01-8 銀行にポイントを借りよう その①
「……まあ侵入者は保護期間中には来ないから、今は敵を殺害してポイントを稼ぐのは無理だな。他にポイントを獲得する手段は?」
「ポイントを獲得する方法その②、ダンジョンマスターの所有物――つまりダンジョンの設備やアイテム、もしくは魔物をポイントに変換する」
「へえ……! そういう方法もあるのか」
「ええ」
と首肯するステラ。 いい話を聞いた。
生産したアイテムが気に入らなかったり、呼び出した魔物がすごーく凶暴で手に負えなかったりしたら、速やかにポイントに変換してしまえばいい。
つまりヘルメスは自分のダンジョンの魔物に対しては無敵ということだ。
気に入らないヤツがいたらポイントに変換して消し去ってやれる。ヘルメスは自分の能力で生み出した魔物に対して、ポイント変換という強力な
「ポイントへの変換率は取得に必要なポイントの50%です。例えば2,000ポイントで呼び出せるロリコン男爵をポイントに変換した場合、1,000ポイント獲得することができます。あ、ちなみに私は変換できませんよ」
「そうなの? まあしないけどさ」
「最初の魔物は変換できないようになっているんですよ。スキル“1体目”が自動的に付加されるので」
「ふうん」と相槌を打ち、ヘルメスは気付いてしまった。
「じゃあ最初にすごく凶暴な奴を呼び出してたら、おれはそいつに何の対抗もできないまま、殺されてたかもしれないんだ」
「はい♪」
ステラはすっごく気持ちのいい笑顔で頷いた。
「あのさあ」
「なんでしょう?」
ヘルメスはガタリと立ち上がり、身を乗り出し紛糾する。
「ダンジョンマスターのナビなら、そういうことは先に言えヤー!! 死んでたかもしれないじゃん!」
「呼び出した魔物に殺されることはあるとは言ったじゃないですか? よってセーフ。結果的に私を呼び出したんだから、さらにセーフ! はい論破」
澄ました顔で論破された。
「ギギギ。言い返せねえ。だけどな。ずっと結果オーライでやっていけるほど世の中甘くねえんだよ!! 次からはちゃんと言ってくれよ? 頼むから」
「はーい、気をつけます!」
「頼むぜ……」
ヘルメスはストンと椅子に腰を掛ける。ふてくされた顔をしていた。
「さて。お気づきでしょうか? この②“所有物のポイント変換”のシステムは使いようによっては、ポイントを稼ぐ手段となりえます」
「どういうこと?」
ステラはスラスラ答える。
「例えば“もの作り”。安い素材を購入してからダンジョン内で加工し、付加価値のある品物に仕上げる。すると付加価値の分、変換ポイントが多くなります。そうやって利益を獲得するんです」
「つまり。10ポイントで生米を買って、100ポイントのおにぎりに加工。それをポイントに変換すれば50ポイントになる。 50ポイント-10ポイントで、差し引き40ポイントの利益を得られるってことだな?」
「はい! そんな感じです。まあ原価の2倍以上の付加価値をつけなくては利益が得られませんから、思う以上に大変ですが」
「だろうな。米をおにぎりにしたくらいじゃ、損をしてしまう」
「ポピュラーな方法として、魔物の糞を肥料に作物を栽培するとか……あとは魔物の一部、例えば体毛を加工して
「なるほどなあ」
安いものに付加価値を付ける手段さえあればポイントを稼ぐことができるのか。今はいい方法が思い付かないが、ダンジョン目録を熟読すれば、いずれいい方法を思いつくかもしれない。
「他に、魔物をダンジョン内で繁殖させてポイントを稼ぐ方法もあります」
「へえ?」
「例えば、ロリコン男爵(♂)とロリコン男爵(♀)の間に子供が産まれたとします。大抵の場合生まれてくる子供は親と同じ種類の魔物ですから、ポイントを消費せずに新たなロリコン男爵を生産したと言えます」
「つまりモンスターの交配か。ロリコン男爵に
「はい! そういうことです。ですから繁殖力の強い魔物をダンジョンに呼び出し、十分に個体数が増えたら随時ポイントに変換していく。そういうポイント稼ぎもポピュラーですね」
「戦力も増えるし、一石二鳥じゃないか。それ採用。それで行こう」
パチンと指を鳴らし、諸手を上げるヘルメス。ステラは「はい!」と深く頷き、
「それでは! “2,000ポイントを使用してロリコン男爵を作成しますか?”」
「いや、しないよ??? 一言もロリコン男爵を作るとは言ってないんだけど?」
「えぇ……」
「それにさ。もの作りにしても、交配にしても時間がかかりそうだぜ。タイムリミットまでに十分なポイントを稼がなきゃならないんだし、あんまり現実的じゃない気がするよ」
「ですよね。そう考えると、やはり3つ目の方法しかないですね」
「3つ目?」
「ポイントを獲得する方法その③“ポイントを借りる”。――つまり、借金です」
*
円卓の中央に置かれた水晶玉が『プルルルル』と電子的な呼び出し音を奏でていた。 この水晶玉、名を「便利な水晶玉」と言う。その名のとおり実に便利な代物で、侵入者を映しだすモニター、通信機としても利用できる。ダンジョンマスターには必須のアイテムと言っても過言ではないらしかった。
ステラが購入を強くすすめたので、400ポイントを支払って生産したのだが、果たしてちゃんと機能するのかどうか。 現在、ダンジョンの”外”にあるという”銀行”との通信を試みているのだが……。
ヘルメスは固唾を呑んでその様子を見守る。
『プルルルル、プルルルル』。
呼び出し音と呼び出し音の合間に、ステラが口をはさむ。
「いいですか? マスター。言葉遣いには気を付けてくださいね。ポイントを借りれるかどうかは貴方の知性と気品に懸かっているといっても過言ではありません」
ステラはヘルメスの向かいに立ち、便利な水晶玉に両の掌をかざしていた。そうすることで便利な水晶玉に魔力を供給しているらしい。
「知性と気品ねえ。正直自信ねえな。――ステラがかわりに交渉してくれない?」
ヘルメスは椅子の上でのけぞり、お手上げという風に両手をヒラヒラさせた。頼りない男である。
「えぇ? だめですよ。こちらがお願いする立場なんだから最上の礼儀を尽くさないと。実はマスター人見知りだったりします?」
人見知り? どうなんだろう? 言われてみればこの部屋で目覚めて以来、ヘルメスはステラとしか会話をしたことが無い。急に緊張してきた。
「ば、バカ言うなよ。お、俺が人見知りなわけないだろ? 俺たぶん超トーク上手いし。記憶を失うまではたぶんリア充だったし? ま、まかせとけ」
おどおどしながら言うと、『ガチャ』と水晶玉から流れる音が変わった。
『お電話サンクス。こちら地獄の一丁目銀行。受付のオネストですぜ。死にたくなければさっさと用件を伝えな』
次いで流れる威嚇するようなおどろしい口調の男の声。ステラの方を見ると軽く顎をしゃくって、ヘルメスに話しを切りだすように促している。
「え、あ、どうも、お世話になります。ダンジョンマスターのヘルメス・トリぶひぇトメギぶひぇトぶひぇでぶひぇ!」
噛みまくってしまった。
『うん? なんか名前が聞き取りにくかったが、ダンジョンマスターさんかい?』
盛大に噛みまくったヘルメスだったが、銀行の男(たしかオネストと言ったか)はスルーしてくれた。その気遣いに少しだけ緊張がほぐれたヘルメスだったが、まだ用件を伝えていないことに気付き、慌てて話しを切りだす。ステラはといえば、両手で口元を押さえて笑い声を必死で堪えていた。
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