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ちびまるフォイ

この世界の宝

ここは血液発電所東京支部。


「◯◯くん、ちょっといいかな」


「はい?」


別室に社長から呼び出された。

なにかミスったかと勘ぐってしまう。


「実は……電力不足の予測があってな」


「電気不足? そんな馬鹿な。

そりゃ昔は原子力発電とか非効率な方法でしたが

今は血液発電で電力不足になんかなりっこない」


「今は、そうかもしれん。

ただ、今後に大きく電力が必要となる

極秘裏の計画があるのだよ」


「極秘裏……」

「それはまだ言えんが」


「計画も知らないのに私にどうしろと?」


「君はただ人間の血液を集めてくれればいい。

ようは電力が不足するんだ。血液がもっと必要なんだよ」


「はあ、わかりました」

「功績が認められれば昇進も考えよう」


「頑張ります!!」


めいっぱいのやる気とともに献血活動へとまい進した。


「電力が不足しそうでーーす!

みなさんの献血をお願いしまーーす」


しかし献血会場にやってくるのはホームレスばかり。

不健康な血液は電導率が低い。


「へへへ。たくさん抜いとくれよ」


「ダメですよ。400mlまでです」


「ちぇーー。たくさん抜いたほうが金になるのによお」


献血は電力の提供に等しい。

血を提供するとお金がもらえるので、もっぱらホームレスのたまり場だ。


いろいろ献血キャンペーンを進めてみるが、成果は思うように上がらなかった。


「社長、話ってなんですか」


「まだまだ電力不足ということだよ」


「やっぱりそれですか……。

私としてもいろいろやっているんですけどね」


「それは知っている。だが集めるばかりでは意味がないぞ」


「というと?」


「穴の空いた袋に水をどれだけ詰めても、意味がないということさ」


社長の言わんとしていることは理解できた。

かくして病院へと足を運ぶことになる。


「なんだって!? 輸血を制限してほしい!?」


医者は目を丸くした。

もう瞳孔に「ふざけるな」の文字が浮かんでいる。


「ですから、電力不足もあって手術で血を使われると困るんですよ」


「こっちは人の命を預かってるんですよ!

輸血しないと死んじゃいます!」


「でも、この病院には人口生命維持装置や

看護ロボ、手術AIロボットもいるでしょう?」


「いますが……それがなんだっていうんです」


「電気が止まれば、それらの機械も全部停止しますよ」


「うぐっ……」


「手術もできなくなるし、看護はもちろん

呼吸器をつけている患者はみな死にますよ」


「し、しかし……輸血をしないというのも……」


「すべてを患者に話す必要なんかないじゃないですか。

手は尽くしたと言うだけでいいんです」


「……」


「これからも血液を提供できそうな人を残し、

老い先短い人や、反社会的な人間。

その他で現代にふさわしくない人間に血を制限すればいいんですよ」


「……わかりました」


「それと、もし死んだ人がいたらすぐに教えてください」


「なぜです?」


「使えるうちに血だけ抜いておきたいので」


医者は最後まで反抗的な態度でこそあったが、

他の病院もふくめて同じことをしているのでバレっこないお墨付きがあるとわかると、あっさり従ってくれた。


今、電気が止まれば何が起きるか。

そのヤバさは誰にでもわかっている。


空を飛ぶ車にも電気。

ホログラム・スマートフォンにも電気。

地域を囲うドーム型天候装置にも電気。


自分たちの生活は電気が土台になっている。

これを失う生活などありえない。


全国各地に渡り歩いて血を集めつつ、節血キャンペーンを推し進めた。


ついに目標血液の供給率に達することができた。

再び社長からの呼び出しがある。


「社長、お話とは私の成果の話ですか」


「耳が早いね。まさにそのとおりだよ」


社長は血の供給量を見て満足そうにしていた。


「君の頑張りは高く評価している。

これだけ血液があれば電気不足も解消できるだろう」


「こんなものじゃないですよ。

これから世界各国の難民を受け入れて

血液の養殖場として稼働させます。

電気不足なんて今後絶対に起きないほどに」


「それはすごい! 君はまさに天才だ!」


「でしょう。それで昇進の話というのは……?」


「ああもちろん。君はこれから第二社長として昇進させよう」


「やった! ありがとうございます!」


ついに第二社長へと上り詰めた。

立場が上がったこともありついでに聞いてみることにした。


「社長、それで1つ聞きたいのですが。

なんで将来の電気不足になる極秘裏の計画というのは?」


「ああ、そのことか。君も第二社長になったのでやっと話せるよ」


社長はマル秘と書かれたレポートを取り出した。


「近々、この国は戦争を起こす計画がある。

戦争に使う兵器には大量の電気が必要だろう?

だから電力不足になるというわけさ」


「なるほど……」


「まあ、我が国は勝つに決まってる。

最新のロボット兵器をいくつも動員しているからな!!」


社長はガハハと笑った。

その顔をみてふと疑問が浮かぶ。



「でも社長。戦争って我が国の人も死にますよね?」


「なにを当たり前のことを聞くんだね君は」



社長はぽかんとして答えた。


戦争が始まると、我々の国は予想通り敗北した。

敗因はもちろん電気不足で兵器が動かなくなったためだ。


この国の電気のために血液を提供してくれる人はすでに死に絶えてしまった。

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