第9話 ダンスをめぐる攻防戦!?

「ちょ、なにあれ? どういう事よ!?」


 自身の恋人とその父親がヘラヘラとカーミラ王女殿下に擦り寄っている様を見て、ウォルカ伯爵令嬢が顔を真っ赤にして怒っている。


 どういう事かは私が聞きたい。


 ……というか、恋人なのにエスコートもされてないの?

 きちんと婚約していなければ、正式な夜会ではそういう物なのかな?


 実はさっきから、お義兄様と王女殿下の周りで少し目に余る動きをしている貴族達がいるので気にはなっていたのだ。


 あの二人の場合、私が助けるまでもないだろうと静観していたのだが、こちらに絡んできたご令嬢の関係者となれば話は別だ。



 敵同士はぶつけておくのが邪魔者排除のセオリーである。


 行け! ウォルカ伯爵令嬢!!



 私は鼻息荒く人波に突撃していったウォルカ伯爵令嬢の背中を笑顔で見送った。

 

 うーん、確かに戦闘意欲アリアリのご令嬢だったな。クンツ、お見事!!


「あれは……今度はあちらで一悶着ありそうだな」

「ふふ、大丈夫ですよ。どう考えてもカーミラ王女殿下の余裕勝ちです」

「夜会でも女性には女性の戦いがあるのだな……」


 少し引き気味に言う旦那様だが、多分旦那様がその戦いの引き金になってた事は一度や二度では無いと思いますよ?

 

 薄々気付いてはいたものの、実際に伯爵夫人として社交の場に出る様になり実感したのだが、旦那様は本当にモテる。

 まぁこの若さで伯爵家の当主。しかも相当な資産家で美形。モテない訳がない。


 私と結婚するまでよく旦那様が無事だったものだと感心していたのだが、周りの令嬢達が牽制しあっていたのかもしれないなー。



 さて、今日の夜会は王族方に挨拶さえ済ませてしまえば、後はいつ帰ってもマナー上は問題無い。


 あまりにそそくさと帰ると悪目立ちするので、無難に時間を過ごしてから何曲かダンスを踊って帰る事ができれば上出来だ。


 後はちょっとお土産に、普段中々お知り合いになれない他国の方々と面識を得られれば万々歳かな?


 そんな事を考えながら無難な社交をこなし、王族方に挨拶を終えたアイリスとデズリーのご両親にも挨拶をする事が出来た。


 途中旦那様にお声が掛かったので、いつものように私から離れたがらない旦那様を笑顔で送り出し、クンツの誘導に従って安全地帯で会場の様子を伺う。

 ここまでは実に順調だ。




 王族へのご挨拶は全ての貴族が無事終えた様で、ダンスの時間が始まった。

 

 今日のファーストダンスは、セレスティア王女殿下とアウグスティン様だ。


 王宮楽団の演奏に合わせ、壇上から二人が優雅に降りて来る。


 アウグスティン様とセレスティア王女殿下はまだ18歳と16歳という若さだが、ダンスは素晴らしい物だった。

 美しさの中にも初々しさがあるその姿に、周囲の大人達は思わず目を細める。


 一曲終わると、続いてお義兄様とカーミラ王女殿下をはじめとする高位貴族が数組ホールへと足を踏み入れた。

 こちらは完璧に出来上がったダンスとその風格に圧倒される。


 ふわぁ、もう流石としか言いようがないわ。


 思わずお義兄様達のダンスに見惚れてしまい、ハッと我に返る。

 いけない、ダンスの時間にボーッと一人で突っ立っていると面倒臭い事になりかねない。


 慌ててキョロキョロと旦那様の姿を探すと、私の方に来ようとしてご令嬢に囲まれてしまったらしき旦那様の姿を見つけ、ガックリと肩を落とす。


 またかぁぁー。美形が過ぎると面倒臭いな。


 私というパートナーと来ているんだから一曲目のダンスを他の令嬢と踊る訳が無いのだが、恐らく二曲目以降の約束を何とか取り付け様と必死なのだろう。


 一応私の方にも声をかけたそうにしている他家のご当主や令息が遠巻きにしているが、『うっ、寒気が……』とか言って近寄れない様だ。


 クンツが冷気で威嚇してくれている様で非常にありがたいのだが、私も結構寒い。

 次は生暖かい風による威嚇とかにして貰おう。



 さて。

 それはさておき、旦那様の救出に向かわないと。


 私はニーッコリとした笑顔を顔面に貼り付けると、扇子をバッと広げて顔半分を隠し、カツカツとヒールを鳴らしながら旦那様の元へと進む。


「ひどいですわ、旦那様。妻を一人にしてこんな所でお喋りなんて。私、ずっと待っておりましたのよ?」


 そういうと、わざと集団の少し手前でスッと手を伸ばす。


「アナ!!」


 私に気が付いた旦那様は、目を輝かせて猛然と令嬢達を掻き分け始めた。

 普段のどちらかと言うと女性に対して塩対応な旦那様しか知らない令嬢方は、唖然とその様子を見つめる。


 ようやく私の元に辿り着き、嬉しげに両手で私の手を握る旦那様の姿は、さながら尻尾ブンブンの大型犬だ。


「旦那様、お話はよろしかったのですか?」

「ああ、もう終わった! そもそも私はアナ以外と踊るつもりは一切ないからな!」


 いい笑顔でそう言い放つ旦那様の後ろで、令嬢達がキッと私を睨んだり、肩を落として泣きそうになったりと色々しているけれど。


 ごめんね、旦那様を譲る気持ちは一切ないの。


 悔しげな令嬢達に背を向けて、私達もダンスを踊るためにホールの中央へ向けて足を進める。


 蕩けるような笑顔を向けてくれる旦那様に私も笑顔を返し、二人で束の間の幸せ気分に浸っていると、前方が何やら騒がしい。


 見れば、お義兄様とのダンスを終えたカーミラ王女殿下へバージル様がダンスを申し込んだ様だ。


 王女殿下がやんわり断ってもバージル様は引き下がらず、そこにウォルカ伯爵令嬢まで加わってちょっとした騒ぎになっている。

 


 ……また君達かー……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る