01-3  アイテムを作成しよう その①




「さて! マスターが人問にんといだと明らかになったところで、閑話休題と行きましょう!」


 ステラが張り切って言った。


 閑話休題。余談を止めて話を本筋に戻すことの意である。さて、何の話をしていたんだっけ? ヘルメスは記憶をたどった。


 確か。

 ①“装備アイテムの作成”をしようとしたら、

 ②ステラの名前を考えることになり、

 ③スキルの話になって、

 ④自分のステータスを確認したら人問にんといだった。


 脱線しまくりである。


 ヘルメスとステラの会話はよく脱線する。それはぶっきらぼうな口調のわりにヘルメスの性格のせいかもしれなかったし、丁寧な口調のわりにいいかげんなステラの性格のせいかもしれなかった。


 逸れた話を本筋に戻そうにも、どこに戻ったらいいのかわからない。しかたがないのでヘルメスは「えっと、何の話をしてたんだっけ?」と答えるしかなかった。


「ええと……なんの話をしていたんでしたっけ?」

「……」


 張り切って言った癖にこれである。こいつは一体どこに話を戻すつもりだったんだ? ヘルメスはあきれた。


 2人の間にしばしの沈黙が流れたが、しかしこうしている間にも刻々とタイムリミットが近づいているのだ。


「と、とりあえず、服着ようか?」


 沈黙を破ったのはヘルメスだった。


「そ、そうですね。ダンジョンマスターの真骨頂その③“アイテムの作成”、について説明します。」


 あたふたとした口調でステラが同意する。


 ダンジョンマスターの真骨頂その③は“それらを支配する”じゃなかったか!? と口にはださずにツッコミつつ、ヘルメスは「よっしゃ! やってやるぜ!」と張り切った。


「ダンジョンマスターの真骨頂その③“アイテムの作成”。やり方はその②“魔物の生産”と同じです」

「ええと、“選択”と“確認”と“承認”だっけ?」

「そうです。“ダンジョン目録”の中からマスターがアイテムを“選択”、私が選択に誤りがないかを“確認”、最後にマスターが“承認”する」

「そっか、わかったってばよ! さっそく“ダンジョン目録”を開いてっと」


 ヘルメスがパラパラ……とページをめくると、“装備アイテム”概要のページが現れた。


「なになに。“装備アイテム……魔物やダンジョンマスターが装備することによって、能力値を上昇させたり、スキルを付加することができるゾ! ただし中には危ない装備もあるから気をつけて!”」


 さらにページをめくる。次のページからは装備品のカタログになっていた。


「へえ、すごい品ぞろえだな」


 剣や盾、兜に鎧といった戦士向けの装備から、杖や帽子、ローブといった魔法使い向けの装備までポピュラーな装備品が充実しているのは勿論。下着、普段着、寝間着といった生活着や、タキシードにドレスといった衣装まで網羅した実に多彩なラインナップ。あぶみくら手綱たずなと言った鳥獣属用のものも数多く記載されていた。


 ヘルメスが心引かれたのは武器の項目だ。聖剣エクスカリバー、グングニルの槍、天下五刀童子切。いわゆる“伝説の武器”が作成可能で、それでもうヘルメスはかなり興奮した。 そして。


「決めたよ。俺、エクスカリバーにするから」

「“2,000,000ポイントを使用して聖剣エクスカリバーを作成しますか?”」

「“承認”」

「“ポイントが不足しています。聖剣エクスカリバーを作成できませんでした。貴方のポイント残高は10,000ポイントです”」

「ノオオォォォォ!」


 ヘルメスは両手で両目を押さえながら、ごろごろ床を転がった。


「ま、こうなるとわかっていました。エクスカリバーみたいなスキル付きの高性能武器は往往にしてポイント消費量が高いので」


 壁に向かってごろごろ転がっていくヘルメスを、ゴミを見るような冷たい眼差しで見降ろしながらステラが言った。


「ス、キ、ル、付、き??」


 ごろごろ転がりながらも説明を求めるヘルメス。


「装備することで、スキル――能力や効果を付加することができるアイテムです。エクスカリバーの場合は10個ものスキルを付加することができます」

「読、み、上、げ、て、く、れっ?」


 壁にぶつかり、ヘルメスの回転が止まった。


「は???」


 意味がわからず、困惑するステラ。ヘルメスは立ち上がり、ポンポンと膝に着いたすすを払うと、ステラの方へとゆっくり歩きながら、「エクスカリバーの持つ10個のスキル全部を読み上げてくれ」と言った。


「意味がわかりません!」

「いいから!」


 ヘルメスの表情は真剣そのもの、――何かを決めた男の顔だった。ステラは困惑の表情のまま、くるりとヘルメスに背を向け、ストンと腰を落ろし、膝を抱える。


 ヘルメスは一糸まとわぬステラの背中になんだかもやもやした気分になりながらも、それを堪えつつ、そのままステラのそばまで歩くと、くるりと踵を返しステラの背中合わせに座った。


 ヘルメスが座ったのを気配で察知したのか、ステラが口を開く。


「じゃあ読み上げますよ。 ①“聖属性付与”、 ②“聖属性吸収”、 ③“不死属特攻”、 ④“悪魔属特攻”、 ⑤“【超】聖光力場ハイパー・ホーリーフィールド”、 ⑥“【超】肉体活性ハイパー・ブースト”、 ⑦“剣の導き”、 ⑧“円卓の加護”、 ⑨“白魔法・【絶】聖天光柱アブソリュート・ホーリー使用可能”、 ⑩“剣技・剣閃乱舞【絶】スラッシュダンス・アブソリュート使用可能”、以上です」

「ノオオオォォォ!」


 再び床をごろごろ転がるヘルメス。


「さっきから何なんですか!? 頭がおかしくなっちゃたんですか!? 意味不明です!」


 ステラは立ち上がり、叫んだ。


 ごろごろ転がるヘルメスは壁にぶつかって止まった。何事もなかったように立ち上がり、パンパンと膝のすすを落とすと、ステラの方へと戻って行く。 くるりとヘルメスに背を向け座るステラ。ステラの背中合わせに座るヘルメス。


「マスター、さっきから変です」

「いやあ、すごいなかっこいいなエクスカリバー、欲しい欲しすぎるぞエクスカリバーって思ったら、つい転がってしまったぜ。ああー、カッコよすぎるスキルの数々! なんだよ“剣閃乱舞【絶】”って。ああ使ってみたいよー、欲しいよー」

「つまり厨二病を発症されたんですね。実際、エクスカリバーは超レアアイテムですからマスターが欲しがるのもわかります。ポイントが足りなくて残念でしたねえ~。ねえ、今どんな気持ち? 欲しかったアイテムが手に入れられなくてどんな気持ちなの? ねえ」


 意地が悪いステラだった。


「ぐあああああ! 悔しいよオオ! でも決めた! いつか絶対手に入れてやるからな!」

「ふふ、頑張ってくだ……いえ、頑張りましょう!」

「おう!」


 とヘルメスは拳を握り、その後ろでステラは柔らかく微笑んだ。ヘルメスに目標ができた。それをほんの少しだが頼もしく思ったのだ。


 しかし、2人はまだ裸のままだった。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る