01-7 模様替えをしよう
*
壁も床も天井も。全てが真っ黒に焼け焦げ、爆散したベッドの残骸が山のように積み重なっていたボロ部屋は、たった1時間で驚くほど様変わりをした。
白を基調に塗り替えられた壁。
赤い
天井にぶら下がるは
このシャンデリアは部屋の内装の中でも抜きんでて目立っていた。天井と繋がる金の鎖を軸に、金属の枝を八方に伸ばし、枝の先には
それを取り囲むように配置された2つの椅子。その1つにアフロ頭の少年が座っている。
ヘルメスである。
背もたれにクッションが取り付けられた椅子はなかなか座り心地がいい。
「うーむ。まだ殺風景だけど、いい部屋になったなあ」
すっかり立派になった部屋を見回しながらしみじみと言うと、向かいの椅子に座る金髪ロングの美少女が大きく頷いた。
ステラである。
「はい! 指令室はこんな感じで十分でしょう。私としては寝室、お風呂にキッチンなんかも作りたかったのですが、残りポイントを
「ポイントの残高は?」
「残り6,000ポイント。ロリコン男爵3体分ですね」
ヘルメスは「ふむ」と考える仕草をみせ、しばらくしてから「大丈夫かなあ……」と不安げな声を上げた。
「どうかされましたか? マスターは魔物、アイテム、施設と、ダンジョンを構成する主な要素を全て作れたじゃありませんか!! 本来これでチュートリアル卒業ですよ!! ダンジョンマスターとしては一人前!! 自信を持ってください!」
とステラが必要以上に元気な口調で励ます。彼女が必要以上に元気なのはヘルメスが作った部屋をわりと気に入っているためだ。
しかしステラと対照的にヘルメスの表情は暗い。
「たしかに服を作って、部屋もきれいにして、ダンジョンの居住性はグンと向上したと思うぜ。俺たちのダンジョンでの暮らしはかなり快適になるだろうさ。でもさ。」
「でも?」
「侵入者対策を全くしてないよ。もし今ダンジョンが外界と接続したら、侵入者から身を守る
「残りの6,000ポイントを使って対策したらいいんじゃないですか?」
「それなんだけどさ」
「はい」
「どう考えてもポイント足りないんだ。部屋を改装するだけで1,400ポイントもかかったんだぜ。ここで戦う訳にはいかないから、新しく部屋を作らなきゃいけないだろ? 新しく部屋をつくるとなると少なく見積もって2,000ポイントはかかる。すると残り4,000ポイントだ。ロリコン男爵2体分のポイントしか残らないんだぜ」
「それで十分じゃないですか?」
ステラがさも当然のように言う。ヘルメスはあきれた。
「ロリコン男爵がどれだけ強力な魔物かは知らないけど、もし保護期間終了早々に侵入者が100人くらいどっと押し寄せてきたらどうする? たった2体でどうにかなるものなのか?」
「ロリコン男爵は幼女に対して無類の強さを発揮する魔物です。侵入者が全員幼女なら、問題なく撃退します」
「ロリコン男爵つよ! 幼女に対しては! でも、常識的に考えて侵入者が全員幼女なんてことはないだろう? どんなやつが侵入してくるかなんてわからないんだ。リスクを減らすために、ある程度いろんな種類の魔物を配置して、どんな状況にも対応できるようにする必要がある。そうすると部屋も魔物もたくさん作らなくちゃいけないんだけど」
「そうしようにもポイントが足りない……か。確かにそうですね」
「だいたいどれもこれも高いんだよな。10,000ポイントなんてあっという間に無くなってしまう。幼女が来ると信じて、ロリコン男爵を配置するしかないんだろうか……」
「はあ」とヘルメスがため息をついた。ダンジョンを強化していくうちに金銭感覚ならぬポイント感覚が身に付きつつあった。 そんなヘルメスの様子を見やり、ステラがどん、と胸を叩いた。
「大丈夫、対策はあります。私にまかせてください!」
ヘルメスはなんだか頼りねえ~、と思いながらも「聞かせてくれ」と腕を組んだ。
「まず現状の問題点を整理してみましょう」
「ええと。その①ポイントが足りない。その②少ない予算で対策しようにも侵入者がどんなヤツかわからないから対策しようがない。こんなとこか」
ステラは「ふむふむ」と相槌を打ちつつ、またしてもどんと胸を叩いた。
「大丈夫! まず①のポイント不足からどうにかしましょう。十分なポイントさえあれば、②は問題ないわけですし」
「たしかに。そういや、ポイントってどうやって稼ぐんだ?」
「ええとですね。ポイントの獲得方法は主に③つ。①侵入者――この場合ダンジョンに所属していない生物を指します――その命を奪う」
「ちょ、ちょ、殺害までしなくても! って思ったけど、向こうも俺を殺しにきてるわけだし、こ、殺されてもし、仕方ないよ、な?」
「私も仕方ないと思います。
侵入者からポイントを獲得する方法は様々ですが、命を奪うことで最も多くのポイントを獲得できますので、積極的に侵入者を殺害するダンジョンマスターが多いです。
ですが侵入者の命を奪うことが常に最善とは限りませんし、命を奪うかどうかはマスターが判断されたらいい。私たち魔物はその判断に従うまでです」
「う、む」
ずるい言い方だと思った。命を奪わなくては撃退できないような敵だってきっといるだろう。命を奪わなければ、ダンジョンを――ステラと、自分を守りきれない。そういう状況だってあるだろう。殺しに対して忌避感はあるが……ヘルメスは覚悟を決める必要があるようだ。
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