第6話 やっぱり夜会は戦場です

「アナ、○×※□◇#△!」

 


 …………何て?



「○▼※△☆▲※◎★●、 ○×※□◇#△!」



 尚もニコニコと話続ける王女殿下を見てハッと気付く。


 これ……大陸共用語アウストブルク語だ!!


 そうだよね、カーミラ王女殿下があまりにも流暢にフェアランブル語を話すから錯覚してたけど、王女殿下の母国語は当然アウストブルク語だよね!?


 え? でも何故に急に?


 私が思わずポカンとした顔で見ると、王女殿下はイタズラっぽい笑顔をして見せる。


 …………! 王女殿下、フェアランブル語を話せないフリする気だ!?


 確かにこれは面倒くさい貴族に絡まれない様にする妙案かもしれない。

 しかも、相手に言葉が通じていないと分かれば気が緩んで失言する輩も多いだろう。


 これはカーミラ王女殿下の巧妙な罠だ。



 駄目だ、役者が違い過ぎる。

 うちの性悪貴族の毛根が根こそぎいかれる未来しか見えない!


 ……ってあれ? 別にいいのか?


 ちょっと想定外の展開に私が面食らっていると、隣で旦那様が流暢なアウストブルク語で挨拶を返していた。


 旦那様、アウストブルク語上手……。


 そういえば、精霊について色々調べてくれた時もアウストブルク語で書かれた難しそうな本を何冊も読んでいたな、と思い出す。


 出会った当初はどうしようもないお子ちゃまで、家の事も領地の経営も使用人に丸投げだった旦那様にそんなイメージは無かったのだが、実は旦那様は頭はいい。真面目だし。

 俗に言う『学校の勉強は出来るタイプ』だったのだろう。


 最近は自分でも目的意識を持つ様になったみたいだし、領地の経営に関してもしっかり勉強して実践している。

 執事のセバスチャンなんて、旦那様の成長を泣いて喜んでいた。


 うんうん、旦那様の成長が妻は誇らしいです!


 私も旦那様に負けない様に頑張らないと、と気持ちを引き締め、アウストブルク語での会話に加わる。


 かつての平民時代、私は女官を目指して勉強していたので一応大陸共有語であるアウストブルク語は使えるのだ。


 使えるのだが、流暢とは程遠いし最近使ってなかったから明らかに力が落ちている。

 ネイティブの発音は聞き取りづらいし、言いたい言葉もパッと出て来ない。


 思えば、来月からアウストブルクへ行くというのに言語についてこの有り様とはとんだ体たらくだ。


 最近色々な事がうまくいってるからって、ちょっと調子に乗っていたかもしれない。


 これはいかん。自分に喝を入れねば!


 そんな私の決意とは裏腹に、周りのヒソヒソ話は絶好調だ。案の定、カーミラ王女殿下がフェアランブル語が分からないと思って油断しているのだろう。



『なんだ、嫁ぎ先の国の言葉も話せないのか』

『真っ先に私の所に挨拶に来るべきだろう? 物事の順序も分からんとは』

『あの若造が、大国の王女と婚約したからと随分偉くなったものだな』



 ……無礼だな!?


 フェアランブル公爵家の国内での立場が弱くなったとは聞いていたが、まさかここまで筆頭公爵家が舐められていたとは。

 お義兄様はさぞかし苦労されただろうな、と思うと心が痛む。


 お義兄様、ご心労で毛髪に影響が出た場合もフォロー体制は整っております! ご安心下さいね!




「やぁ、ハミルトン伯爵。随分と楽しそうだね。私もカーミラ王女殿下に紹介して頂けないかな?」


 五十代位の貫禄たっぷりな一人の貴族がついに行動に出た。ウェスティン侯爵だ。


 ウェスティン侯爵家はその歴史も古く、典型的な伝統主義の有力貴族だ。現当主もその政治手腕は大した物だが、伝統主義の人間に多い女性軽視の傾向が強く、私はあまり好きなタイプではない。


 この流れでは、旦那様には断りづらい。お義兄様もカーミラ王女殿下も軽く頷いて下さったので、旦那様が紹介する形でウェスティン侯爵が会話の輪に加わった。


 会場の注目度もますますアップだ。



「おや、それなら私もお仲間に入れて頂けるかな?」



 おおっと、これは更なる大物、ルドビィング公爵のお出ましだ。


 ルドビィング公爵も、お義兄様やカーミラ王女、旦那様や私と同じく最近人の噂に上がりやすい注目人物だ。


 何故なら、ルドビィング公爵家の嫡男、アウグスティン様は我がフェアランブル王国の第一王女セレスティア様の婚約者なのだ。


 本来であれば、セレスティア様が降嫁されてルドビィング公爵家に入られるだけの事だったのだが、例の残念元王太子が廃太子された事で潮目が大きく変わって来ている。


 フェアランブルでは女性に王位継承権が無いので、このまま行けば状況は変わらないはずだったが、近隣諸国で女性に王位継承権が無いのはフェアランブルのみ。

 これを機会に女性も王位継承権を持つべきでは? との意見が議会でも噴出しているのだ。



 今ここでバチバチに火花を飛ばしているのは、それぞれ保守派と革新派の急先鋒なのである。


 


 ……いや、他所よそでやってーーー!?

 




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



いつも拙作をお読み頂きありがとうございます!

前作から基本的に毎日更新を続けてきた作者ですが、今年は短編などにも挑戦してみたいと思っていまして、こちらの更新を


月•水•金


にさせて頂こうと思っています。


更新頻度が下がる分、内容を充実できる様に頑張りますので、引き続きお読み頂けると嬉しいです(^ ^)/


どうぞ宜しくお願いします!

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