04-78 エピローグ③:世界を駆ける



『ヘルメス!』

『ありがとう』

『ごめんね』

『また会えるからね』

『シャニより』


 刀を握った瞬間、シャニの声とともにガレキの城で起こった出来事よ記憶がヘルメスに流れ込んできた。ヘルメスはシャニとファムに何が起こったのかを把握した。


「シャニ」


 ヘルメスはつぶやくと、ダンジョン目録を開いた。刀に付着していた血液は敵の返り血だった。記憶を失うというアクシデントが起こってヘルメスのダンジョンに行けなくなり、シャニはやむを得ずファムとともに他の世界へ渡ったのだ。


 他の世界に渡るには存在が消滅するリスクを負うものらしい。消滅を回避するためのカギとなるのが名前……異世界に渡っても「シャニ」という名前を忘れずにいられたら、シャニは消滅せずにすむ。


 シャニは無事、世界を渡ることができたのだろうか。


 生きてさえいれば、いつかまたシャニと会えるかもしれない。


「ブック」


 ヘルメスはダンジョン目録を呼び出した。パラパラとページをめくる。もしシャニが世界を超えることができたのなら、シャニの名前はダンジョン目録に残っているはずだ。


 生きてくれてさえいればいつかまた会える。きっと会える。期待を込めて祈るようにヘルメスはページをめくった。


 ダンジョン目録のページ数は10,000を超える。ヘルメスのダンジョンに魔物が増える度にページ数も増加する。膨大なページの中から、ヘルメスの指は一発でシャニのページにたどり着いた。ヘルメスはページの内容が目に入らないようぎゅっと目をつぶりしばらく天を仰ぐと、おそるおそる目を開き、シャニのステータスを確認した。




―――――――――――――――――――――――――

【魔物のステータス】

◆基本情報

名前:シャニ

性別:♀

階級:裏切り者・超越者

系統:悪魔属

種名:ハーフデビル (マクスウェルの悪魔と人属の魔物の混血)


◆所持スキル

※能力スキルだけを表示。

・戦闘系スキル


象形拳【初】ピクトグラム・ビギナー〉……動物を模した格闘術。

召喚魔術【限定】サモンマジック・リミテッド〉……条件を満たしたときのみ使用可能な魔術。使用には代償を伴う。※使用不能

NEW!〈刀剣術【初】サムライソードマスタリー・ビギナー〉……刀を用いた戦闘技術 。


・探索系スキル

〈回線検索術【極】〉……※使用不能


・生産系スキル

なし


・特殊スキル

〈転移回線技術者【極】〉……※使用不能

〈情報網の支配者〉……※使用不能

〈転移結界技術者【極】〉……※使用不能

〈天才〉……スキルと取得と熟練にかかる時間が短縮される

NEW!〈超越者〉……世界の壁を越えたもの。ダンジョンマスターとの生死のリンクが切れる。デリートの対象とならない。ステータスにボーナスを得る。

NEW!〈真名の再獲得者〉……生来の名前を失い、再び獲得した者。自身に関わる因果が強化される。ステータスにボーナスを得る。


◆能力解説

 私、ステラ! シャニちゃんの能力を解説します。


・戦闘能力について

 ……クソ弱いです。今はまだ。でも将来性は十分です。新しく刀剣術を習得したみたい! 剣士になるのかな。


・特殊スキルについて

 ……転移回線の天才を自称していただけあって、そちらの方面の能力がとても高かったシャニちゃん……過去形になってしまいました。もう使えなくなってしまったようです。


 ただ〈天才〉のスキルがあるので将来性は十分です。


 〈超越者〉、〈真名の再獲得者〉のスキルを獲得してステータスがアップ。因果が強化される?? 意味はよくわかりません。結びつきが強くなった感じなのかな??


・マスターへ

 ……シャニちゃんは他の世界に行ってしまいましたが、生きていてよかったです。お互い生きてさえいれば、また会えると思います。シャニちゃんと再会する日が楽しみです。


―――――――――――――――――――――――




「生きてさえいれば、か」


 いつになるかはわからないが、シャニにまた会う日まで、おれたちも生き残らないとなとしみじみ思った。


「がんばれよ。シャニ、おれたちもがんばるから」


 とつぶやいた。どこかでシャニが生きている。そう思うだけでうれしかった。


 ヘルメスはシャニが生きている喜びをステラと分かち会おうと思った。


 チラとステラを見た。ステラは相変わらず眠っていたが、よく見ると顔色が青ざめ、呼吸が浅くなっていた。


「ステラ……?」


 その姿はヘルメスに否応なしに死を連想させた。話しかけても反応がない。意識がないのだ。ガレキの城での無茶の反動が、一気に噴出したようだった。


 ヘルメスはステラをお姫様抱っこの体勢で抱え、ベッドに寝かせると大声を上げながら、仲間たちを呼びに行った。





 


 この度の戦いでヘルメスたちは多くのものを得た。


 ポイント、経験、なにより人の縁……


 シャニ、リコリス、四天王、バアル……


 縁は人生を豊かにするものだが、一方で足を引っ張ることもある。


 ヘルメスとステラの関係は深まりシャニという仲間も得たが、敵対する者たちとの関係もまた深まってしまった。


 戦いは続く。


 ラブラブ展開に突入するにはまだ早い……





つづく


****


NEXT 

05『死の音がする森を超えて』


****




あとがき


 ここまで読んでくれてありがとうございます。

 気が付けば50万文字を超えてしまいました。

 めちゃくちゃ長いのに読んでいただき本当にありがとうございます。

 

 どうにか第4章を書き終えました。

 第4章はミスリードとか伏線を意識して書いたシリーズで10年前の僕にとっては結構な挑戦でした。

 

 お知らせしたとおり、10年前に書いたストックが切れてしまい、過去の自分が書いた作品の続きを10年後の自分が書くという状態になってしまいました。更新頻度が落ちてしまい申し訳ありませんでした。

 

 10年前に書いた時は、リコリスとの再戦はヘルメスが秒で負けるあっさりしたものでしたし、バアルとは一言二言しゃべって終わりだった気がしますし、シャニが仲間になることもなくガレキの城に置き去りにしてますしステラとの三角関係的な要素もなかった……こんなにラブコメチックな作品だったっけ……まあいいか。


 第5章は作者にとって最大の試練となると思います。10年前、エタらせてしまったのが第5章なのです。物語の展開がかなりキツイものになってしまい、書くのもつらければ読むのもつらい感じでした。読んでくれていた方からお𠮟りや心配の声をいただいたほどでした。

 

 10年経って物語をやり直せるのだから、つらくなり過ぎないようにちょっと考えたいと思います。まだ書けていないのですが、十分に書き溜め内容を確かめて最後まで書けると確信してから投稿したいと思います。


 そのときはまたこの作品を読んでいただけると嬉しいです。

 またお会いできるようがんばります。もしこの作品が完結になっていたら、その時は察してください💦


 ここまで読んでいただき本当にありがとうございました。

 


 

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