーカー!!』


 と突っ込まれた。


 え!? あの二人ってそうなの?

 確かに仲良いなーとは思っていたけれど、そういう目では見ていなかった。


 急に降って湧いた恋バナに私が興奮していると、話を振ってきたはずの旦那様が何故か何とも言えない表情になっていた。解せぬ。




「ふぅー、やっとアナ達とお食事出来て嬉しいわ! ハミルトン伯爵もご招待ありがとう」


 テーブルを挟んだ目の前のソファーで、お義兄様と仲良く腰掛けたカーミラ王女殿下がニコニコと紅茶を飲んでいる。


「こちらこそ、また王女殿下にお越し頂けて光栄です」

「ふふ、ハミルトン伯爵家のお食事はとても美味しかったから、今日も楽しみにしていたの」


 おお、ハリスが聞いたら感動で涙目になりそう。


「……で、晩餐の前に大切な話があると聞いたのだけど、何かしら?」


 カーミラ王女殿下にそう促され、私と旦那様は顔を見合わせると頷きあった。


「私の両親に関する事なのです」


 お義兄様と王女殿下には『両親について知りたい』という話はしているが、私が『実は両親は生きていると思っている』事については話していない。


 私は、お父さんとお母さんが突然姿を消したあの日にあった事、不思議な精霊が現れた事や私が謎の男達に狙われた事を全て二人に話した。


 お義兄様と王女殿下なら信頼出来ると思ったし、今でも私が狙われている可能性が少しでもある以上、それを告げずに王女殿下と同行するのは良くないと思ったのだ。



「そんな事が……」


 私が話を終えると、お義兄様は気遣わしげに私を見て、王女殿下は何かを真剣に考え込んでいた。


「アナを襲った男達に心当たりは無いのかしら?」

「そうですね。……最初は公爵家の関係者かとも思っていたのですが」


 私と王女殿下の言葉を聞くと、お義兄様がゆっくりと首を横に振った。


「恐らくそれはないと思う。その頃はまだ、父上もアナスタシアの存在を知らなかったはずだよ」


 そうなのか。となると、ますますあの男達の目的が分からない。


 前フェアファンビル公爵が言っていた『私の両親について探っていた辺境訛りの人間』の事も気になるので、それについても二人に話しておいた。


「辺境訛り……。仮にその者たちがフェイラー辺境伯の関係者なら、精霊絡みの可能性もあるわね」

「それは、私や母が精霊と意思の疎通がとれるから、という事ですか?」

「ええ。フェイラー辺境伯領は旧精霊教への信仰がちょっと異常な程強いと聞くから、アナのその力は狙われてもおかしくないのかもしれないわ」


 思わず四人とも黙り込んでしまう。

 

「それから、その『不思議な精霊』についても気になるのよね。もしかしてその精霊、『はぐれ』なのではないかしら」

「はぐれ?」


 カーミラ王女殿下は少し迷った後、ゆっくりと口を開く。


「アナ、前にした『精霊使い』の話は覚えている?」

「はい、もちろんです。詳しい事は国家機密に関わるからと怖くて聞けなかったのですが……。色々と気にはなっていました」


 王女殿下は私の返事を聞くと頷いて続けた。


「お父様とも相談したの。もしアナが良ければなんだけれど……アウストブルクうちの国の精霊使いの認定を受けてくれないかしら? そうすれば、アレクは私の夫になるし、ハミルトン伯爵もアナの夫で精霊との縁も強い。ここにいる四人になら、精霊に関する機密を私の判断で話しても良い事になっているわ」


 精霊使いの、認定?


「もちろん、メリットだけでなくデメリットもあるの。これからきちんと説明するから、ゆっくり考えてくれればいいわ」


 戸惑いながらも頷く私を見て、王女殿下が説明を始めようとした時。


 旦那様が想像もしていなかった発言をした。



「王女殿下、私も……精霊使いになる事は出来ますか?」

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