第5話 夜会に集うは……
『アナ! この辺なら大丈夫そうだよ!』
回避に回避を重ね、会場の一角に移動した私達はクンツにそう言われてホッと息を吐く。
良かった。もうこの国の貴族がやば過ぎるのか、実は私が嫌われ過ぎてるのか分からなくなってきてたよ。
少しは認められたかと思ってたけど、まだまだ貴族社会には受け入れられてない様ですね。とほー。
気を取り直して周りを見ると、確かにこの辺りは何だか穏やかな雰囲気だ。
周りの貴族のご夫人方もほのぼのとお喋りを楽しんでいる。
ん? 誰だろう?
一人のご夫人が、何故かとてもキラキラした目で私を見ている。
茶色い髪に茶色い目、知らないご夫人だけど、何かどこかで会った事がある様な気もする。
私が不思議に思ってご夫人の方を見ていると、旦那様もそのご夫人に気が付いた。
「これはダンセル男爵夫人、お久しぶりですね」
ダンセル男爵……マリーのお母さんだ!!
そうか、国内の貴族がほぼ召集されるという事は、当然マリーのご両親が来ててもおかしくないのか! 失念してた!
「お声がけありがとうございます、伯爵様。アナスタシア奥様にご挨拶させて頂いても?」
「ええ、もちろん。アナ、マリーのお母上だ」
ニコニコ笑顔のダンセル夫人と挨拶を交わす。
ひゃー、何だかマリーがそのまま大人になってお母さんになったみたい!
こんな事言ったら失礼かもしれないけど、なんか可愛い!!
そのままダンセル夫人と談笑していると、ダンセル男爵、つまりマリーのお父さんもやって来た。
おお、これが率先してお芋を掘ってくれるというマリーのお父さんか!
ダンセル男爵は、王都ではあまり見かけない日に焼けたワイルド系イケオジだった。
ダンセル男爵領は王都から大分離れたのどかな領地で、農業を主産業としている。領主自ら農作業を手伝うと聞いているので、それでこんなに逞しいのだろう。
王都の、色々な意味で
ちなみに旦那様も筋トレは続けている様で、最近はますます身体も引き締ま……ゲフンゲフン。
マリーのご両親だけあって実に気さくなダンセル男爵夫妻との歓談はとても楽しかったのだが、このままお二人とだけ喋り続けている訳にもいかない。
よろしければ是非王都にいる間に晩餐でも、とお誘いしてダンセル男爵夫妻とは一旦別れた。
マリーのご両親が来られているという事は……。
「旦那様、もしかしてアイリスやデズリーのご両親も来られてますか?」
ダリアのご両親とは仕事関係で既に何度かお会いしているのだが、アイリスとデズリーの家族には挨拶した事がない。
「ああ、恐らく来ていると思うぞ」
「私、出来ればご挨拶がしたいのですが、貴族的にはおかしな事ですか?」
「ふむ、おかしな事ではないが、こちらから探してまで挨拶しようというのは珍しいだろうな。マナー違反な訳ではないから、アナがそうしたいなら付き合うぞ?」
私の意思を尊重してくれる旦那様優しい。好き。
そうこうしている内に貴族の入場はどんどんと進み、伯爵家、侯爵家が入場を終えていた。
次からはいよいよ公爵家だ。
フェアファンビル公爵家はここ数代ゴタゴタ続きではあるが、一応は筆頭公爵家。
公爵家の中でも一番最後に入場して来るはずだ。
「旦那様、そろそろお義兄様達が入場されますわ!」
「ああ、挨拶は一旦諦めてお二人に会いに行こうか」
公の場でアレクサンダーお義兄様がカーミラ王女殿下をエスコートするのは今日が初めてだ。
私達が入場口へ向かうと、そちらの方では熱気を帯びた騒めきが既に広がっている。
人垣の間からそちらを覗き込むと、既にお義兄様達は入場していて、丁度カーミラ王女殿下が会場に向けて軽くカーテシーをしている所だった。
——— ふおぉ、イッツ パーフェクト!!
公の場で見るカーミラ王女殿下はそれはそれは美しかった。
身体のラインが出やすいタイトなロングドレスを上品に着こなすその気品。
白い光沢のあるあの生地は実はハミルトン・シルクで、金色の豪華な刺繍はお義兄様の色を取り入れての事だろう。
艶やかな黒髪とのコントラストも非常に美しい。
もちろん所作も完璧だ。
会場は称賛や嫉妬、羨望、嫉み……様々な感情に溢れ、あちらこちらから漏れるヒソヒソとした話し声がさざ波の様に広がっていた。
私が聞いても『ちょっと無礼なのでは?』とカチンと来る様な皮肉を言っている貴族もいて、これから本格的に始まる夜会に不安しかない。
空の王族席に向けて深くカーテシーをした王女殿下がくるりとこちらを振り返る。
周りは皆、お義兄様と王女殿下と話したそうだったけれど、筆頭公爵家の当主と隣国の王女殿下の組み合わせに気軽に声をかけられる者はこの場にはいない。
まぁ中には、『さぁ声を掛けろ!』とばかりに偉そうにお義兄様を見ている高位貴族達もいるけど、あの人達は何であんなに偉そうに出来るんだろう……。
王女殿下はそんな貴族達には目もくれず、輝く様な笑顔で一目散に私と旦那様の所へやって来た。
嬉しいけれども周りの視線が痛い。
今、この夜会の会場内で一番の注目を浴びているのは間違いなく私達四人だろう。
目の前までやって来た王女殿下は、私の手をキュッと握ると笑顔でこう言った。
「アナ、○×※□◇#△!」
…………何て?
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