第8話 夜会で油断は禁物です

 自分達の番が近付き、旦那様に連れられ挨拶待ちの列へ加わる。


 少し離れた所で、挨拶を終えたお義兄様とカーミラ王女殿下が沢山の人達に囲まれているのが見えた。

 お義兄様、ファイト!


 

 前に並ぶ貴族達が次々と挨拶を終え、いよいよ私達の番が来た。


 王族の方々にご挨拶するなんて当然初めてで緊張する……というより、私の場合は元王太子絡みの気まずさの方が勝つ。


 元王太子が失脚したのは完全なる自業自得だとは思うのだが、そこは家族だ。

 国王陛下や王女殿下が私に対して『お前のせいで』的な感情を抱いたとしても心情的には無理もない。


 『王太子が己の身分を笠に着て臣下の新妻に手を出そうとした』なんて、外聞が悪過ぎて公表もできない。


 私の方も変な風評被害に伯爵家を巻き込みたくなかったので、内々の謝罪を受けあの件は手打ちにしたのだ。


 カーミラ王女殿下が間に入って下さったので、話はすんなりまとまった。


 ……私も王太子殿下投げ飛ばしちゃったしね。


 まぁ、公表しなくても人の話というのはどこからか漏れてしまうもので、元王太子殿下に関しては様々な噂が広がっているけど。



 ドキドキしながら前に進み出ると、そこには随分とやつれた国王陛下の姿があった。


 自分の跡を継ぐはずだった息子の失態に、国内の情勢の荒れ具合。


 まぁ、やつれもするか。


 少し気の毒な気もするが、国王陛下はこの国のトップなのだ。

 踏ん張ってもらう他はない。


「王国の沈まぬ太陽、国王陛下にご挨拶させて頂きます。ユージーン•ハミルトン、並びに妻のアナスタシアでございます」


 旦那様が挨拶の口上を述べる横で、深いカーテシーをする。


「ハミルトン伯爵か。盤石な領地経営、流石である。忠誠に感謝する」


 実にあっさりとお言葉を賜り、王族へのご挨拶は完了した。


 あれ? 結構あっさり。拍子抜けかも。



 ……と、油断したのが良くなかった。


 私達が挨拶を終え、ほっと一息ついたその瞬間に、ひらりとピンクのドレスを翻して薄水色の髪のご令嬢が現れたのだ。


 会場に入場してすぐの頃から何故か私達をロックオンしていたあのご令嬢だ。


 諦めてなかったかー。


「まあ! お久しぶりですね、ハミルトン伯爵様」


 いや、あんだけグイッと目の前に現れておいて、『まぁ!』も何もないだろうよ……。


「ああ、お久しぶりです。ウォルカ伯爵令嬢」

「私、是非ハミルトン伯爵様の奥様とお話がしてみたかったのです。ご挨拶させて頂いてもよろしいかしら?」


 戦闘意欲があるご令嬢の挨拶はご遠慮させて頂きたいのだが、まさか『精霊があなたは危ないと言ってるから』なんて言う理由で断る訳にはいかない。


 そんな事言ってしまえば、むしろこちらが危ない人である。

 

 旦那様も同じ事を考えたのだろう。ここは頷かざるを得ない。


「初めまして、ハミルトン伯爵夫人。私、イブリン•ウォルカと申します」

「初めまして、ウォルカ伯爵令嬢。アナスタシア•ハミルトンですわ」


 ウォルカ伯爵令嬢は私のドレスを上から下までジロジロ見ると、納得する様に頷いてこう言った。


「やっぱりハミルトン伯爵夫人ならハミルトン•シルクが手に入りますのね。ねえ、今度のパーティで着る予定の私のドレス、ハミルトン•シルクで作って差し上げますわ」


 …………。


 ああー、そっちのタイプかぁー。

 たまにお茶会とかでもいるんだよね。


『この私が着てあげるのよ? 光栄でしょう?』


 みたいなタイプ。


 大体が伯爵家より格上の侯爵家の夫人とかに多いんだけど、同じ家格の伯爵家、しかもまだご令嬢なのにこれだけ上から目線も珍しい。


「あら、あまり察しが宜しいかたではないのかしら? この私が、をそちらのハミルトン•シルクで作って差し上げると言っているのよ? 素晴らしい宣伝になるでしょう?」


 おおっ! 自己評価めちゃくちゃ高いな。


 分かってますよ。

 この私が着てやるから、ハミルトン•シルクよこせって言ってるんですよね?



 だが断る!!



 微妙に私を下げる言い方をしたウォルカ伯爵令嬢に不快を感じたらしく、旦那様が何か言いたげに眉を軽く吊り上げているが、それを視線で制する。


 旦那様、ここは女の闘いです。

 どうぞ私にお任せ下さいな?


「まぁ、ウォルカ伯爵令嬢はハミルトン•シルクをお持ちなのですか? 領地外では市場にほとんど出回ってないと聞いているのに、凄いのですね」


 お言葉に甘えて察しの悪い振りをしてニコニコしていると、私に言いたい事が伝わらないのがもどかしいのだろう。ウォルカ伯爵令嬢が段々イライラしてくるのが分かる。


「そうではなくて、だから! ハミルトン•シルクさえこちらに寄越せばそれを仕立てたドレスを着てあげるって言ってるの! ウェスティン侯爵家の嫡男バージル様の恋人であるこの私が!」


 ああ、侯爵家の嫡男と付き合って気が大きくなっちゃった訳か。

 ……って、ウェスティン侯爵家?


 私は頬に手を当て首を傾げる『困ったわ』のポーズを取ると、意味ありげに少し離れたひとだかりの方を見る。


「ウェスティン侯爵家のバージル様……ですか?」


 侯爵家の嫡男の恋人だというのなら……。


 恥知らずにも『私の未来のお義姉様』に擦り寄ろうとしているあのバカ親子ウェスティン侯爵父子……



 どうにかして貰えませんかね?




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 いつも拙作をお読み頂きありがとうございます!


 今日、1月31日は『愛妻の日』という事で、久々に『ビジネスライク~』の方に番外編を投稿しました!

 もし宜しければそちらもご覧下さい(^ ^)/

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