03-27 魔女っ子強化計画
*
「タフガイはどうした……? やっぱり、再生できなかったのか?」
マッドが問うとメイは途端に表情を曇らせた。
「うん、さすがのタフガイも再生できなかった……。今はこのダンジョンの一室で横になっているわ」
涙混じりで言う。 横になっている……その意味をマッドは察した。
「そうか……」
マッドは俯いた。その時、
『こらヘルメス! うちのことも紹介せんか! 話が逸れていっとるやんか!』
と、独特なイントネーションが部屋に響き渡った。女の声に聞こえたが、その姿は見えない。
「ああ悪い悪い、ステラの隣の席に座っているのがジンリンだ。うちの魔術師さ」
その席には
「マッドッ! その石ころに見える魔物がジンリンさんだッ! 強いぞ……」
とラビリスが必要以上に力強く言った。瞬間、石ころが跳び上がり、ぴょん、とテーブルの上に着地した。
『うちがジンリンやで。あんたのゴツい魔法で体を吹っ飛ばされて石ころの姿になってしもうたが……。共闘するなら恨みっこなしや。魔女っ子ジンリンと呼んでくれ。よろしくな』
と、独特のイントネーションで自己紹介をした。
「ま、魔女っ子か……」
魔女っ子って言われても、って感じではある。しゃべって動く石ころに魔女っ子要素を見出すのはひどく困難だった。
『……で、あんたらの仲間、タフガイとかいったか。あれな生きとるで』
ふとマッドの心に光明がさした。頭部を失ったタフガイが生きている。驚愕の事実ではあるが、タフガイならありえるなとマッドは思った。そう思ったのはメイも同様だったようで、「そうなの!?」と曇った表情がコロッと笑顔に転じた。
『うちは死体のプロや。間違いない。頭を切り落とされても死なんと生きとるで』
「タフガイは
『ふむ……。なるほど、
「いえ、それまではわからないわ。あたくしたち、付き合いが長いわけじゃないし」
そう言うとメイはがっくりと肩を落とした。がっかりしたのはマッドも同じで、やはり、がっくりと肩を落とした。
『そうか……そんならしゃあない。モシカスルト魔物のプロ、魔物斡旋所の職員に聞いたらわかるかもしれんな……というわけでヘルメス! 今度ファムの姉ちゃんが来た時に、ちゃんと聞いとくんやで! 』
と言った。
「わかった」とヘルメスが答えるころには、
「タフガイの様子を見てくるわ」
「もう生き返ってるかもしれんなッ!」
とメイたちが駆け足で部屋を出て行っている。マッドもそれに続き、部屋を出る間際ステラに向かってぎこちないウィンクをした。
*
メイたちが部屋を出て行ってしばらくしてからジンリンが言った。
『なあヘルメス。うちの体どうにかしてくれんか。いつまでも石ころのまんまじゃ舐められてまう。用意して欲しいのは適切に管理された女の死体! できれば五体満足で生前は魔術系のスキルの使い手やと最高や! すぐに手配してくれんか』
ジンリンの怒涛のようなオーダーを受けたヘルメスは、
「なあステラ。死体の手配……ダンジョンマスターってそんなことも可能なのか?」
ステラは「はい」と応じる。
「死体屋という組織が存在します。そこに話をつければ用意できるはずですよ」
「よし、じゃあ手配しといてくれ」
「なんで私が? そういう外の人との仕事はマスターがやってくださいよ」
「だってめんどくさいんだよ」
『こら! うちの体の一大事をめんどくさいやと! 魔物のメンテもダンジョンマスターの仕事のうちや! さっさとやらんかヘルメス』
「くそ~、わかったよ。ジンリンはよくやってくれてるしな……マジで」
愚痴を言いながら、ヘルメスは便利な水晶玉に向かって、「死体屋? だっけ? そこにつないでくれ」と一言。すぐさま「プルルルル」と水晶玉から発信音が鳴りだした。ガチャ。
『はい……。死体屋でございます……』
ボソボソと陰鬱な声が応じた。
「お世話になります、ダンジョンマスターのヘルメスと申します。四次元座標は第六世界の(2345678:129309:5834578:-0000020)。それでですね、ええと、人間の死体を手配していただきたいのですが」
『ほう……。ヘルメスさん……と言えば12時間前に結界犬の斬殺死体を51体も送ってくださったダンジョンのマスター様ですな……。ありがとうございました……。どれも見事な斬り口でしたよ……。一体は観賞用にホルマリン処理させていただきました……。ひ、ひひひ、ひ……』
不気味な笑い声が響き、ヘルメスはたちまち嫌悪感を覚えた。最初の戦闘の際、ステラが倒した51体の結界犬。1体30ポイントで処理したそれらの死体は、どうやらこの死体屋に送られていたらしい。
『さて……ヘルメス様。人間の死体と言ってもいろいろございます……屈強な戦士の死体をはじめ、魔術使い、商人、王族に奴隷……もちろん子供や赤ん坊なんかの死体もございます……どのような死体をお望みですか……? 観賞したいなら美しい死体がございますよ……ひ、ひひひひ……』
もうやだこの人。虫唾が走って反吐が出る。
「ジ、ジンリン。おれこの人もう無理……換わってくれ」
『しゃあないな、おい死体屋! 新鮮な魔法使いの少女の死体はあるか? 原型をとどめてるやつや!』
「ええ、ございますとも……。とびきり上等な死体がさきほど手に入ったばかりです。詳細をお送りしましょうか……?」
『ああ頼む。生前のステータスもつけてな』
「かしこまりました……」
死体屋がそう言うと、ブウウンと水晶玉の画面が切り替わり、少女の画像と、ステータスが表示された。
―――――――――――――――――――――――――
“基本情報”
名前:オトヒメ
性別:♀
階級:導士
系統:人属
種名:人間【仙】(セン)
“能力値”
L V:46
H P:445
M P:478
ちから:320
体 力:351
魔 力:524
対魔力:549
素早さ:426
知 力:445
幸 運:118
“所持スキル
〈符呪術【超】〉
〈易術【達】〉
〈伏魔術【達】〉
〈格闘術〉
〈棒術〉
〈仙〉
“スキル詳細”
・〈
・〈
・〈
・〈格闘術〉……徒手空拳による戦闘が可能。
・〈棒術〉……棍、および杖による戦闘が可能。
・〈仙〉……仙専用装備「仙具」を装備可能。
“死因および状態”
ダンジョン“病魔の山”の攻略中、第3階層にて魔力枯渇により死亡。左拳および右大腿に軽度の擦傷。その他に外傷はほとんどなく良品。純潔。
“価格”
・素体のみ……550,000ポイント(分割払い可。10回払い)
・素体+生前の装備込み……5,450,000ポイント。(分割払い可。10回払い)
・生前の装備(天啓の簪(かんざし)、如意棒、縛妖索、飛天の羽衣、風火二輪、癒しの勾玉、乾坤圏)
“備考”
導士は「仙具」を使った戦闘が真骨頂。素体のみでも十分に美しいですが、装備を身に付けた姿はまさに美麗の一言に尽きます。ご購入の際は、是非装備もご一緒にお求めください。
―――――――――――――――――――――――――
『ほう、
「ひ、ひひひひ……。結界犬を送ってくれたあなたがたにならば、もう勉強させていただきますよ……」
『素体のみで、400,000ポイントにまけてや』
『かしこまりました……。お支払いは一括? 分割?』
『分割で』
『かしこまりました……。では月44,000ポイントの10回払いとさせていただきます。頭金の支払いを確認次第、転送魔法陣に現品をお送りいたします。なお返品は2日以内。それを過ぎましたら返品できませんので悪しからず……』
『ふぉふぉふぉ、それじゃあよろしくたのんだよ。この体でヘルメスをたぶらかすのが楽しみやで、ふぉふぉふぉふぉふぉ』
『楽しみにお待ちください……。ひ、ひひひひひひひ……」』
ジンリンの嬉しそうな「ふぉふぉふぉふぉふぉ」と死体屋の「ひひ、ひひひひ……」との笑い声がかさなり奏でる歪なハーモニーの不気味さに、鳥肌が経つのを感じたヘルメスは間髪いれず、
「バカか。月44,000ポイントなんて払えるかよ。ただでさえ借金でカツカツなのに」
ジンリンに釘を刺し、ステラもそれに応じる。
「そうだよおばあちゃん、もっと安い死体にしてよ。節約しないとこのダンジョン破算しちゃうんだよ。ただでさえ第2階層の魔物が全部パーになっちゃって大変なんだから」
『う……』
ジンリンが呻き声を上げ、閉口した。ヘルメスは、嫌悪感を堪えながら水晶玉に向かって、
「というわけで死体屋さん、その死体はキャンセルだ。別に魔法少女でなくてもいい、もっと安いヤツないの? 装備込みで1,000ポイントくらいの」
「ありますとも。昨日コンニャクを喉に詰まらせて死亡した老婆のものがございますよ……。若い頃はそこそこの魔術士だったらしいですが……。画像をお送りしましょうか?」
「いや、結構。おいくらで?」
「きっちり1,000ポイントでございます」
「じゃあそれで」
「“1,000ポイントを使用して、“老婆の死体”を購入しますか?“」
「“承認”。ジンリン、すまんがしばらくこれで過ごしてくれ」
『はあ……。しゃあないな。その代わり、ポイントがたまったらもっと良い死体に乗り換えさせてもらうで』
「ああ、ポイントがたまったら、な」
『約束やで?』
「約束だ」
ヘルメスはこくんと頷いた。すると死体屋の「ひ、ひひひひ……」という不気味な笑い声がし、
『お買い上げありがとうございました……。では、準備が出来次第発送させていただきます。またのご利用をお待ちしておりますよ……ひ、ひひひひひ』
ガチャン、と通信が切れた。
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