第三話
「ワ、ワケわかんねえことばっか、言ってんじゃねえよっ!」
理解を超えた事態に困惑気味のミナトが、自分のスキルを使った。すると、ゴロツキたちの手元に新しい剣が現れる。
それも、「勇者が魔王を倒した聖剣」や「妖精の王が魔力を込めた魔剣」など、どれもがこの世界に一つしかないはずの、伝説級の剣だ。この世界に存在するどんなアイテムでも作ることが出来るという
「へ、へへっ! み、見たか⁉ これが俺の力だっ! 俺に対してナメたマネしたことを、後悔させてやるぜ⁉ て、てめぇら、やっちまえ!」
明らかにさっきよりも格段に攻撃力が上がった男たちが、次々にマウシィに襲い掛かる。
しかし、やはりそれも……。
「あ、あぁぁ! あぁぁぁんっ!」
手を繋いでいた
そして、その人形が男たちの剣にぶつかるたびに……砕ける、折れる、弾き飛ばされる。
結局。
伝説の剣はすべて無効化され、誰一人としてマウシィを傷付けることは出来ないのだった。
「バ、バカな……」
「う、うひゅ……うひゅひゅ……。ど、どろしぃちゃんは、どんなことがあっても私を殺す、っていう呪いが具現化されたものなのでぇぇ……。他の人が私を殺すのを、許してくれないんデスねぇぇ……。『俺がお前を殺すまで、誰にも殺されるんじゃねぇ』っていう……ツンデレさんなんデスねぇぇぇぇっ! ぐふゅっ!」
ガシィッ。
「はぅぅっ⁉」
そこで、ゴロツキの一人がマウシィを後ろから羽交い締めにした。
「は、はは、どうだっ⁉ これなら、そのイカれた人形も動かせねーだろっ⁉」
男の全力で押さえつけられては、少女のマウシィでは抵抗出来ない。さっきまでのように、持っていた人形を盾にすることも無理だろう。
「よ、よしっ、今のうちだっ!」
もう一人の男がまた、ミナトに新しく出してもらった剣で、身動きが取れなくなった彼女に襲い掛かる。
「あっ、あっ、ぁぁぁぁぁ…………う……うゅ……」
そんな大ピンチに、「苦悶」とでも言うべき表情になったマウシィは……、
「……ぶえっくしょんっ!」
盛大なクシャミをした。
「うわっ、汚えっ!」
咳エチケット無視で飛ばされた唾液飛沫が、剣を向けていた男の顔面にベットリと付着した。彼は慌てて、それを服のソデで拭う。だが……、
ジュウゥゥ……。
「ひっ⁉ い、痛っ! 痛ってぇーっ!」
突然そんな悲鳴をあげて、剣を放りだして、のたうちまわり始めてしまった。
「え……?」
アンジュには、マウシィの唾液が男の肌を溶かしているように見えた。
「ご、ごめんなさいぃぃぃー! わ、わざとじゃないんデスぅぅーっ!」
本当に申し訳無さそうに、涙目で謝るマウシィ。
「じ、実は私……どろしぃちゃん以外にも、人間、魔物、動物問わず、いろいろと呪われてましてぇぇ……。そ、その中の、巨大な毒蛇の魔物がかけてくれた『体内から有毒な成分が出てきて死ぬまで苦しむ』っていう呪いのせいで……私のあらゆる体液は、猛毒になっちゃってるんデスぅぅぅっ!」
「ど、毒だとっ⁉」
ジュッ。
そこで、マウシィを羽交い締めにしていた男の腕にも、彼女のヨダレのしずくが垂れる。やはりそれも強酸のように男の肌を溶かし、激痛とともに彼の体内を侵食していった。
「うわぁぁっ⁉ や、やべえっ! 俺も毒を食らっちまったーっ!」
たまらず、男は拘束を解いてしまう。
「バ、バカ野郎! 毒ごときで、情けねえ声出すんじゃねえ!」
すぐにミナトが、血異人のスキルで「毒消し」を作り出す。しかし、
「ダ、ダメだ、何だこれっ⁉ 毒消しなんか効かねえっ!」
ミナトの作るどんな上等な毒消しアイテムでも、その毒を解毒することは出来ないようだった。
「ぷ、ぷふっ。ど、毒消し……デスかぁ? え、えぇ……さ、最初だけは、効いてたんデスけどぉぉ……」
マウシィは、笑いをこらえきれずに吹き出す。
「毒蛇ちゃんの毒も……呪われた直後は、そこまで強くなくて……。し、しばらくの間は、市販の毒消し草で充分に抑え込めてたんデスけどぉ……。で、で、でも……さっきも言った通り、呪いっていうのは『強い想いを相手に押し付ける』ものなのでぇ……。毒蛇ちゃんが私に、『死ぬまで苦しめ』っていう呪いを掛けたのなら……その呪いが解けるまでは、私は『死ぬまで苦しむ』しかないみたいなんデスよねぇ……。ぐ、ぐひゅっ……。ど、毒消しで毒を軽減しようとしても、『死ぬまで苦しむ』ことからは逃げきれない……。だ、だから、だんだんその毒が、毒消し草の効果を、上回ってきてしまって……。もっと高級な解毒アイテムが必要になってきたり……。それさえも、効かなくなってきちゃったりして……。でへ、でへへへ……。け、結局、私が体内で毒を熟成させて、育てたみたいな感じになっちゃってぇぇぇー……い、今では、どんな薬も効かないくらいに凶悪な猛毒になっちゃいましたぁぁぁぁーっ!」
呪いの人形がラブラブな恋人なら、今度はまるで自分の子供の長所を発表する親バカのようだ。頬を邪悪な色に染めた、不気味な表情で照れているマウシィ。「お、お陰で、息してるだけで全身に激痛が走るんデスよぉぉー?」なんて言いだす始末だ。
「こ、こんなの……どうかしてるわよ……」
アンジュは、自分が守ろうとしていた少女がとんでもない正体を隠していたと知って、開いた口が塞がらなかった。
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