01-10 銀行にポイントを借りよう その③
*
ヘルメスとステラとそれから来訪者オネストは、それぞれ席に着くと、円卓の上に用意したコーヒーを「いただきやす」の合掌の後ですすった。
「結構なおコーヒーでごぜェやす」
オネストが淡々と言う。ポイントを消費して呼び出したコーヒーは確かに美味だったが、彼が言うと途端に社交辞令に聞こえるから不思議だ。
思わず、おコーヒーってなんだよ! といつもの癖でツッコミそうになったヘルメスだったが、それを堪え、
「き、今日はご足労いただき、ありがとうごぜぇやす。オネストさん」
と今更ながら査定に来たオネストを
ステラはというと我関せずのしかめっ面で、コーヒーをちびちび飲み続けている。顔をしかめている原因は、おそらく緊張のためだと思われるが、ひょっとしたらステラは猫舌なのかもしれなかった。
「いやいや、あっしらがダンジョンに出向くのは当然ですぜ。ダンジョンマスターはあっしらの世界には来れねぇから。それに実際にダンジョンを見てみねェと、ダンジョンマスターの査定なんざ出来ねぇからナァ」
しみじみと言うオネスト。その口調に勤続500年以上という
ヘルメスが委縮したのを看破したのか、オネストは口元に柔らかな微笑を湛え、
「そうしゃっちょこばらないでくだせぇ、ヘルメスさん。あっしとあんたの目線は同じじゃなきゃアいけねえ。あっしはあんたのダンジョンマスターとしての可能性を見に来たわけですから、緊張しちまうなんてなァ勿体ねェ。本心をさらけ出してくれた方が、あっしとしてもやりやすいんでさ」
本心をさらけ出せと言われても。ヘルメスは「は、はあ。そういうものですか」と頼りない返事を返すことしかできない。どうやらヘルメスは人見知りで確定した。
煮え切らないヘルメスの様子を横目に、知らぬ顔でちびちびとコーヒーをすすっていたステラだったが、ついに「あ、熱っ」と短い悲鳴を上げた。どうやら猫舌だったらしい。
「すいません……。コーヒーが熱くって」
睨みつけるように向けられた鋭いオネストの視線に、両手で持ったコーヒーカップで口元を隠すようにして詫びる。ちょっと上目づかいっぽくて可愛かった。
「こちらのお譲ちゃんは?」
「え、えと、こいつは」
「御挨拶が遅れて申し訳ありません。
おどおどするヘルメスをよそに、堂々と自己紹介をするステラ。ヘルメスの長ったらしい正式名称を一字一句間違えずに言えたのは驚嘆に値する。
が、ヘルメスはわざわざ、ぶひぇ。のところまで正確に言わなくてもいいのに! と
「ふうん……? あっしは長い間この商売をやってやすが、お譲ちゃん見てぇな魔物は見たことがないねェ。魔物のきれいどころ、悪魔属のサキュバスや精霊属のニミュあたりに似ちゃアいるが、それにしては人間ぽいし、人間にしちゃアきれいすぎる。種族はなんなんで?」
「え、えと、」
「人に種族を訪ねる時は、まず自分から名乗るのが礼儀でしょう。だいたい人をサキュバスっぽいなんて失礼です。あんな
「おい! オネストさんに失礼だろ!」
とヘルメスのツッコミを、「いえ、いいんでさ、ヘルメスさん」と制止したオネストは、スーツのポケットから2枚の
「そういやア、名刺を渡してませんでしたね。失礼しやした、みなさん」
謝罪と共にヘルメスとステラにそれぞれ投げ渡す。
手裏剣のごとく飛んできた名刺を、パシりと人差し指と中指の間に挟んでキャッチしたのはステラであった。ヘルメスはというと、まあ、顔面でキャッチしたということにしておこう。ヘルメスの額に深く突き刺さった名刺。それを引きぬくと鮮血がブシュと勢いよく噴き出す。
そんな目に合ってもニコニコ笑いながら、「へへ、名刺を投げてくださりありがとうごぜぇます」と言ったヘルメスは真正のヘタレかもしれなかった。
ヘルメスは驚異的回復力で額から流れる血液を一瞬で止めると、オネストの名刺をありがたそうにしげしげと眺めた。
(ちなみに。この驚異的回復力はヘルメスのスキル〈
オネストの名刺の内容は、“ダンション目録”のステータスの項目と同じ形式で書かれていた。すなわち、基本情報、能力値、装備アイテム、所持スキルの順で彼の情報が書き記してある。
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“基本情報”
名前:オネスト・ホーネスト
性別:♂
階級:地獄の一丁目銀行:
系統:人属【極】
種名:ロリコン公爵
“能力値”
L V:10,000☆(成長限界)
H P:56,666
M P:10,000
ちから:88,780
体 力:86,783
魔 力:10,000
対魔力:85,789
素早さ:95,764
知 力:10,025
幸 運:10,030
“装備アイテム”
右 手:ソハヤノツルキウツスナリ【魔改】
左 手:なし
頭 部:【呪】ヅラ
上半身:フランネルスーツ【魔改】
下半身:フランネルスラックス【魔改】
脚 部:ランドルフローレンの革靴【魔改】
装飾品:ランドルフローレンのネクタイ【魔改】
装飾品:【呪】メガネ
“所持スキル
〈四次元刀剣術【極】〉
〈空間跳躍〉
〈次元跳躍〉
〈幼女殺し【極】〉
〈幼女愛好家【極】〉
〈査定〉
〈取り立て〉
〈追跡者【極】〉
“スキル詳細”
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・〈
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・〈
・〈査定〉 ……対象の潜在能力を数値化する。
・〈取り立て〉 ……対象者がどこにいようと居場所を把握する。
・〈
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いくつかツッコミどころはあったが、驚異的なまでの能力値とスキルである。LVに至ってはカンストしてしまっている。瞬間移動が可能ということは、いつでもどこにいても殺しに来れるということ。
ヘルメスは、本心をさらけ出すどころか、ますます委縮してしまった。
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