chapitreⅢ 陛下、私と踊ってくださいまし!
29. 文通ってとっても仲良しな気がしませんこと?
「あらっ……これは……」
久々に実家から持ってきたトランクを漁っていたら、懐かしいものを見つけましたの。
*
「ダグラス様、こちらを」
「手紙……?」
【敬愛する陛下へ
突然の手紙に驚いたと思いますわ。と言いますか驚きまして? 驚かれていらっしゃったら、してやったりで
偶然にもトランクからレターセットを見つけましたら、昔ご令嬢の間で文通が流行っていたのを思い出しまして。ペンを取ってみました。
このレターセットが無くなるまで、二日に一回お手紙を送ろうと思いますわ。
お忙しいと思いますし、返信はお気になさらず。
アレッタより】
「お嬢様、お手紙が届いております」
「へ?」
【アレッタ嬢へ
突然の手紙に驚いた。嬉しい、ありがとう。
グローリアではそんなことがあったのか。グレイシャルでは……わからない。あまりそういう話には入れなくてな。
これから色々な話が聞けると思うととても楽しみだ。
確かに返信できない時もあるかもしれないが、なるべく返そうと思う。
ダグラス・グレイシャルより】
「まさか返信が来るなんて……」
「よかったですね」
【陛下へ
無理はしなくて大丈夫ですのよ? ですが嬉しいですわ。
この間王都周辺のご令嬢方のお茶会にお邪魔しましたの。なぜか私への評価が凄く高くて驚きましたわ。陛下、何かしましたの?
最近西部の領主が小麦の品種改良に成功したらしいですわ。より美味しいパンが食べられるようになるかもしれませんわね。
あとは……陛下の噂が少々変わってましたわ。前までは威圧感が強く怖い国王陛下だと言われていましたのに……わ、私を溺愛しているなんて言われているのです。ご心配なく。ちゃんと否定してきましたわ。そういう関係ではないと。
では陛下、お体にお気をつけて。
アレッタより】
「溺……愛……」
「側から見ればそうでしょうなぁ……」
【アレッタ嬢へ
お茶会か……華やかだったろうな。
俺は何もしていない。凄く高いというが正当な評価だろう。民へシチューを配ったり、一番大きな獲物を狩ったり、顔見知りになる程厨房へ通う次期王妃なんていない。庶民派でありながら淑女の鏡と謳われるなどは羨望の対象なのだろう。
小麦の件、初耳だ。ありがとう。ということは、もうすぐ使者が来るだろうか。
国内でもそんな噂だったとは……。その、前の噂に比べれば、今の噂の方がいいんじゃないだろうか。その……アレッタ嬢が嫌でなければ。
最近寒くなってきた。アレッタ嬢も気をつけてほしい。
ダグラスより】
「そんな羨望の眼差しだなんて……」
「普通異端を見る目の間違いでは?」
「ちょっとクロエ!」
【ダグラス様へ
い、嫌なわけがありませんの。だ、大歓迎(?)ですわ。
さて、本格的に冬になってきましたが、私は今マフラーを編んでいますの。伝統工芸品のような緻密な模様は作れませんが、そこそこ上手くいっていますわ。陛下にお渡しするのが楽しみです。緑と青の二つ作っていますけれど、どちらがいいでしょうか? お好きな色の方を差し上げたいのですわ。
そういえば昨日、クロエとオリヴァーが何やら言い争いをしていたので心配ですの。喧嘩でもしてしまったのでしょうか。
では陛下、明日もご公務頑張って下さいまし。
アレッタより】
「マフラーをくれるそうだ……」
「それはそれは嬉しいことですな。ダグラス様」
「……ああ」
【アレッタへ
マフラー、楽しみにしている。アレッタ嬢の上手くいっているはクオリティーが高そうで怖いな。いくら払えばいいだろうか。あと、もしよければ緑でお願いしたい。
そしてオリヴァーが喧嘩か……ありえないと思う。俺とでさえほとんどしたことがない。というか、昨日二人が手を繋いでいるところを見た。喧嘩していたとしても和解したのだろう。
アレッタ嬢は明日辺境伯領を回るのだったか。俺も同行できればよかったのだが。気をつけて無事に帰って来て欲しい。
ダグラスより】
「そんなお金だなんて!」
「実際出来は商品以上ですね、これ。しかも長いですし」
「ちょ、ちょっと興に乗りすぎたのよ……」
【ダグへ
お金だなんてそんないただけませんわ。私の趣味のような押し付けのようなものなのですから。けれど、クオリティーはお約束しますの。緑ですわね、わかりましたわ。
今日の辺境伯領では特産品の林檎や蜂蜜を頂きまして。とってもおいしかったですわ。厨房にお裾分けしましたので、きっと明日の食事に出ると思いますの。他にも、ご子息の方とお話ししたり、新事業についての相談を受けたり有意義な時間を過ごしましたわ。
そういえば、文通を始めてまだ一週間ですわね。ずっと話しているような気がして不思議ですわ。
アレッタより】
*
朝食後、陛下に呼び止められまして。
「林檎、美味しかった」
「まさか紅茶にジャムを入れるのは予想外でしたわ」
「北ではよくある飲み方だ」
私がお裾分けした林檎がどうなったかと言いますと、酸っぱいものはジャムとなって紅茶と一緒に、甘いものはデザートとして朝食に出て来ましたの。
「あと……その……アレッタ嬢に、これを」
「レターセットですの?」
それは薄い緑色の野花柄の可愛らしいもので。
まだ家から持ってきたものがありますのに……。
「……これからも文通したいのだが……ダメか?」
うっ……なんですのそのお顔は……反則ですのよ。眉を下げて、いじらしい瞳で……。
「ダメなわけないですわ!」
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