02-4  そして始まるダンジョンづくり




 オネストとの通信が切れて、5分ほどが経った。


「うひょお、入ってるぞ。1,000,000ポイント! まあ借金だけどな!」


 ヘルメスはダンジョン目録の30,001ページ、所持ポイントの項を見るや歓喜の声をあげた。




――――――――――――――――――――

“所持ポイント”

☆1,005,700ポイント


NEW【借金(ポイント)】

・融資額 1,000,000ポイント

・利息 0ポイント(利息加算まであと10日)

・合計 1,000,000ポイント

――――――――――――――――――――




【借金】の項目が追加されていた。まあそれについては深く考えないことにするとして、とりあえず1,000,000ポイントゲットである!


 ケタ違いのポイント数に胸が躍る。これを獲得するまでに大変な苦労があった。ヘルメスはしみじみと記憶をたどる。


①ポイントを借りようとしたら、

②自己紹介で盛大に噛んでしまって、

③オネストが査定にやって来た。

④オネストが投げた名刺が頭に突き刺さって、

⑤自分のステータスだけまともじゃないことがわかり、

⑥外の下見に行ったらヤバイところで、

⑦銀行の金儲けに巻き込まれ、

⑧ガレキの城と戦争することになり、

⑨今に至る。


 あれえ? 大して苦労してなくない? 本にしたら100ページは行きそうなくらいいろいろあったはずだが、未だに侵入者と戦うどころか、ダンジョンすらまともに作っていないヘルメスだった。


「さて、ポイントも入ったことですし、早速ダンジョンを作りましょうか!」


 朗らかに言ったのはステラである。ヘルメスが大量のポイントを獲得できたことを喜んでいた。


「ああ! そろそろ作らないといいかげんヤバいと思ってたんだ! 本当に……」


 このダンジョンにきてヘルメスがやったことと言えば、ステラの召喚と、服の作成、部屋の改築くらいである。ちなみにヘルメスが改築した部屋はダンジョンマスターの居住空間となる指令室だから、侵入者対策はほぼ手つかずの状態だった。


「はい、ではでは侵入者を撃退する準備をしましょう! その前に! ダンジョン作りの基本的なルールをご説明します」

「おぉ、なんか久しぶりだな。ステラの説明を聞くのは」


 オネストが部屋に来て以来であるから8時間ぶり。長い間ダンジョン作りから離れていた気がしていたが、思ったより時間は経っていないのだった。  


 オネストとの緊張感ある会話と違ってステラとの会話はほっとする。


「ダンジョン作りのルールその①! “攻略できないダンジョンは作れない”」


 ステラが人差し指をビシっと立てる。それにしてもさて? 侵入者による攻略を阻止するためにダンジョンを強化するのではないのか? とヘルメスが問うと、「それは勿論そうですが、」とステラが続ける。


「正確に言うと、ダンジョンマスターのいる指令室は外界から隔離できないってことです。必ずダンジョンのどこかと強制的に繋がってしまうのです」

「つまり、指令室の出入り口を全部塞いで閉じこもるわけにはいかないってことか」


 先ほどのやりとり以来、少し頭が回るようになったヘルメスだった。


「はい、そうなんです。ただし、指令室の出入り口を見つけにくいように隠したり、鍵を掛けたりするのはありです。上手いダンジョンマスターは巧妙に指令室の出入り口を隠します」

「ダンジョンの魔物が全部やられてしまっても、指令室さえ無事ならやり直しが利くもんな。なるほど、ダンジョン作りのルールその①は理解したぜ! それにしてもなんでそんなルールがあるんだ? 指令室を隔離出来た方が安全だろうに」


 ステラは「うーん」と首を傾げ、「しらない!」と言い放った。これにはさすがのヘルメスも「ちょ、それはさすがにいい加減だろ」と異議を唱えたが、ビシっと立てたステラのVサインに阻まれる。


「ダンジョン作りのルールその②! “あとは自由”! マスターの好きなようにダンジョン作ってください! 以上でーす」


 そう言うとステラは「オホホホ」とお嬢様みたいな変な笑い声を上げながらどこかへ走り去っていった。説明責任から逃げたのだ。しかしすぐさま部屋の壁に阻まれ、くるりと踵を返してとぼとぼと戻ってきた。


「……おかえり」

「ただいま」


 なんだこのシュールな展開、と思いつつも時間が無い。ヘルメスは早速ダンジョンを作ることにする。


「よし! やったるぜ」


 ダンジョン目録をパラパラとめくり使えそうな設備やアイテム、魔物を探しながら、今までステラに聞いたダンジョン作りのコツを思い出そうと記憶をたどる。


 うん。ダンジョン作りのコツなんて聞いたことが無い。  


「なあ、ダンジョン作りのコツを知ってたら教えてほしいんだけど」

「ダンジョン作りのコツですか……? うーん」


 と首をひねるステラ。そして。


「ああ! 思い出しました。ダンジョンマスターの3つの心得」

「おお、そういうのを待っていた」


 ポンと膝を打つヘルメス。


「心得①“侵入者は活かさず殺さず”。攻略難易度を困難にし過ぎるとダンジョンに挑む者が減るため、ポイントが得にくくなります。なので地域のレベルにあった程良い難易度のダンジョンを作ること。地域と共存することが長生きのコツ」

「なるほどな。まあ普通はそうやってポイントを稼ぐんだろうけど、おれ達の場合はちょっと違う。侵入者はガレキの城の魔物だろうから、容赦なくぶっ殺すくらいでいいと思うぜ」


 ステラの意見を全否定してしまったヘルメスだった。しかしステラは「私もそれで良いと思います」と頷き、


「心得②“平常時でもポイントを稼げ”。侵入者が常に来るとは限りません。平常時でも魔物を利用したもの作りや、繁殖&ポイント還元など行い、常にポイントを得られるようなシステムを構築すること」

「ああ、なるほど。そういやそんな話、昨日したな。撃退するだけじゃなくてポイントも稼がないと……トイチの利息を払えねえ……」


 青ざめるヘルメス。ステラは「うんうん」、と頷いていた。


「心得③“鍛えよ”。ダンジョンマスターは日々精進すること。ダンジョンマスターのレベルが上がれば、ダンジョン内の魔物も強くなる。ダンジョンマスターが智謀に長ければ侵入者撃退の効率が増す。ダンジョンマスターとは楽をするものにあらず、苦労をしつづける者なり。よく戦いよく学べ」

「う……。耳が痛いぜ。確かに俺弱いからなあ。〈初心者〉スキルの効力が切れたら、日常生活で(ステラによって)死ぬかもしれん」


 なによりステラにおんぶに抱っこのままでいいはずがない。ヘルメスは強くなりたかった。


「なあ、強くなるにはどうしたらいいんだ? スキル習得とかよくわかんねえし。ステータスを見たらいつの間にか新しいのが増えてるけどどういうこと?」

「スキルは条件を満たすことで勝手に付きます。あとは訓練で習得することもできます」

「訓練?」

「例えば〈剣術〉スキルを習得したかったら、〈剣術〉スキルのランク【達】マスター以上の魔物に師事することでそのスキルを習得できます。もちろん向き不向きがありますから、必ず習得できるとは限りませんが」

「ふむ。要はスキルを持っているやつに教えてもらうんだな。大体わかってきたってばよ!」


 つまり、

 ①容赦なく侵入者を倒すえげつなさを持ちながら、

 ②繁殖やもの作りによってポイントを稼ぐことが出来、

 ③こっそりおれも修行ができる。 そんなダンジョンを作ればいいのだ。


「よっしゃ! ステラちょっと知恵を貸してくれ。おれのダンジョンの構想がおぼろげながら見えてきたんだ!」

「はい!」

「まずはだな。繁殖力が強い魔物と、その魔物が繁殖しやすい環境条件を教えてくれ。24時間体制で迎撃しなきゃいけないだろうから、できれば夜行性と昼行性の2種類が共存できる、そんな感じのダンジョンにしたい。それから相手もダンジョンマスターだから様々な魔物をけしかけてくるだろう? どんな対策をしたらいい?  あとはスキルだな。どんなスキルがあるのか、その対抗方法も含めて教えてくれ。オネストさんクラスのバケモンが来る可能性もある。そいつを追い払うにはどうしたらいいと思う? それからそれから……」







 ヘルメスの怒涛の質問攻めに戸惑うステラであったが、内心頼もしく思っていた。ヘルメスは彼なりに必死だ。それが十分に伝わってきた。 かくして、ヘルメスはダンジョン作りに没頭する。


 罠の配置、魔物の配置、指令室の配置……。彼なりに頭をフルに使って「ガレキの城」との戦いの準備を整えていく。そんな感じで2日間を眠らずに過ごし、そして3日目――ダンジョンの保護期間終了の時がやってきた。

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