第12話 〜マウシィside〜
「さ、最初から……私、不思議に思ってたんデスよぉ……」
体を猫背に丸めて、不気味な声色で言うマウシィ。
「あ、あなたの能力の、お、『おかしな使い方』にぃ……」
「ん?」
「あ、あなたは、その……『スマホ』とかいう道具を見せるだけで、相手のことを催眠状態にすることができる……」
「催眠じゃなくて、テイムね?」
「その能力のせいで、アンジュさんは意識を失って、あっさりとあなたに捕まってしまいました……。不可解と言われていた神隠し事件も、そんな強力な能力があれば簡単に説明できますデスぅ……。どれだけ相手が警戒していても、鍵を掛けて閉じこもっていても……その能力で催眠して……」
「だから催眠じゃなくて、テイムだってば」
律儀に訂正するラブリだが、もうマウシィは気にしていない。
「あやつり人形にしてしまえば、どんな相手でもここまで連れてくることができる……。というより……その人物が自分から、証拠を残さないようにしながら、あなたのところまで勝手に来てくれる。そ、それは……他の血異人の方たちと同じように、この世界の常識を超えた、とんでもないものデスぅ……」
そこで顔を歪めて、「ゴホッ」と一回咳き込むマウシィ。口をおおった両手に、ドス黒い血が付着する。それは、いつもと同じようにマウシィの肌を毒で溶かしていたが……よく見ると、いつもよりは少しだけ、その毒性が弱いようにも思えた。
それを見て、ニヤリと笑みを浮かべてから、彼女は続ける。
「でも……だったらどうしてその力を、私にも使わなかったのでしょうかぁ?」
「……う」
余裕ぶっていたラブリが、そこで初めてうろたえた表情を作って、硬直した。
「あ、あなたは私に、他の血異人さんたちのところに、行かせたくなかったんデスよねぇ……? 私が、血異人さんたちと戦うのを、やめさせたかったんデスよねぇ……? だったら……。『スマホ』を見せるだけで、誰でも催眠できるのなら……私のことも、さっさとそれをやっちゃえばよかったはずデスぅ……。催眠することを、『楽しいことだけの世界』に連れて行って『友だちになる』ことだと考えていたあなたなら……それをしない理由なんて、なかったはず……。でも、あなたはそれをしなかった……。私には催眠術をかけずに、説得しようとしたり、力づくで言うことをきかせようとした……」
「だ、だから、催眠じゃなくてテイムだっつーのっ! もう、何回言わせんのっ⁉」
そんないらだたしそうな訂正も無視して、マウシィは結論を言った。
「それで、思ったんデスぅ……。もしかしたらあなたは、私に催眠能力を『使わなかった』んじゃなくて……もうとっくに『使っていた』んじゃないか、って……。使っていたのに、『私にその能力が効かなかった』んじゃないか、って……」
「……」
「つ、つまり……あなたの催眠能力には弱点……無効化するための『条件』があって……私はそれを満たしていたんデス。だから、催眠が効かなかった……というか、『催眠状態になってもすぐに解除されちゃった』んデス。その『条件』はきっと……催眠が効いている人たちには無くて、私にだけ有るもの……。アンジュさんたちと、私との違い……。そんなの……呪いしかない。つ、つ、つ、つまり……あなたの能力の、弱点はぁ……」
そこで、
「『痛み』だよーん」
さっきまでうろたえていたラブリが、開き直るようにケロリとした様子で、そう言った。
「そ。実はあーしちゃんのテイムスキルは、かけた相手が『痛み』を感じると、解除されちゃうんよー。肉体的な痛みはもちろん、精神的な痛みもね。外から叩いたり、あーしのスキルで見せてる『楽しいことだけの世界の中で痛みを感じたりしたとき』に、その世界から出てきちゃうんよー」
「ハイタッチとか、そういうちょっと手がぶつかるくらいなら、問題ないんだけどねー」と補足するラブリ。
「で。もしかしたらマウシィちゃんって、今どっか怪我してたりするー? それか、痛い系の持病とか? あ。違う違う。そっか。確か、ヘビに呪われてるせいで全身に毒がまわってて、常に激痛を感じてるんだっけ? ま。理由は何でもいいんだけどさー。とにかくそういう、『常に痛みを感じる状態』の人は、あーしのスキルでテイムしても、『テイム世界』の中でもその痛みを感じちゃう。で、元の世界に復帰しちゃうんよー」
「ぐふゅっ……ぎゅふゅふゅ……」
それを聞いたマウシィは、自分の考えが間違っていなかったことに満足するように、また気持ち悪く笑った。
「?」
その笑みの理由は、まだラブリには分からない。だが、彼女は今の状況に何の問題も感じていないようだった。
「で? それが分かったから、何? 確かにあーしちゃんのスキルは、ちょっと『痛み』を感じただけで解除されちゃうくらい、繊細だよー? だけど、だからって今のマウシィちゃんには、どうすることもできないんじゃね?」
彼女は元の余裕ぶった様子に戻っている。
「だって、あーしちゃんが見せている『楽しいことだけの世界』には、『痛みを感じるようなこと』は何もないんだからー。元から痛みを感じてる人以外は、新しく痛みを感じることはない。つーか、そもそも『そーゆー可能性がある行動ができない』ように、テイム世界を作ってるんだよねー。トゲトゲして危ないものは柔らかくしてるし、なるべく怪我しないようなルールも作ってる。コケたらいけないから、廊下は絶対走らせない……とかねー? 実は、テイム直後だけは、あーしちゃんがインタビューできてなくて、テイム世界も不安定だから、その辺も徹底されてなくて、うっかり意識が戻っちゃうこともあるんだけどー。こんだけ時間が経った今じゃあ、それももうあり得ない。……じゃあ、外から刺激を与えればいいじゃん、って思うかもだけどー」
そこで、パチンと指をならすラブリ。すると、彼女の近くにいたアンジュが、球体に輝くオーラで包まれた。どうやらまた、魔法でバリアのようなものを作ったらしい。
「はい、これでしゅーりょー! このオーラの外からアンジュちゃんには、指一本も触れることはできなくなりましたー! 頭の中は『楽しいことだけ』で苦痛を感じない。外からはバリアで完全防御。つまりつまりー……結局今のマウシィちゃんには、アンジュちゃんを取り戻すことなんて出来ないんだよーん!」
それは、真実だった。
今のマウシィは、ラブリのスキルが「痛み」で解除出来ると分かったからといって、何もすることはできない。状況は、何も変わっていないように見えた……のだが。
「ぐふふふゅ……」
マウシィはまた、両手でボリボリと首元の傷跡やカサブタをかきながら、不気味に笑うだけだった。
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