第11話 残念貴族、退場!

「カーミラ王女殿下! アレクサンダー殿はフェアランブル王国の筆頭公爵家の当主なんですぞ!? それを婿にだなんて、いくら王女殿下とはいえ荒唐無稽こうとうむけいが過ぎる!」


「都合の良い時にだけ筆頭公爵家の当主扱いなさらないで? それとも、フェアランブルではあれが自身より身分が上の方に対する礼儀作法だと理解してよろしいのかしら?」


 カーミラ王女殿下は、お義兄様にそっともたれ掛かる様に寄り添うと憂い顔をする。


「他国の文化を否定するつもりはないけれど、それにしたってあれは理解が出来ませんわ。これでは私がこちらの国に嫁ぐのは無理でしょうね」

「む、……ぐぐ、く……」


 流石に侯爵も言葉にきゅうしたようだ。


 うーん、ぐうの音も出ないとはまさにこの事!

 さすがカーミラ王女殿下、お見事です!



「陛下、どうなさいますの?」


 侯爵を黙らせた後、カーミラ王女殿下はしっかりとまた壇上の陛下を見据えた。

 このまま有耶無耶に済ませるつもりはないらしい。


「……侯爵、子息を連れて下がる様に」

 

 ここで侯爵を下がらせるという事はつまり、非は侯爵にあると認める事になる。


「へ、陛下! それではあまりにも……」

「あら、侯爵だけですか?」


 カーミラ王女殿下はニーッコリ微笑むと周りの貴族をぐるりと見回す。


「……フェアファンビル公爵に無礼を働いたという自覚がある者。反省しておれば退場する様に」


 ザワッと周りが騒がしくなり、顔色を悪くした貴族たちがオロオロとし始める。


 これは中々に難しい判断だ。


 仮にさっさと退場しても、『ああ、フェアファンビル公爵に無礼を働いたんだな』と即バレるし、かと言って無礼を働いたのにも関わらず残っていてそれがバレた場合、『フェアファンビル公爵に無礼を働いた上に反省もしてません』という事になってしまう。


 今の怒り心頭な王女殿下に対して、それはあまりにも悪手だ。


 そもそも、いくら醜聞続きで落ち目とはいえフェアファンビル公爵家は自国の筆頭公爵家。その当主のお義兄様を格下貴族が嘲笑うなど、当然あってはいけなかったのだ。


 今顔色を悪くしている貴族の多くも、例えば自分一人で面と向かってフェアファンビルを悪く言うなど絶対にしないし出来なかっただろう。


 集団心理って怖いな。私も気を付けよう。



 観念した様に何組かの貴族家がぞろぞろ退場していく中、ギリギリと歯を食い縛る様にして下を向いていたウェスティン侯爵が、バージル様を連れて退場口へと向かった。


 バージル様の腕にぶら下がっていたウォルカ伯爵令嬢が、その腕からススススッと離れていく。


 自分は会場に残るんかい!

 いっそ根性あるな!?


 確かに、ウォルカ伯爵令嬢が無礼を働いたかというと、正直グレーゾーンだ。


 しかし、この状況で一人会場に残るとは、中々に肝が据わっている。


 私が思わずポカンとしながら人混みに消えてゆくウォルカ伯爵令嬢の背中を見送っていると、いつの間にか止まっていた楽団の演奏が再開されていた。


 カーミラ王女殿下とお義兄様は、近くにいた他国の使者さんや良心的なフェアランブルの貴族達に囲まれている。

 どうやら騒がせた事を詫びている様だが、むしろ温かい拍手で迎えられていてホッとした。



「アナの言う通り、王女殿下の圧勝だったな」

「ふふふ、そうですね。想像以上に王女殿下が強過ぎて、お義兄様をアウストブルグに取られちゃうかと思いました」

「そうなったら、我が国の情勢はますます荒れてしまうだろうな……」


 ふと壇上の国王陛下を見る。

 さすが威厳のある佇まいで凛と玉座に座っているが、何と言うか……


 目が死んでるな。


 これは、やはり生まれたばかりの第二王子殿下の成人を待っている場合ではないかもしれない。



「さぁアナ、私達も踊ろうか」

「はい、旦那様!」



 旦那様とのダンスもすっかり慣れて、私達はお互いの顔を見合わせながら笑顔でクルクルとまわる。

 旦那様と踊るダンスはとても楽しい。

 そのまま、一曲、二曲、三曲……と立て続けに踊った。


 当然ダンスを踊っている間はどこからも邪魔は入らないし、立て続けに三曲も踊れば、仮にこの後ダンスに誘われても『疲れているから』と断りやすくなるのだ。


 

 私と旦那様がようやく一休憩入れていると、笑顔のお義兄様に手招きされる。

 どうやらお義兄様とカーミラ王女殿下は他国の使者の方々と談笑していた様だ。

 

 他国の方々のお話を色々と聞いてみたいと思っていた私にとって、これはまさに渡りに船だった。

 やっぱりお義兄様は私の頼れるお義兄様だ。


 この後は特に何か問題が起こる事もなく。


 波乱に満ちた夜会は、何とか無事にその幕を下ろす事が出来たのだった。

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