第6話  花とお見舞いと

 「すいません、まだやってますか?」


 俺は3人と別れた後こころのお見舞いに行くための花を買いに来ている。


 「ああ、まだやってるよ」


 俺のことを笑顔で迎え入れてくれたこの人は天月剛介、とても花屋には似合わなさそうな体格のおじさんだ。この人は俺の親と同級生だったということもあり昔から絡みがあった。


 「お見舞いに合うような花ってまだ残ってますか」


 「ああ、残っているぜ。ところでいつも横にいるお嬢ちゃんはどうしたんだ」


 「それがその子が病気で今からお見舞いに行くんです」


 すると天月さんは少しばかり黙ってしまった。俺の告げる様子がそんなに深刻そうに見えたのだろうか。


 「どんな花がいいとかあるのか」


 「黄色いカーネーションってありますか」


 「ちょっと待っとけ」


 天月さんはそれだけ言うと店の奥に行ってしまった。

 しばらくして天津さんが戻ってくると手には黄色いカーネーションの他に黄色やオレンジの俺の知らない花も持っている。


 「これは俺からだ。あの嬢ちゃんには店を手伝ってもらったこともあるしな」 


 「ありがとうございます、こころにも伝えておきます」 


 その後、花の代金を払って急いで病院に来たが着くともう七時だ。


 「遅くなった」


 こころには事前に行くと伝えていたからかなり待たせてしまったことだろう。


 「あっ春輝〜、やっほー」


 出迎えてくれたこころのテンションは病気になる前とほとんど変わっていない。 

 俺は持ってきた花を脇に置き、


 「こっちは花屋の天月さんからだ。さっさと元気になれよってさ」


 「わーありがとう、部屋がどんどん明るくなるよ」


 確かに部屋を見渡してみると俺が持ってきたものの他に色鮮やかなものがたくさんあった。  

 

 「これはお母さんたちが持ってきてくれたんだよ」


 そう言いながらぬいぐるみを抱きしめているこころはとても可愛らしい。と言うかぬいぐるみよ、そこ変われ。


 「そういえば涼子さんたちは?」


 「今はご飯食べに行ってる。ちょうど春輝が来る前に出て行ったからすれ違ったね」


 ちなみに涼子さんと言うのはこころの母親だ。


 「しばらく二人っきりだね」


 ぬいぐるみで顔を半分隠しながらそんなことを言われてグッとこない男はいないだろう。


 「退院したらわちゃわちゃに撫で回してやるんだから覚悟しとけよ」


 「きゃー、襲われちゃうー」


 「どんな棒読みだよ」


 その後もしばらく雑談をしていると涼子さんが帰ってきた。


 「あっお母さーん、春輝が来てくれてるよ」


 「春輝くん、毎日こころのお見舞いに来てくれてありがとね」


 「いえいえ、俺が好きでやっていることですし、こころは俺にとって大切な人ですから」


 やっべ恥ずかしー。いくら事実とはいえ彼女の親の前で言うのはやばい。俺ってこんな歯の浮くようなセリフを言う人間だったっけ。


 「まぁこんな素敵な彼氏逃しちゃダメよ」


 「恥ずかしいからやめてよ、お母さん。それに逃すつもりないよ」


 「こころも恥ずかしいからやめてくれ」


そこから涼子さんとこころと喋っていて気づくと9時を過ぎていた。


 「9時だしそろそろ帰らしてもらうわ」


 「ほんとだ。楽しくて全く気づかなかったよ。春輝は明日も学校あるんだから早く帰って体を休めなきゃ」


 「ああ、悪い。久しぶりに学校行ったせいで思ったより疲れてるみたいだ。まぁ明日もまた来るわ」


 「ほんと?じゃあ楽しみにしてるね。おやすみ春輝」


 「おやすみ、こころ」

  


 

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