04-75 コネクテッド(仮) その⑦





「あ、ステラ様、忘れものですよ。落ちていたので拾っておきました」


 とファムは鞘に収まったニッカリ青江をステラに渡した。


「ありがとうございます」


 とステラは受けとった刀を抱きしめ、ペットにするように頬ずりをした。


「ねぇ、ぉねえさんどぅしょぅ? 転移魔方陣がバアル様に消されちゃって帰れなくなっちゃったんだ」


 とシャニが言うと、ファムは「問題ないわ」答えた。


「……私なら1分あれば転移魔方陣を構築できますので」


「おお!」


 さすがファムさんとヘルメスは思った。できないことはないのではないかと思わせる万能ぶりだ。


「……ただし転移魔方陣は本来複数の術者が長い時間をかけて編むもの。私一人で構築した即席の魔方陣では一度に2人しか転移させることができません。再度転移を行うには使用後に再び1分の時間を掛けて魔方陣を構築する必要があります」


「つまり2人が帰ったあと誰かひとりがここに残り、再構築までの1分を耐えなければならない……ということですね」


 ステラが言うと、ファムが頷いた。


「はい。また魔方陣を構築する1分間、私は身動きがとれなくなってしまいます」


「もしその1分の間に敵が戻ってきたら……」


 残った者はファムの手助けなくひとりで敵の対処をしなくてはならないということだ。ヘルメス、ステラ、シャニ、もっとも戦闘能力が高いのはステラだが、ステラの体調は万全とは程遠く、戦う力は残っていない。


「じゃあ、おれが残るよ。おれはダメージを無効化できるからね。シャニとステラを先に転送してくれ」


「ぅぅん」


 ヘルメスが言うと、シャニは首を横に振った。


「ヘルメスやステラさんに空間転移の設定ができる? ぁたしが先に転移したら残った人が帰れなくなっちゃぅょ。全員が帰るには、ぁたしが残るしかなぃ……そぅだよね? ぉねぇさん」


 ファムは「ええ」と俯いた。


「……そうなるわね……でも安心してください。シャニは私が守りますから」


 とファムはシャニに笑いかけた。


「さあ魔方陣を作るわよ。シャニ、準備をして」


「ぅん!」

 

 ファムはしゃがみ床に手を当てるとふうと息を吐いてから精神集中を始め、呪文を唱え始めた。シャニは端末デバイスを操作しはじめた。


「魔方陣つくるぞつくるぞ……できろできろ~、ほいほいほいほいほい……」


 相変わらず呪文ダサいなとヘルメスは思った。ファムへの配慮から口には出さなかったのだが、一瞬睨まれたように感じたが気のせいだろうか。


 ファムの手を中心に光の幾何学模様が広がっていく。


 ヘルメスは念のため転送魔方陣の部屋に接続する2つの部屋を土砂で埋めておいた。


 やがてファムを中心として直径2メートルほどの魔方陣が形成された。少しサイズは小さいがこの青白い輝きはヘルメスの知る転移魔方陣の光と同じものだった。


「さあ、魔方陣ができたわよ。シャニ、準備はいい?」


「さすがぉねえさん。バッチリ使ぇるょ! まずはヘルメスとステラさんから転送するからね」


「ああ、ありがとう!」


 ヘルメスにはこれまでの苦労を思い返した。たくさんの敵を倒し、リコリスに負け、シャニに出会って、リコリスにまた負けたけど、ファムさんに助けられて、バアルが不穏な雰囲気で出てきたがステラがぶっ飛ばし、四天王が出てきたけど、ファムさんに助けられ、なんだかんだここまで来ることができた。


 ヘルメスもステラも全力を尽くしたが、ふたりだけでは無理だった。シャニとファムの助けがあったからこそ、ヘルメスたちは帰還を果たすことができるのだ。


 ガレキの城の壁は厚かった。まったく通用しないわけではなかった。リコリスに負けはしたがあと少しのところまで追い詰めたし、バアルとの名づけのゲームに関しては完勝といっていい。シャニはヘルメスの名づけを受け入れ、ステラはバアルの名づけを受け入れなかったのだから。


 今回の戦い、ガレキの城には多大な損害を与えたが、ヘルメスが失ったものはない……勝利と言ってもいいのでは……というのがヘルメスの所感だった。一方で不安になるのは、リコリスのような強大な魔物を多数所持しながら戦線に投入しないバアルの考えが読めないことだった。今回もリコリスに『殺せ』と命じていたなら、ヘルメスもステラも生きてはいまい。ヘルメスからすれば手を抜いているようにしか思えない。


 なにかバアルには狙いがあるのか……ステラに妹の名を継いでほしいと言っていたが関係があるのだろうか。


 長かった旅もいよいよ終わる。少なくないポイントとシャニと言う新しい仲間を得てヘルメスとステラはいよいよ自分たちのダンジョンに帰るのだ。


「いよいよ、ガレキの城からおさらばだな」


 二度とこんな大変な思いはしたくはないのだが、ヘルメスは不思議と感傷的な気分になっていた。


「さようなら、シャニちゃん、ファムさん。私、ふたりのこと忘れない……!」


「何言ってるの! ぉ別れじゃなぃょ! 1分後にはまた会ぇるんだから」


「そうだぞステラ。でもありがとう。ここまで来れたのはシャニとファムさんのおかげだよ」


「いえ……お礼を言わなければいけないのは私たちの方なのです。あなた方が諦めずに脱出を目指したからこそ、私はシャニに会うことができ、シャニはバアルの支配から逃れることができた。いくら感謝しても足りないくらいですわ……」


 ファムは涙を指でぬぐった。シャニの目にも涙が滲んでいた。


「じゃぁ、先に行って待っててね! 一分後に追ぃ着くからね」


「ああ! 一分後に!」


「シャニちゃん、私たち待ってるからね! そうだ!」


 ステラは自分の刀をシャニに渡した。


「これ……私の大事な刀。一分後に返してね。きっとだよ」


 シャニは「ぅん! きっと返すからね!」と頷くと端末デバイスの操作に戻った。


 ステラが刀を渡したのはおそらく魔方陣再構築までの1分間、シャニがひとりで戦えるようにとの気遣いに違いなかった。シャニは戦えないからお守りがわりにしかならないが……それでもふたりのギスギスした感じがほぐれたように感じてヘルメスはうれしかった。


「じゃあヘルメス、ステラさん行くょ! 直接転移回線ホットライン――接続コネクトッ!」


 転移魔方陣が一層激しく輝き、ヘルメスとステラの体がその光の中に溶けていく。その一瞬後にはキラキラとした光の残渣とともにヘルメスの視界が一瞬にして切り替わった。


 色とりどりのガレキが組み合わさった混沌のダンジョンの風景は一瞬にして消え去り、見慣れた転移魔方陣の部屋へとヘルメスとステラは転移した。


 長い旅が終わった。数々の修羅場をくぐり抜け、ヘルメスとステラは帰ってきた。






【第4章の戦績】

『ガレキの城96階層攻略戦』


①66お仕置き部屋の戦い(VS骨喰藤四郎など)

・ヴォイスゴースト1体……ニッカリ青江による斬殺

・ハイエルフ2体……ニッカリ青江による斬殺

・ミノタウロス1体……土砂による圧殺

【参考】

・ハイエルフ2体……属性反発作用エレメントリパーションによる同士討ち

・スケルトン『骨喰藤四郎』……土砂に埋まるも生存


②67お仕置き部屋の戦い その①(VS血反吐男爵など)

・ブラッディナイト3体……土砂による圧殺

・血まみれマン3体……土砂による圧殺

・血みどろエルフ3体……土砂による圧殺

・血液一気飲み男爵3体……土砂による圧殺

・血反吐男爵2体……魔弾【炎】による爆殺、およびニッカリ青江による斬殺


③67お仕置き部屋の戦い その②(VSリコリスを含む精鋭部隊) 

・ハイエルフ20体……土砂による圧殺

・ミノタウロス4体……土砂による圧殺

・きのこマン5体……土砂による圧殺

・未確認の魔物4体……土砂による圧殺

【参考】

・ミノタウロス(♀)……リコリスの見切りによる斬殺

・魔弾の使い手10体……リコリスの見切りによる爆殺

・弓の使い手10体……リコリスの見切りによる爆殺

・槍の使い手6体……リコリスの見切りによる爆殺

・犬型魔物4体……リコリスの見切りによる爆殺

・血反吐男爵1体……リコリスの見切りによる爆殺


④89お楽しみルーム

・ハイエルフ2体……土砂による圧殺


⑤リコリス VS ……

・VS ステラ①……勝者:リコリス

・VS ステラ②……勝者:リコリス

・VS ヘルメス・ヴァージニア・ステラ……勝者:リコリス

・VS ファム・ヴァージ……勝者:ファム・ヴァージ


⑥バアルとの名づけゲーム

・ヴァージニア→【シャニ】……◎成功

・ステラ→【アばぶひぇッ】……×失敗




*****


あとがき


 ここまで読んでいただきありがとうございます。

 さて超長かった4章もひと段落。めでたしめでたし。というわけで次回からエピローグに入ります。

 今後ともよろしくお願いいたします。

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