第7話 王族のお出まし

「いやしかし、ようやくカーミラ王女殿下とお話が出来て光栄ですよ。何せ、何度目通りを願っても叶いませんでな」


 ウェスティン侯爵がお義兄様をチラチラ見ながらそう言う。


 うん、完全に嫌味ですね?


「はっはっは! そりゃ王女殿下はお忙しいですからな。貴殿と会うのにそこまでの利を感じなかったのでしょう」


 ふわぉ! これまた直球な!


 ウェスティン侯爵とルドビィング公爵はもうバッチバチだ。


 ギャラリーとして見てる分には楽しそうだけど、これ遠巻きに見てる本物のギャラリーからしたら私も登場人物だと思われてるよね? 


 お義兄様と旦那様は感情の見えないお貴族様スマイルで無難な所で相槌を打ち、カーミラ王女殿下はひたすら楽しそうにニコニコしている。


「しかし、カーミラ王女殿下にお会いして一体何をお話されるつもりだったのかな? まさかご自身のご子息を売り込むなんて恥知らずな真似をなさる貴殿ではございませんしな」


 ルドビィング公爵がニヤリとそう言う。


「はっはっはっ。我が息子の事はさておき、カーミラ王女殿下が我が国に嫁いで下さる以上、最良の環境を用意したいと考えるのはフェアランブルの貴族として当然ではありませんか。フェアファンビル公爵家は、丁度あの頃何かと大変そうでしたからねぇ」


 ウェスティン侯爵も負けじと言い返すが、え、この発言セーフなの? 割と直球でフェアファンビル家に喧嘩売ってない?


 みんなとは貴族経験値が低い方に桁違いな私は、完全なる巻き込まれ事故に精神がゴリゴリ削られていく思いだ。

 帰りたい。せめてこの場を離れたい。




 その時、私の切実な願いが天に通じたのか高らかなファンファーレが会場に鳴り響いた。


 いよいよ王族の皆様がお出ましになるのだ。


 会場中の男性が深く頭を下げ、女性もまた深くカーテシーの姿勢をとる。


 側妃様を伴った国王陛下と、その後ろからセレスティア王女殿下をエスコートしたアウグスティン様が姿を現した。


 王妃殿下は既に数年前に亡くなられていて、アルフォンス第一王子は病気療養という名の幽閉状態。

 昨年お生まれになった第二王子殿下はまだお披露目もされていないので、当然この場にはいない。


 こうして改めて見てみると、我が国の王族は本当に数が少ない。女性にも王位継承権を、というのは当然の流れの様にも思えた。



「良い。皆、顔を上げよ」


 陛下の声に、貴族達は皆もとの姿勢に戻る。


「今年もまた皆と共にこの夜会の日を迎えられた事、嬉しく思う。我がフェアランブル王国に……



 陛下の挨拶を聞きながらも会場の様子に注意を払っていると、リアちゃんが会場の中をふよふよ飛んでいるのを見つけた。


『あ、リアー!』


 クンツが嬉しそうに声を上げる。

 こちらに気が付いたリアちゃんは、可愛く微笑むとヒラヒラ手を振ってくれた。


 リアルエンジェル!! ……いや、精霊か。


 そのタイミングで陛下の挨拶が終わった様で、盛大な拍手と共にまた貴族達がゾロゾロと移動を開始する。


 今度は身分が高い方から順番に王族の方々にご挨拶してお言葉を賜るのだが、ここでも身分の低い男爵家の人達はトコトン待たされる。

 こうやって貴族はその身分差をその身に刻み込まれていくのだ。ある意味よく出来た仕組みである。



「では、私達は失礼致します」


 当然一番に挨拶しなくてはいけないお義兄様は王女殿下を連れてそそくさとその場を離れていった。


 ルドビィング公爵とウェスティン侯爵の順番もすぐ回って来る。

 二人は『王女殿下以外に興味はない』と言わんばかりに私達には目もくれず、バチバチしながら去って行った。



 ふぅっ、と小さく息を吐くと、旦那様が心配気に顔を覗き込んで来た。未だに急に顔を近付けられると少しドキッとする。


「大丈夫か、アナ? 私達の順番まで少し時間がある。何か飲み物でも取りに行くか?」


 こういう場合、本来なら『飲み物でも取って来る』のがスマートなのだが、旦那様は基本私の側から離れない。

 飲み物も食べ物も二人で一緒に取りに行くのだ。

 周りからの視線は痛いが、別々に行動すると碌な事にならないのだから仕方ない。


「そうですね、ではお酒以外で」

「当然だ。アルコールは二人きりの時以外、絶対禁止だ」


 私達は笑い合いながら飲み物を取りに行く。


 悔しそうな目で私を睨むご令嬢も、何かを企む様な目でこちらを見ているご令息も。



 ……夫婦の間に挟まろうなんて馬鹿な考え、絶対に持たないで下さいね?

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