第128話 話にならない話
あたしは震える手で通話ボタンを押したリラから携帯を引っ手繰った。
「もしもし、越後凛桜の携帯電話です」
『その声は……英さんね』
電話口の声がワントーン上がる。
リラを怒鳴りつけようとしたが、あたしが出て咄嗟に声音を取り繕ったのだろう。
「はい、リラの親友の英紅百合です。先日はお世話になりました」
『いえ、こちらこそ。迷惑をかけてしまったみたいで申し訳ないわ』
「そんなそんな! 迷惑なんてことありませんよ、あたし達は親友ですから。困ったときはお互い様なんです」
『あなたは本当に良い子ねぇ。さっき話したお母様の教育が良かったんでしょうね』
じゃあ、リラを貶せば貶すほどあんたの株が下がるわけだけど、そんな都合の悪いことは思考からすっぽりと抜けているらしい。
『凛桜に代わってくれるかしら』
リラと話せる状態じゃないからお母さんが電話をしたんだ。
それを理解していないのが、本当におめでたい。
「リラは今お風呂に入っているので、その間代わりに少しお話しませんか?」
『え?』
そこで初めてリラのお母さんの声に動揺が生まれた。
畳みかけるようにあたしは続ける。
「リラってすごいんです。真っ直ぐで、目標に向かって努力し続けられる人なんです」
隣で聞いているリラが驚いたように目を見開く。
「あたしみたいな上っ面だけの人間じゃない。友達想いで優しくて……だから尊敬しているんです」
そう、あたしはリラを尊敬している。
あたしと似たような環境で、それでいて全く違う過酷な環境で頑張ってきたリラを心から尊敬しているのだ。
「だから、そんな尊敬する親友を苦しめる存在は許せないんです」
そろそろ堪忍袋の緒が切れたあたしは、深呼吸を一つすると意を決して被っていた猫を脱ぎ捨てる。
『どういう、意味かしら』
「わかりませんか?」
すぅっと息を吸いこむと、あたしは思いの丈を叫ぶ。
「子供はあんたの所有物でもトロフィーでもないって言ってんのよ!」
『なっ……!』
しばしの間、絶句するとリラの母親は怒鳴り始める。
『これは親子の問題よ! あなたには関係のない話だわ!』
「あたしはリラの親友よ! 関係なくない!」
電話口から轟く罵声に負けじと怒鳴り返す。
『目上の人間に向かってなんて口の利き方かしら!』
「目上の人間ならそれらしく振舞ってもらえませんかねぇ!」
『減らず口を! 親の顔が見てみたいわ!』
「ええ、いいですとも! 今度会って爪の垢でも煎じて飲ませてもらったらどうですか!?」
あんたのせいでリラがどれだけ苦しんでいたと思ったことか。
理不尽に与えられる恐怖、壊され続けた自尊心。
リラだけじゃない。
生徒会長だって、心を壊され過ぎて人生をかけてこの人に復讐することになる。
『いい加減にしなさい! 話にならないわ……凛桜を出しなさい!』
お母さん、ごめん。
あたしのせいでお母さんの評判まで下がっちゃうかもしれない。
でも、あたし止まれないや。
「もう、リラはあんたの言いなりにはならない! あたしがいる限り、あの子は自由よ!」
言いたいことを全て言いきると、あたしは通話終了ボタンを押した。
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