25. 陛下とオリヴァーは幼馴染なのです



「陛下とオリヴァーって幼馴染なのですわよね?」


 もはや恒例のように執務室にお邪魔していると、ちょうどオリヴァーもおりまして。

 今日の用事はアップルパイのお裾分けだったので、三人で食べていたのですが……陛下とオリヴァーが、絶妙な距離感すぎるのです。ジェームスとクロエがいないと、こんな無言になるなんて。


     「ああ、幼馴染だ」

「そうですよ」


 普通幼馴染って、もっと和気あいあいと話すものでは? ……わたくしの妄想でしかありませんけれど。


「……残念ながら、俺はダグラス様の声が聞こえないんです」


 と不思議に思っているところにオリヴァーがそう言いまして。

 そういえば確かに聞こえていないと言っていたような……けれど話が通じて……。


「そこは幼馴染ですから。何を言ってるのかはなんとなくでわかります」


 心を読まれたようにそう言われますの。なるほど、そういうことでしたのね。

 これでもアレッタ様がいらっしゃるまで、じいちゃんの次にダグラス様が何を言っているかわかる存在だったんですから、と。


    「…………」

「そんな、落ち込まなくていいんですよ」


 陛下、なぜか凄く落ち込まれてますの……。見るからにしょんぼりと……。感情表現が豊かになってからはわかりやすいので余計心にきますわ。


     「オリヴァー、今は   休憩時間だ」

「陛下は……」


 今は休憩時間だと仰ってますわ、という前にオリヴァーは私に一言断ってからジャケットを脱ぎまして。どこか切り替わったような……。


「んな落ち込むなよ。俺は気にしてねえから。そりゃ、昔みたいに話せたら嬉しいけどよ。別に意思疎通ができねえわけじゃねえし」


 !?

 え、口調が……。それよりも……


「陛下って昔は普通に話せましたの!?」


 初耳ですの。知らなかったですの。過去に戻って聞いてみたいですわ……。あと、理由も……。

 と私が驚きつつも興奮していると、陛下とオリヴァーは目が点に。


   「そ、そこな のか?」

「俺が無礼な口調してることに対する反応ではなくそっち!?」


 それ以外何があるのでしょう……と勢いのままにアップルパイを一口。こちらにきてから初めて作りましたけれど、やはり上手くできましたわ。サクサクのパイ生地にしっとりジュワッとりんごのフィリング。


「別に気にしませんの。クロエだって、主人である私に対してあんな態度ですし」


 話を聞かなかったり鼻で笑ったり騙したり………ですがそれほど仲がいいというものなのです。陛下とオリヴァーもきっとそんな感じなのでしょう。実際クロエもオリヴァーも人目があるところではちゃんとしていますし。


「それよりも、私は陛下とオリヴァーの昔の話が聞きたいですわ」


 陛下が普通にお話ができていた頃は、どんな風だったのかしら。とても興味がありますの。


「昔話……ですか。”あの“話なら、アレッタ様も楽しめるかもしれません」


     「”あの“話……オ   リヴァー、まさか」



『俺……町に行ってみたい』


 と幼い時分にダグラス様が仰いまして。二人でこっそり抜け出すことにしたんです。ちょうど生垣の裏の塀に穴が空いていたのでそこからそーっと出まして。

 それで市井に降りたんですけど……すぐお忍びだってバレました。

 なんてったってその時の格好が、黒い帽子、黒いメガネ、黒いマフラー、黒いコート。おまけに白い手袋だったんですから。でも俺たちにとっては、一番バレない格好なつもりだったんです。


『オリヴァー、どうしよう』

『囲まれた……な』


 んで、もちろん金目の物を狙ってる奴らに狙われました。今でこそ陛下はこんな体格のいい筋肉質ですが……昔はそれはもうなよっとした美丈夫で。二歳年上なのもありますが俺の方がその時は背丈が高かったんですよ。だからこう俺の後ろにすっぽり隠れて。


『まあ見てろって』


 その姿に燃えた俺は啖呵切ったんですけど……まあボコされました。もう本当にやばくなってきた時に、今まで後ろに隠れてたくせに俺の前に出てきて何を言ったと思います?


『ぼ、暴力は反対だ!』


 ですよ。あの時覚えてる中で一番笑った覚えがあります。そんなところでちょうどじいちゃんが見つけてくれて、ことなきを得たんですけど……二人して叱られて一番泣きましたね。

 ちなみにダグラス様の頬の傷は木登りして落ちた時についたものです。断じて剣で斬られた跡とかじゃなく。




     「オリヴァー、あれ    がお忍び用の服だって    言ってたじゃないか」

「アレッタ様、このような話ならまだまだありますよ」


     「おい、わかってる    んだろ。どういうこと なんだ?」

 と陛下は仰ってますが、オリヴァーは聞こえていないフリ。いえ、本当に聞こえていないのでしょうけれど、これはわざとですわね。半年以上経ってやっとあのお忍びの時の服装の謎が判明しましたわ。

 そして、陛下、可愛いですの。


「幼い頃の陛下を見てみたかったですわ」


 というと、オリヴァーが何か思いついたような顔をした後にニヤリと笑いまして。


「……見る方法ありますよ」

「え、どうやってですの?」


 グレイシャルにはそんな技術が……! と思っていると予想外なことを言われますの。


「陛下とお世継ぎを作れば見れます」


 ……………………はい!?


「そ、そそそ、そんなまだ婚姻もしていないのですわよ!?!? 世継ぎ!?!? ねえ、陛下ってああ岩化なさって!!」


 と同意を求めるようにそちらを向けば見慣れた岩化陛下が。

 うぅ……! オリヴァーってちょっとクロエと似てますわ! 少々いじわるなところも含めて!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る