14. 陛下、実家に帰らせて頂きますわ!
これはある朝のことでございましたわ。
悪寒がするほどに……見覚えのある鳩……そして加えているのは手紙……。
「お、お嬢様……」
「ク、クロエ……これはもしや……」
クロエは震えた手で手紙を受け取り、封蝋を確認すると放心して天を仰ぎましたの。
封蝋にはしっかりとフォーサイス家の紋章、世界樹を抱く女神様と真ん中のグローリア国旗が。
終わりましたわ。お母様ですの。
「ねぇ……開けなくてはダメ?」
「どうなるかは、お嬢様もご存知でしょう?」
「ええ、痛いほど」
クロエが持ってきてくれたナイフでそーっと袋を開けましたが……よかった。手紙以外何も入っていませんわ。第一段階クリアですの。
さて、次に本文を……。
「ねぇ……読まなくてはダメ?」
「どうなるかは、お嬢様もご存知でしょう?」
「ええ、痛いほど」
さっきもしましたわ、この会話。
あわわわわ……手の震えが止まりませんの。
大丈夫、私は強いのですわ。お母様からの手紙くらい読めますの……!
覚悟を決めてパッと開きました。
【愛する娘アレッタちゃんへ
元気でいるかしら? お母様はとっても元気よ。何故って、それはもちろん馬鹿娘が約束を破ったから。頭が軽すぎて忘れちゃったの?
落ち着いたら安否確認の手紙を送るようにお母様は言いましたよね??
冬の終わりに嫁いで行ったけれど、もう夏よ? 夏】
お母様、まだ”初“夏ですわ……。
【細かいことはどうでもいいの】
そ、そんな見透かしたように……。
【とりあえずお母様はとても怒っています。色々しでかした上に約束を破るなんて言語道断よ。これは“お話”する必要がありそうね】
ヒェッ! 文面の節々からわかるように凄く怒ってますの……!
【一度お家に帰ってらっしゃい。……帰ってこなければどうなるかくらい、わかるわよね? 手紙の件は忘れていても】
はい、わかりますの。お尻を物理的に叩かれますの、はい。
すなわち淑女としての死を意味しますわ。
「ど、どうでしたか?」
「読めばわかるわ。こうしてはいられませんのっ!」
クロエに手紙を渡し、急いで身支度を始めますの。一刻も早く陛下に実家に帰る許可を取らなければ。クロエが震えながら手紙を読んでいる間に、顔を洗い、髪を梳かし、服を着替えまして。
本来なら貴族が自分でやることではない? そんなことはお母様に言ってくださいまし!
「これは……エラ様かなり怒ってますね」
「というわけでちょっと陛下のところに行ってきますわ!!!」
「お嬢様身支度を……もうしてますね」
そうして勢いよく部屋を飛び出して、走っていない上品なラインをギリギリまでせめて執務室へ。
こんなことは意味がないのはわかっていますわ。それでも一刻も早く実家に帰る許可が欲しかったのです。私の心の安寧のために。
「陛下、失礼しますわ」
執務室のドアを軽くノックすれば、「……アレッタ嬢? どうぞ」とお声が。
陛下は早朝に鍛錬をして次に公務、その後朝食なのでわかっていましたけど、いらっしゃって一安心ですの。
ついドアをはしたなく開けい、今度は静かに閉めまして。
「お忙しいところ失礼します」
しかし、一大事なのです。
「陛下、実家に帰らせて頂きますわ!」
ボキィッ! とペンが折れたと思いましたら、なぜか気まずい沈黙に。
ふぇ、どうかなさいましたの??? なんだかいつもより怖いお顔ですけど。汚れてはいけない書類でしたの??
「ええ! 一刻も早く許可が欲しくて!」
私の命のためにも。
ってあら? な、なんだか先程よりも重い空気に……。
「いいえ全く。単に早く帰りたいだけですわ」
ああ、なるほど。普通の実家に帰省でここまで焦らないわ。陛下ったら責任感がお強いから心配してくださっていたのね。
ってポタポタ……? ああああ折れたペンからインクが溢れてますの! 書類が真っ黒に!!
「陛下、そんなことよりインクが!!」
「何もないですわよ!」
何か拭くものを….。というか腕を退けませんとインクが染みになってしまいますわ!
「陛下、汚れてしまいますわ!!」
と急いで側まで来て、折れたペン先を溢れないように立てて、私のハンカチで防波堤を。
ふぅ……ことなきことを得ましたの。
「はい?」
突然愛称呼び!? というかなんの話です?? 嫌いになんてなるわけがないですわ。陛下が治めるこの国を。
陛下はぎゅっと私の袖を握りしめました。
な、な、なんですのその表情。眉を下げて少々上目遣いで泣きそうで……庇護欲が!! 庇護欲が爆発しそうですの!!!
ああ、これがキュンですのね。よくご令嬢方が言っていた、可愛いものを見るとなると言われる……。陛下、可愛いですの。
「私だって帰りたくないですわ。しかしお母様が……」
そこで陛下は目が点に、ちょうどクロエが入ってきまして。失礼しますと。
「お嬢様、最後まで文章をお読みください。後ほど王家の方にも手紙が届くはずだと書いてありますよ!」
「えぇ!?」
と渡された手紙の続き読みますと。
【突然のことでびっくりしてしまうだろうから、王家にも手紙を送っておいたわ。まさか貴女が嫁ぎ先でうまくいっていないなんてことはないでしょうし。伝書鳩を使っていないから少し遅いかもしれないわ。じゃあ待ってるわね。
かなり怒っているお母様より】
とのこと。
と陛下。そういえば私焦ってこの状況を全く説明していませんの。
聞いた陛下は、なぜか安心した様子で、快く実家に帰る許可をくださいました。
*
「ではいってきますわ」
そうして二週間後、すっかり夏となりましたが、実家へ帰る事に。馬車の用意など色々済んでさあ出発という時、陛下がわざわざお見送りしてくださいまして。
「そういえば、あの時なぜあんなに焦っていましたの?」
まぁ……そんなことあるわけありませんの。私が陛下を敬愛していることが伝わっていないのかしら。
「お土産をたくさん買ってきますわね!」
さて……叱られに実家へ帰りますの。……憂鬱ですわ。一ヶ月以上陛下とお会いできないなんて。
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