第135話 初めて見る笑顔
あれから紅百合とは定期的に会うようになり、飲んではヤッてを繰り返していた。
これが世間でいうところのセフレというやつなのだろう。
何だかんだで俺達にはお似合いの関係に思えた。
「純、モンラボいこ!」
休みの日に当たり前のように俺の家に上がり込んでいた紅百合が突然そんなことを言い出した。
「いいけど、急にどうしたんだ?」
「学生時代は一緒に行ける友達がいなかったから、行ってみたいのよ。グッズは通販で買っちゃうし、店舗に行く機会逃しちゃってさ」
意外とゲームが好きだった紅百合とは、一緒にゲームで遊ぶこともある。
中でも、モンテとクリハンはかなりの頻度で遊んでいた。
正直、身体を重ねる時間よりただ一緒に遊ぶ時間の方が長いため、異性の友人という関係という方がしっくりくるかもしれない。
「それで、どっちの店舗行く? ここからだとスカイツリーの店舗が一番近いと思うが」
「うーん、スカイツリーは混みそうじゃない?」
「休日のモンラボはどこも混んでるだろ……」
モンスターテイルズというコンテンツが世界で愛されるコンテンツとなったこともあり、元々ファンが大勢来店していた専門店は休日にはえげつないほどの人でごった返している。
人混みが嫌いな紅百合が何だかんだで行く機会を逃していたのは、そういう理由もあるのだろう。
「じゃあ、明日にしよ。明日は平日だし、純も仕事休みでしょ?」
「紅百合は仕事あるだろ」
「仕事は夜からだし大丈夫!」
絶対に大丈夫ではない。
紅百合のことだ。楽しい気分になった後に仕事が待っていると思い出した途端に、仕事に行きたくないと駄々をこねるのが目に見えている。
そのくせ周囲の評価を下げたくないからと、泣く泣く出勤するのだ。まったく面倒なことこの上ない。
「紅百合、明日はダメだ」
「え?」
「紅百合は明後日休みだったろ。そこにしよう」
「でも、純は仕事あるんじゃ……」
「大丈夫だ」
俺はスマホを取り出すと、今日出勤しているスタッフに連絡を入れる。
「お疲れ様です。白です」
『おー、白君。どうしたんだ?』
「急で申し訳ないんですが、明後日のシフトを代わっていただきたくて……」
できるだけ申し訳なさそうにそう告げると、先輩は快く応じてくれた。
『おう、いいよ。白君にはしょっちゅうシフト代わってもらってるし!』
「助かります! 本当にありがとうございます!」
普段から一生懸命働いていれば信用は積み重なる。正治さんから学んだことだ。
そのおかげで、こうして突発的に時間を作ることだってできる。
通話を切ってスマホをしまうと、俺は紅百合へと向き直る。
「紅百合、モンラボに行くなら丸一日俺に時間をくれ」
「な、何かガチ過ぎない?」
珍しく困惑している紅百合へと告げる。
「バカ言え、遊ぶときはとことん遊んだときが楽しいに決まってんだろうが」
中途半端に終わって消化不良になるくらいなら満足感のある一日を過ごした方がいい。
普段は何も気にせずにダラダラとしている分、思いっきり遊んだときの楽しさは一入だ。
「ふふっ、それもそうね!」
呆けていた紅百合は、俺の言葉を聞いて破顔する。
そのとき、俺は初めて紅百合の心からの笑顔を見た気がした。
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