第129話 最高の置き土産
僕が筑間先輩と勝負したあの日。
紅百合の元には越後さんがやってきていたようだ。
後から事情を聞いたところ、僕達と夏休みに遊びに行くことを知った越後さんの母親が「お姉ちゃんが受験期なのに、部活の合宿だけじゃなくて友達と旅行にも行く気!?」とヒステリックに怒鳴られてしまったとのことだった。
越後さんは越後さんなりに自分の頑張りを伝えたらしいが、あの母親がそれを聞くわけもなく、最終的にはとことん人格否定をされ、つい家を飛び出してしまったらしい。
当然のことながら生徒会長はブチ切れていた。数年後に待っているセクシー女優デビューの日が恐ろしくてたまらない。震えて待とう。
「それで、モモがだいぶ透けてるってことは未練は晴れたのかな?」
僕の部屋に来ている紅百合の後ろに佇むモモの体はかつてのクロと同様に薄くなり、その霊体からは光の粒子が零れ落ちていた。
『過去の自分は別物って割り切っておきながら情けない話ね。結局は、こっちのあたしがリラと友達やっていけるのか。その覚悟を見届けたかったなんて……」
「ふん、大きなお世話よ」
どうやらモモの未練は他ならぬ紅百合自身の手によって晴らされたようだ。
『今のあんたなら大丈夫ね。お母さんに迷惑をかけることも承知の上でリラのために自分の殻を破ることができたあんたなら、きっと何があっても大丈夫。そう思えたわ」
モモは憑き物が落ちたような清々しい笑顔を浮かべていた。紅百合に憑いている彼女にこの表現は適切じゃないかもしれないけど。
『ああ、でもやっぱり悔しいなぁ……』
モモはそうに呟くと、僕と紅百合を交互に見る。
『もう一度、みんなとやり直したかった』
涙を流して後悔するモモにかける言葉はない。
だって、その後悔は過去に来たところで晴らすことはできないものなのだから。
「そんだけ未練があるのなら大丈夫じゃない?」
『え?』
「考えてもみなさいよ。あたしは自己中で強欲な女よ。過去も未来も両方で後悔してることやり直すしたいなんて思ってるなら、きっと未来に戻ってからの延長戦があるにきまってるじゃない」
それは未来の自分に対する激励だった。
もちろん、そんな都合の良いことが起こるとは思えない。
でも、信じるだけならタダだ。
過去から見送ることしかできない僕達がモモの幸せを祈ったっていいじゃないか。
『本当、こっちのあたしには教えてもらってばかりね』
「しっかり自分を見つめ直すいい機会になったんじゃない?」
「自分を見つめ直すってそういうことじゃないと思うけど」
紅百合の言葉に僕は思わずツッコミを入れる。
そんな僕達のやり取りを見て、モモは笑顔を浮かべた。
『ありがとう、白君、紅百合。元気でね』
「あんたも元気でね、モモ」
「何だかんだで楽しかったよ」
モモから溢れ出す光の粒子が眩き輝く。それは僕達の未来を祝福しているように見えた。
もう消えるまであと少し。
最後にモモは後ろから紅百合を抱きしめるように重なると、その両手に自分の消えかかっている手を重ねた。
「ポルターガイストッ!」
「ぶふっ!」
そして、盛大に紅百合のスカートを捲り挙げた。
紅百合にモモが見えているということは、まあ、つまり履いてないということになる。
僕の真正面で派手にスカートが捲り挙げられ、本来隠すべき部分を余すことなく晒していた。うーん、肌色面積がえげつなくて素晴らしい限りだ。
「いやぁぁぁぁぁ!?」
突然のことに呆然としていた紅百合だったが、すぐに自分の状態を理解して悲鳴を上げた。
「あ、あんた! 何して……!?」
『かー、ぺっ!』
「オマエヲコロス!」
「落ち着いて紅百合! 僕に見られるくらいいいじゃないか!」
それ以上のことはとっくにやってるんだし。
「そういう空気でするのとは話が別なの! てか、見ないでよ!」
「いや、見るよ! 彼氏として堂々と!」
『ケッ、一生乳繰り合ってなさいよ、バーカ!』
最後まで騒がしいままモモは光の粒子となって消えていった。
どうして未来からやってくる連中は立つ鳥跡を濁さずができないんだよ!
最後に最高の置き土産をありがとね!
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