01-2 ステータスを確認しよう
「さて。私の名前も決まったことだし、次に行きましょう」
少女――ステラがうっすらと微笑みながら言った。ステラという名前がわりと気に入っていた。
「あ、その前に1つ聞いてもいいか?」
間髪いれずに少年――ヘルメスが口を挟む。
「はい??」
きょとんとした表情を浮かべるステラだった。もっとも2人は背中合わせで座った状態なので、ヘルメスが彼女の顔を見たわけではない。
「さっきの“名前”ってどういう意味があったんだ? 名前なんかなくてもおれはおれだし、お前はお前だろう? 2人しかいないんだから、お前、あなたの代名詞だけでも実質困らない。なのになんで名前を付ける必要があったんだ?」
ぶっきらぼうな口調のヘルメスはわりと細かいところにこだわるし、丁寧な口調のステラはわりといい加減なところがある。ヘルメスは気になったことはすぐに質問するタイプだった。 彼にしてみれば当然だ。タイムリミットまでに自分の能力をどれだけ理解できるか。それにヘルメスの生死が懸かっているといっても過言ではない。
「お前、あなたって、夫婦じゃあるまいし。でも良い質問です。はじめに教えとくべきでしたね。ええーっとですね、ダンジョンに呼び出した魔物。その中でも人語を理解できる魔物だけに有効な方法なのですが、“名前”をつけることによってダンジョンマスターの“スキル”が発動するんです」
「スキルってなに???」
「なんていうか、無能と異能、持つ者と持たざる者を隔てる壁というか。まあ要は“超能力”です。マスターは条件を満たすことによってそれらのスキルを使えるんです。ダンジョンマスターの真骨頂その⑤“スキルを使える”。もっともスキルはダンジョンマスターだけでなく人間も魔物も使えますが」
まためんどくせえ設定がでてきたな。作者――もといヘルメスはそう思った。
「ふうん?? で、どんなスキルが発動したんだ?」
ヘルメスは一応聞いてみた。あまり気乗りはしなかった。覚えることが多すぎて、正直なんか疲れていた。
「見た方が早いかもしれません。“ダンジョン目録”の30,002ページを見てください。マスターのステータスが確認できます」
ダンジョン目録とは、ヘルメスの能力――ダンジョンマスターに出来ること“全て”が書かれた、いわばヘルメスの説明書である。その情報量たるや30,005ページに及び、読書嫌いなヘルメスが思わず吐き気を催したほどだった。
ヘルメスは「さんまんにぺーじ」と呟きながら、“ダンジョン目録”の30,002ページを開いた。
「なになに“ダンジョンマスターのステータス”。へええ」
つまり、自分自身の能力がここのページに書かれているということだろう。ヘルメスはかなり興味がわいた。
――――――――――
“基本情報
名前:ヘルメス・トリストメギストぶひぇ(笑)
性別:♂
階級:ダンジョンマスター
系統:人属
種名:人問 “
――――――――――
一か所誤字があった。
「俺さ、人間じゃなかったんだね。
ノリツッコミである。
*
「いえ、
ヘルメスのノリツッコミが終わるや否や、ステラがさも当然のように言った。
「え、マジで!?」
「ほら、歴史の教科書でも出てくるでしょう? 1対100で戦って勝っちゃうような武将とか、凄まじく残酷なことを平気でやっちゃう支配者。人間にして人間にあらず。お前、人間か? って問われちゃうような、そういう人。いい意味で天才。悪い意味で異端。そういう人間を総称して
「へええ、俺は人間であって人間じゃない。だから
「マスターは人間の中でもとびきりの異端、“ダンジョンマスター”ですからね」
「なるほどなあ。嬉しいような、悲しいような」
ヘルメスはどうにか納得したようだ。 ステラは内心で「ふう~、ちょろいなあ~」とほくそ笑んだ。 実のところを言うと、
“ダンジョン目録”のステータス記録はステラの仕事である。ステラの固有スキル“ステータスチェッカー”によって、ヘルメスのダンジョンにいる魔物のステータスが自動的に“ダンジョン目録”に記録されるわけだが、記録される文章の内容はステラの国語力に依存する。
ステータス項目の誤字はステラの誤字、というわけなのだ。
つまりどういうことかと言うと。――ステラは“自分の誤字を誤魔化すためにデタラメを記憶を失っているヘルメスに教えた”。
――恐ろしい女である。
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