第27話「鳳凰」
巨大な鳥は、大きな真っ赤な羽を広げて夜空に浮かんでいた。そして、身体全体から神々しい光を放ち、真っ暗な闇を明るく照らしていた。
「あの姿……あなたに似ていますね」
青龍が朱雀に話しかけると、朱雀は大きく首を振った。
「いいえ、あれはもっと上の存在よ」
「上? まさか……?」
「あれは『鳳凰(ほうおう)』よ。麒麟と双璧を成す瑞獣よ」
「ええ!?」
その言葉に驚き、白虎と玄武も空を見上げた。
「で、でも何で、ここに鳳凰が……?」
その時、上空から声が響いた。
「麟……」
巨大な鳥は麟の名前を呼んだ。女性の声だった。
「麟、久しぶりね……」
「お……お前は?」
麟はよろよろと立ち上がった。
「た……太鳳……?」
麟は村を滅ぼされた日に行方不明になった太鳳の名前を呼んだ。
「太鳳……なのか……?」
「……そうよ」
麟は愕然とした。ずっと探していた太鳳が突然、鳳凰の姿を借りて現れたからだ。
太鳳に聞きたいことは山ほどあった。
なぜ俺を騙した?
なぜ村を滅ぼした?
なぜ今頃ここに現れた?
そして……お前は一体何者なんだ?
そんな麟を見て、太鳳は空から優しく語りかけた。
「あなたのおかげよ」
「え?」
「あなたが、九尾の狐を冥界に送り返してくれたおかげで、私は自由になれたの」
「何!?」
「あの日……あなたの村が滅ぼされた日から、私は九尾の狐にずっと拘束されていたの」
「ど……どういうことだ!?」
「私は『鳳凰』の化身……私の血を求めて大昔から権力者たちの争いが起きた。あなたの村も同じ……私を幽閉して私の血を求めた。だから私は逃げたの。九尾の狐の『助けてやる』という言葉にそそのかされて。でもまさか狐があなたに危害を加え、村を滅ぼすなんて思いもしなかった」
「そ、そんなことが……」
「結果的にあなたを裏切り傷つけたことを、本当にすまなく思ってるわ。本当に……本当にごめんなさい」
「太鳳……」
「私は鳳凰の化身として、この世に生を受けた。でも、私はもう行かなくてはいけない……」
「な、なぜだ!?」
「私の血は強大な『力』をもたらす。私がいることで争いが起こる。だから私は姿を消さないといけないの」
そう言うと、鳳凰は巨大な羽をバサッと宙に翻らせた。
「ま、待ってくれ、太鳳!」
麟は村が滅びた時の夜と同じように、宙に手を伸ばした。
「麟、私はあなたから沢山の大事な人を奪ってしまった……だから、これはせめてもの、私からの償い……」
その言葉と同時に上空から光の雨が降り注いだ。その光の雨は傷つき疲れ果てた人たちに降り注いだ。
魍魎との死闘で倒れた陰陽師たち、伽耶を守って雷に打たれた堂島、同じく伽耶の父親に……。
「こ、これは……?」
麟の目の前で奇跡が起きた。
戦いで傷ついていた陰陽師たちが立ち上がり、黒焦げになった堂島の身体は元通りの姿になった。伽耶の父親も何が起こったか理解できずに立ち上がっていた。
「す……すごい……私の治癒能力をはるかに超えているわ……」
玄武をはじめとした四神獣も、その驚きの光景に唖然とした。
光の雨は伽耶にも降り注いだ。伽耶の腹部の傷は見る見るうちに塞がり、白い顔には赤みが戻ってきた。
「か、伽耶! 伽耶!?」
伽耶を抱いていた母親が声を上げると、伽耶のまぶたがピクッと動いた。
「鳳凰の血は永遠の生命をもたらすというが、これがその力なのか……?」
復活する人々を見て、総帥が驚愕の声を漏らした。
光の雨が止むと、鳳凰は大きく羽根を羽ばたかせ、くるっと向きを変えて西の空に方向を定めた。
「さようなら……麟」
「ま、待ってくれ! 太鳳!」
しかし、太鳳は麟の言葉に耳を貸さずに、そのまま西の空に飛んでいった。
麟はその姿を呆然として見ていた。
「あ、あれ? 俺、一体どうしたんだ?」
背後から堂島のとぼけた声が聞こえた。伽耶は母親の腕の中ですやすやと眠っている。
東の空が明るくなってきた。
長い戦いの夜は終わりを告げようとしていた。
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