30. ドレスって……私も世界会議に!?
「アレッタ嬢、ちょっといいか?」
「なんですの陛下」
王妃教育の後、陛下に呼ばれたので、何かと思えば……。
「初めまして奥様」
「ええっと……まず奥様ではないのだけれど……どなたですの?」
応接間にいらっしゃったのは小柄なご婦人。小さな眼鏡に腕抜き、腰には針刺しが。後ろでまとめ上げた白髪には品の良いメッシュがちらほら。
これは……只者じゃありませんわね……。
「これは失礼。あたしはポピー。巷ではグランマポピーで名が通ってるかな」
グランマポピー……お茶会の中で必ず話題に出る有名服飾デザイナー。彼女のオートクチュールドレスは次のトレンドになること間違いなしという……あの……。
「陛下!?」
「な、なんだ?」
「状況がよくわかりまぜんの!! 説明してくだじゃいまし!!! あのグランマポピーがなぜこごに!? 何をするおづもりじぇ??」
ここにいるということは服を仕立てるということで間違いないでしょうが、誰の??
なんて、混乱して陛下をブンブン揺さぶってしまったのですが、体感の鬼すぎて微動だせず。
「ハハハ、相変わらずの噛み様だ」
「笑っていないで、どういうことなのです!?」
「見ての通りアレッタ嬢のドレスを仕立ててもらおうと思ってな」
だからなぜ!? そんな、仕立ててもらおうと思って、なんて軽い感じで頼める額ではありませんのよ!?
「……世界会議があることを聞いていないか?」
聞いてませんの。全く。なんだかデジャブですわ。
「その様子だと聞いていないようだな。すまない」
世界会議……一年に一度各国の要人が集まり、世界共通の問題について話し合う重大な行事。特に注目されるのが会議後の舞踏会であり、様々な策略が動くのだとか。
「まさか私も!?」
「……い、一応妻として嫁いできたわけで、連れて行かなくてはならなくてだな……」
「それもそうですわね」
なるほど。だからドレスを仕立てようと……確かに大事ですわ。国力を見せつける必要がありますし。
案外あっさり納得した私に、陛下は安心しまして。ついそのままの剣幕で尋ねてしまいましたが、怒ってはいませんのよ?
「さて、お話は済みましたかね? 採寸しても?」
「え、ええ。お願いしますの」
ポピーさんの眼鏡が一瞬光ったような……気のせいですわね、多分。
と言いますか早速ここでやりますの? ここで?
あ、陛下が後ろ向いてますわ。採寸するだけですのよ?
「はいじゃあまずはバストからね」
クロエ、何を笑っているのかしら? うん? 私のどこを見て笑っているのです?
なんてクロエに眼を飛ばしている間に一瞬で測り終えられ、ウエスト、ミドルヒップ、ヒップ、腰丈、手首まわり……その他もスルスルっと。
「奥様は華奢ですねぇ……ドレスが映えそうだ」
「あ、ありがとうございますわ……?」
華奢……まさか。筋肉質の間違いでは?
陛下、元々目を逸らす必要はありませんでしたけれど、もう大丈夫ですのよ。採寸は終わりましたの。
公爵令嬢でありながら、ドレスを仕立てるだけで緊張なんて恥ずかしいですわ……。
「ドレスのお色はどうします?」
「そうですわね……水色でお願いできるかしら?」
こちらにきてから好きな色が水色になったのよねぇ。なぜかは覚えてないのだけれど。
そういえばリボンもだわ……確か……。
「あらあらあらあら……まぁまぁまぁまぁ」
「どうかなさいまし……」
「国王陛下の瞳の色じゃないの。好きな人の瞳色のドレス……うーん、これは噂通りの熱々だね」
「好きな人……熱々……。なっ!?!?」
そうだわ。あの時、陛下の瞳の色に似ているから、と選んで……。それからずっと……。す、好きな人なんてことは全く考えていなかったのだけれど!
ああもう顔が赤く……。陛下を見れば、陛下も耳が真っ赤に。
ポピーさんが変なことを仰るからですのよ!
「じゃあ他の部分も濃い青にした方が良さそうだ。ちょうどそのリボンみたいに……ってそれちょいと見せておくれ」
「これですの?」
大きな水色のリボンに、真ん中に装飾として深い蒼のタンザナイト。
……見れば見るほど色合いが陛下の瞳に似てますわね。
「……店主が、これを足したらどうかと、言っていたんだ」
先ほどまで距離をとっていたくせに、陛下が弁明しに来ましたの。私まだ何も言ってませんわよ。
ですが、まぁそれなら納得できますの。陛下が自分の瞳に似ているからと選ぶわけがありませんもの。
「うーん。装飾がついてはいるけど、やっぱりこれ私が手がけたやつだわ。通りで見覚えがあったわけだ」
「あら、そんなことが」
「これはリボンに合わせてドレス作らなきゃね。おっ! 思いついてきた思いついてきた」
ポピーさんはそう叫ぶと、こちらのことなんてそっちのけで、ペンを取りスケッチブックにガシガシと描き始めまして。
見る見るうちにドレスのデザインが決まり……あっという間にラフスケッチが完成。
「あまり露出が多いものは避けたい」
「寒いですからね。わかってますよ、ほら」
描き上がったのは、北国を思わせるファーケープのついた上品かつ存在感のあるエンパイアラインのドレス。長袖のデザインで、伝統的な模様が裾を彩り、その下には嫋やかなチュールが覗いている。
「完成したのを見てみたいですわ……」
「これを着たアレッタ嬢…………美しいだろうな」
「そんな美しいだな……っへ、陛下!?」
ひ、瞳がなんだか鋭いですの。少々怖いですわ……と言いますかどうしてそのような瞳孔の細さに!?
思わず陛下の方を向けば、我に返ったようにハッとなさっていて……。
「何をハッとなさってますの!? 陛下!?」
「いや……すまない。これだけは言えない」
「はい!?」
陛下は口に手を当てて、ものすごく驚いている様子でしたの。
このドレスを着た私……グレイシャルと陛下を象徴するような……このドレス……まるで陛下のものだと知らしめているような……。
「っ!!!????」
「……すまない」
「陛下!?!?」
「はいはい、お熱いところ失礼しますよ。じゃあ三日後にはできると思いますので」
とポピーさん。
三日後って流石に速すぎじゃありませんこと? え、ドレスですわよね? 最低でも三ヶ月、普通は六ヶ月くらいかかりますわよ?
流石に冗談で……。
「あと、そこのメイド借りてもいいかい? ちょっとモデルに使いたくてね」
「クロエを?」
なんて思っていたのに、訂正もない上にクロエをモデルに?
戸惑っている私を置いて、ポピーさんはクロエの身長を大まかに測り始めましたの。
先ほどからついていけていないのですが一体何が起こっていますの? 私少し前までいつも通り王妃教育を受けてましたわよね?
「うん、目視通りの167cm。ピッタリだね」
「あ、あのモデルというのは……」
クロエも流石に無表情を崩さずにいられないようで、焦ってますわ。
「ああ、ウェディングドレスのモデルを探してたんだよ」
「うぇでぃんぐどれす……?」
と絞り出すような声を出した後、魂が抜けた様子なクロエ。
もう頭が追いつかないのですが……ええと、つまり??
クロエ、結婚しますの?
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