01-5  ステータスを確認しよう その②

「さて! 次は何をする?」


 ステラと向かい合いながら、ヘルメスが言った。2人はずっと背中合わせで座っていた。ステラの顔をまじまじと見たのは、2人が出会って以来かもしれない。 吸い込まれそうな青く輝くサファイアの瞳に、ヘルメスはドキりとする。


「とりあえず、もういちどステータスを確認してみましょうか。先ほどは基本情報しか確認しませんでしたからね! ステータスには基本情報の他にも“能力値”や“装備アイテム”、“所持スキルとその詳細”も確認できるんですよ」


 うっすらと微笑みを湛えながらステラが言った。ヘルメスが作成した装備が気に入っていた。


 ヘルメスは「わかった!」と返事をする。手に持った“ダンジョン目録”の30,002ページ、“ダンジョンマスターのステータス”を開く。


 ヘルメスには記憶がないそのため自分自身のことがよくわからない。ステータスを見れば自分自身のことがわかる。無くした記憶につながることも明らかになるかもしれない。しっかり確認しなくては。




―――――――――――――

“基本情報

名前:ヘルメス・トリストメギストぶひぇ(笑)

性別:♂

階級:ダンジョンマスター

系統:人属 種名:×人問→○人げん“

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 誤字が修正されていた。


「あれ?? 俺、人問にんといから人げんになってるんだけど」

「アハハ、きっとマスターは人問にんといにしては人間っぽかったから、誰かが直したんですよ。人問にんといと呼ぶにはまだ早いってね!」

「くそお~。俺の評価はまだ人げんレベルか」

「早く人問にんといに戻れるといいですね!」

「おう!」


 ちなみに人問にんといという言葉はこの世に存在しない。ヘルメスはステラに騙されていた。

 

 このようなやり取りを挟みつつ次に進める。ダンジョンマスターのステータスは、基本情報、能力値、装備アイテム、スキルの4項目で構成されている。


 基本情報の次は能力値である。 ステラによれば能力値の項目には、その者のレベルやHP、MP、ちから、体力、魔力、などの数値が記載されているのだという。この項目を見れば数値化されたヘルメスの客観的な強さがわかるというわけだ。



―――――――――――――

“能力値”

スタ○ド名:スター○ラチナ

本 体:空○承太郎(徐○の父)

破壊力:A

スピード:A

射程距離:C

持続力:A

精密動作性:A

成長性:完成

―――――――――――――


「うひょお、さすが最強のスタ○ド! 鬼のような強さだぜ~! (徐○の父)って但し書きがあるってことは第6部の仕様だな――ってバカ!」

「ノリツッコミ……」

「なんでスター○ラチナの能力値が記載されてんだよ! ジョ◯ョのスタ◯ド紹介のやつじゃねーか! こう言うネタは原作を知らない人には伝わらないし、著作権の問題もあっていろんな意味でやべェんだよ!! とりあえずレベルとかHPとかMPとか力とか体力とか、そういうのを載せろ!!」

「う、ぅ……。まだ測定中……? ってことなんですかね?」


 なぜかしどろもどろなステラをよそに読み進めていく。次は装備アイテムである。




―――――――――――――

“装備アイテム

右 手:なし

左 手:ダンジョン目録

頭 部:【呪】アフロ※

上半身:ダンジョンマスターの服

下半身:ダンジョンマスターのズボン

脚 部:ダンジョンマスターの靴

装飾品:ダンジョンマスターのスカーフ


※【呪】……呪われたアイテム。解呪しないかぎり外すことができない。


◆ファッションリーダーより一言: 黒で統一したお堅いコーディネイトを、首元のスカーフがうまいこと崩してなかなかGOODよ。ただその頭はBAD! 似合うと思っているのかしら? ハッキリ言ってそれ、チ○毛頭よ。“

―――――――――――――


 ファッションリーダーにボロクソに言われた。


「……お、俺だってなあ!! 好きでこんなアフロ頭になったわけじゃねーんだよ! しかもなんで【呪】アイテム扱いなんだよ!! アフロは髪型だろうが! アイテムじゃない!」

「まあまあ、細かいことはいいんですよ」

「だいたい、ファッションリーダーって誰だよ! 好き勝手言いやがって」

「あ、それは私です」

「お前かよ!!」


 次はお待ちかねのスキルである。 




―――――――――――――

“所持スキル

NEW〈迷宮支配者(ダンジョン・マスター)〉☆☆☆☆

NEW〈初心者ビギナーモード〉

NEW〈召喚者(サモナー)〉☆

NEW〈導きし者を導きし者〉☆☆☆☆☆

NEW〈解放せし者〉☆☆☆☆☆

NEW〈生産者(プロデューサー)〉☆

NEW〈浪費家〉

NEW〈魔物愛好者〉“


”スキル詳細”






―――――――――――――


「なんか俺ってば8個もスキル持ってるのな。どんな効果かわからないけど」

「あれぇ?? おかしいですね、スキルの詳細情報も記載されるはずなのになんにも載ってない……」

「そうなんだ? あ! そういえば☆(星)のマークがついてるスキルがあるけど、どういう意味なんだ?」

「うーんと、☆のマークがついているスキルはレアスキルですね。つまり希少なスキルです。☆の数が多いほど希少度が高い感じです」

「☆4つの〈迷宮支配者ダンジョンマスター〉よりも、☆5つの〈導きし者を導きし者〉や〈解放せし者〉の方が希少なの??」

「そうです。〈迷宮支配者ダンジョンマスター〉はマスターの他にもいますからね。それでも希少なスキルであることに変わりはありません。☆5のスキルはおそらく世界でマスターしか所持していない正真正銘のレアスキルです」

「ダンジョンマスターが他にもいるってマジかよ!? ちょっと会ってみてェな」


 とヘルメスが言うと、ステラの表情にかげが浮かんだ。


「そうですね……。会ってみたいですね……ククク」


 含みのある意味深な笑いだった。 正直ちょっと怖! とヘルメスは思った。ステラにはなにか秘密がある。しかし秘密を聞き出せるほどふたりは親しい間柄ではなかった。







 胡坐あぐらをかき、床に広げたダンジョン目録をしげしげと眺めるヘルメス。ヘルメスの背中に覆いかぶさるようにして、ヘルメスの方の上から同じページを覗くステラ。ヘルメスの顔のすぐとなりにはステラの顔がある。


 ヘルメスとステラはこのような体勢でステータスを確認していたのであった。


 耳にかかるステラの息遣いは甘く妙にくすぐったい。肩に感じるなんだか柔らかい弾力が妙な感じにステラの存在を意識させていた。 装備しているアイテムが密着感を弱めているとは言え、ヘルメスはちょっとモヤモヤした気分だった。もしアイテムを装備していない素っ裸の状態でこんな体勢になったら、モヤモヤしておかしくなっても不思議ではない。いや、このままでいても十分おかしくなりそうだ。


 心にかげるモヤモヤを振り払うようにヘルメスは「あのさあ」とに口を開いた。


「俺のステータスを見たけど、正直はてな? って感じだったよな。誤字だらけだし、能力値はスター○ラチナだったし、スキルの詳細説明はないし。結局、肝心なことは何もわからなかったんじゃないか?」

「う、ぅ……。ホ、ホントはもっと詳しい情報が載っているはずなんですけど。レベルとかいろいろと……。おっかしいなあ~??」


 ズバズバと核心をつくヘルメスの指摘に、ステラはしどろもどろな口調で答えた。


 実のところを言うと、ダンジョン目録のステータス項目はステラの固有スキル〈ステータスチェッカー〉によって自動的に記載される。ステラがスキルによって測定した情報がダンジョン目録に記録されるのだ。


 よってステータス項目の誤字はステラの誤字と言ってよいし、ステータス項目の不備はステラの不備なのだが、ヘルメスはそれを知らないでいる。


「うーん。まあ、たぶんステータスなんて気休めみたいなものなのかもな。そんなもの確認してるヒマがあったらダンジョン強化しろって。この本はそう言いたいのかも、いやそうに違いない!」

「え? あ、はい! そうですね! 次に行きましょうか!」

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