第21話 勧誘
「ディア殿に付いた呪いは私が見てきたどの呪いよりも強力だった。これほどの呪いを掛けてきた相手は相当な実力者だったと思われる。私でも一時的に効果を薄めることしかできなかった。申し訳ない……」
姫は頭を下げ、俺に謝って来た。
「い、いえ。姫は何も悪くありませんよ。俺に呪いを掛けた奴が悪いんです。でも、解呪魔法で一定時間元に戻れるようになっただけでも進歩ですから、ありがとうございます」
俺は姫に頭を下げ、感謝した。
俺の体はフィーアの解呪魔法でも五分間だけ元の体に戻れるようになった。ただ、体を元に戻すと服が裂けるので、姫お手製の魔力で編みこまれた服を準備してもらうこととなった。完全に解呪できなかったお詫びだそうだ。
魔力で編みこまれた服は体が大きくなっても同じように大きくなってくれるため、裂けないらしい。耐久力も高く、非買品らしいのでありがたいとしか言いようがなかった。
「ぷぷぷっ、ディア、完全に治らなくて残念だったわね。で、これからどうするの?」
コルンはやけに嬉しそうに笑い、聞いてきた。
「どうするもこうするも、姫が服を作るまで七日ほど掛かると言っていたし、ここで待機だな。その後はメリー教授のもとに一度戻って解呪魔法で五分だけもとに戻れるようになったと伝えた方が良いだろう」
俺は服を着替えながら、今後の予定を考えた。
「でも、私は解呪魔法が使えないから、使える者を仲間にしないと意味ないわよ。あ、でもあの無駄にイケメンな冒険者は嫌」
コルンはライトを毛嫌いし、顔を顰めながら呟いた。
「コルンでも使えない魔法があるんだな。珍しい……。まあ、五分程度もとに戻れたところで何ら意味が無い。解呪魔法を使える者を仲間に入れるかどうかは後で考えよう」
俺とコルン、フィーアは疲れ切った姫を支え、大樹の下に戻った。
「では、ディア殿。あなたの服を作るので、しばし時間をいただく」
「はい。よろしくお願いします」
俺は姫に頭を下げた。
姫は家の中に入っていき、扉を閉める。
「じゃあ、私は里長の家に行き、今回の件を報告してくる。ディアとコルンはゆっくりしていてくれ」
フィーアは里長の家に走って行った。
「さて、これからの行動を考えるか……」
俺は一度伸びをして体を解す。血行が良くなり、頭が冴えるようだ。
「そうね。ただ、待っているだけなのも時間がもったいないし、言語の勉強でもしますか」
コルンは異空間から教本を取り出した。逃げ出そうとしている俺を縄で拘束し、七日間みっちり扱かれた。
すると、驚くことに俺は森の民と会話できるようになった。子供の柔らかい頭は知識を驚くほど吸収し、冴えまくっているようだ。
コルンも驚くほどの成長で、翻訳魔法を使う必要がなくなり魔力の消費が多少抑えられた。
「まさか、おっさんの頭が意外と良かったなんて。なんなら魔法も覚えられるんじゃない?」
コルンはフィーア宅の広間の椅子に座りながら呟く。
「いや、魔法は才能の類だろ。俺は子供のころ、ギレインに教えてもらったが出来なかった」
「でも、リッチから貰った呪いなんでしょ、もしかしたら使えるようになっているかもよ」
「……確かに」
――パルディアの魔法は俺が見てきたどの魔法よりも凄かった。あいつの呪いを貰った俺なら、もしかするぞ。
俺は人生で初めて魔法が使えるかもしれないと心躍らせ誰もいない方向に手の平を向ける。
「『死の光線』」
俺はパルディアが使っていた魔法の詠唱を放つ。だが、ウンともスンとも言わない。
――さすがに、出来ないか。じゃあ、初級魔法ならどうだ。
「『ファイア』」
俺は火属性魔法の初級魔法の詠唱を言い放つ。だが、魔法は発動しなかった。
「駄目だ……。やっぱり使えない」
「まあ、呪いを受けて魔法が使えるようになったら加護とほぼ同じになっちゃうし、出来なくて当たり前か。まあ、これで私の存在意義がもっと高まったわけねっ!」
コルンは無い胸を張り、堂々と言う。確かに俺はコルンの魔法が無いと、ただの子供でしかない。そのため彼女を容易に手放すことが出来なくなった。
「はぁ……。コルンは良いのか? この呪いがいつ解けるかもわからないのに、俺とパーティーなんかを組んで……。解呪するのに何年掛かるか……」
「あ、あんたがいなかったら、私はコボルトやリッチに殺されてるのよ。私の失敗で今後、あんたにねちねち嫌味を言われるのが癪に障るから、大天才のこの私が手を貸してやってるの! 感謝しなさい!」
コルンは顔を無駄に赤くしながら大声を出す。
――血圧が上がるほど大声をあげる必要も無いと思うんだけどな。でも、コルンは自分の失敗を隠したいから俺と一緒にいるのか。完璧主義者なんだな。
「じゃあ、俺はコルンの誇りに甘えさせてもらうとするか。期待が一番高かった森の民ですら解呪できなかったが、他に方法が無くなったわけじゃないはずだ。解呪の方法を根気よく探して行こう。これからも世話になる」
俺はコルンのもとに移動し、手を差し伸ばした。
「まったく……。私の失態なんだから手伝うのは当たり前でしょ。その呪い、絶対に解呪してやるわよ」
コルンは俺の手を握り、頼りがいのある良い顏をする。彼女も旅で成長したようだ。
「はは、頼もしい発言だな。あれだけの失態をしておきながらそこまで言い切れる者は中々いない。お前は物凄い魔法使いになるだろうな」
「ふんっ、あんたに言われなくても、後世に名を遺すくらいの大魔法使いになってやるわ!」
コルンは俺の手を放したあと握り拳を作り、黄色の瞳を輝かせた。
「目標が高いことは良いことだ。だが、途中で夢を捨てた俺みたいに落ちこぼれになるかもしれない。コルンに俺みたくなってほしくないから自分の尺度で頑張れ。人生の先輩から言えることだ。他人の眼は気にするな。まあ、難しいと思うが」
「ほんと、おっさんはみみっちいわね。夢は大きく態度はデカく、それが若者の特権でしょ!」
「はは……。なんか違うような気もするが、冒険者はそうかもしれないな」
俺とコルンは七日間勉強と鍛錬に費やした。俺の鍛錬を見ていたフィーアが「近接戦闘を教えてほしい」と言ってきた。もちろん了承し彼女も鍛錬に参加するようにった。元から運動神経が良かったフィーアはめきめきと上達し、簡単な魔法を使って相手を翻弄しながら攻撃する戦法を編み出す。こいつは戦いの才能があるのかもしれない。
「はぁ、はぁ、はぁ……。ありがとう、ございました」
フィーアは外で動きまくり、息を荒げながら地面に座り込んだ。
「うん、動きの無駄が大分なくなってきたな。だが、なんでいきなり近距離戦闘なんて覚えようと思ったんだ?」
俺は木の棒を持ちながら、フィーアに訊く。
「この前、ウォーウルフやブラッドウルフと戦っただろ。私達は弓や魔法ばかりで、相手を引き付けたり、止めを刺すような役割の者がいないんだ。ディアみたいに近距離で戦い、確実な傷を与えて隙を作った後に大きな攻撃を与えると言う戦法を見てこれだと思った」
「なるほどな。だが、森の民の体を見るに近接戦闘が向いている種族に見えない。お前らは皆、線が細いからな。俺みたいな戦い方は出来ないだろう」
「ああ、そうかもしれない。だが、相手を翻弄することはできる。それだけで、戦略の幅が広がるだろ」
フィーアは立ち上がり、片手剣程度の長さしかない木剣の柄を握る。
「確かにな。だが、戦いは男がすることなんだろ? 女のフィーアがする必要あるのか?」
「私はほぼ男みたいなものだ……。女戦士なんて森の民で私が初だろうさ。一度や二度、女らしさを考えたことがあったが、私にどうも当てはまらない。私達の寿命は長い。長すぎてのうのうと生きていても楽しくないんだ。戦いで得られる高揚感がたまらなく愛おしい」
フィーアは木剣の柄を握り、俺に振りかざしてくる。軽やかな動きで踊り子のようだ。一撃の威力は大したことが無い。だが、気を抜くと魔法で視界を封じられたり、足下に作られた罠で体勢を崩されたりと、ものすごく面倒な戦い方をする。
「フィーア、お前の夢はなんだ」
「私の夢。男に負けないくらい強い戦士になることだ!」
フィーアは力任せに剣を振るう。
俺は木の枝を使い、木剣を地面に流す。そのまま、体勢を崩したフィーアの胴体に木の枝を当てた。
「くっ……」
フィーアの悔しそうな顔は俺がギレインから一本が全く取れなかったころと似ていた。もっと強くなりたいと言う強い意志を感じる。
「フィーア、俺達と一緒に旅に出ないか」
俺はフィーアの熱意に問いかけてみた。
「旅……?」
フィーアは目を丸くし、呟く。
「ああ。このまま里にいるだけじゃ、この里の中でしか強くなれない。世界は広いぞ。俺より強い魔物や冒険者がわんさかいる。皆、俺が自信を失うくらい強い。この里をあっという間に火の海にするような化け物だって世界に存在しているんだ。強くなりたいなら強い奴と戦わないと駄目だ。お前が強くなりたいと望むのなら、解呪の方法を探す俺達と旅をしないか」
俺は冒険者人生をフィーアに語った。フィーアは真剣に、コルンは何も言わずにふて腐りながら聞く。
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