第121話 あるべき形に

 よもやこのまま……と思った瞬間、乱入者が現れた。


『ピピーッ! イチャイチャ警察よ!』


 モモである。

 猛スピードで突撃してくると、モモは紅百合の身体を素早く乗っ取った。

 突然、身体の弾き出された紅百合はその衝撃に耐えきれずに気を失った。


『ちょっと! 邪魔しないでよモモ!』


 と、思いきや気合いで耐えてきた。戦いの中で進化するなよ。


「ふん、あたしが止めなきゃあんたらの初めては〝野外〟になってたでしょうね」

「否定できない……」


 理性が蒸発しかけていたことは事実である。クロ曰く、僕と紅百合は身体の相性がいいらしい。いろいろとブレーキが壊れるのは確実だろう。


「いい? 避妊はちゃんとしなきゃダメよ」

『処女拗らせた女に言われても説得力ないわね』

「ぬぐっ……!」


 紅百合の呆れながらの一言に、モモは顔を顰めて口を噤んだ。


「まあ、でもそこはモモの言う通りかもね」


 クロの二の舞にならないように気を付けなくてはいけない。

 恋人になったとはいえ、ソレばっかりになってしまうのは精神衛生上よくないだろうし。


『〝生徒会長〟ならちゃんと持ってきてたのに』

「避妊具の隠語に生徒会長使うのやめな?」


 誰だよ、エッチゴム付きなんて呼び方をしたバカは。僕だったか……いや、クロに言われなきゃ思いつかなかったはずだ。

 結局、僕じゃん。


『というか、何で成仏しないのよ』

「ハッ、過去のあたしが白君と付き合えたところで未練は晴れないってことよ!」

『チッ、脳破壊の衝撃で消し飛ばせると思ったのに』

「あんたマジで凶悪ね!? 我ながら恐ろしいわ!」


 舌打ちした紅百合にモモが戦慄する。

 わかっていたけど、想像以上に僕の彼女は過激だった。


『あー、もう最悪。せっかく良い雰囲気だったのに』

「くくっ、あたしを成仏させない限り付き纏ってやるわ」

『純、気にせずしましょ。あたし、見られても気にしないから』

「僕は気にするよ!?」


 やばい。僕の彼女、変な癖に目覚めてしまったのかもしれない。


『大丈夫。幽霊って性的なもの苦手っていうし』

「むしろ、幽霊が性的だよ」

『何度も目の前でしてれば、疑似寝取られで自我も崩壊するんじゃない?』

「いや、未来じゃ寝てないからただのBSSでしょ」

「かはっ……」


 当のモモは何故か僕の言葉の方にダメージを受けていた。


「まあ、あんたらの初体験はどうでもいいわ」


 どうでもは良くなさそうに胸を抑えるとモモは続ける。


「これであんたらの問題は片付いた。リラをちゃんと助けてくれるんでしょうね?」

「バカだなぁ。そんなの決まってるじゃん」

『むしろ、あんたに頼まれて助けるみたいな空気出されるのが不快よ』


 僕達は鼻を鳴らしてモモを見据える。

 まったく、本当に未来の紅百合は情けなくなったものだ。


「紅百合、僕はちゃんと筑間先輩と向き合ってみるよ」


 クロの代わりの兄貴分じゃない。

 ちゃんと、筑間正治という人間と本気でぶつかってみる。それが僕のやるべきことだと思った。


『リラのことは心配しないで、絶対何とかするから』

「そう……ふふっ」


 その言葉に安心したのか、モモは目を閉じて笑みを浮かべた。


「あれ、身体が戻ってきた」

『頼んだわよ。紅百合』

「あれ、モモが見える……ま、いっか。任せておきなさい」


 親友を思う気持ちによりシンクロ率が高まったのか、元に戻った紅百合にもモモが見えるようになっていた。

 たとえ別人のように変わってしまっても紅百合は紅百合。それがやっとあるべき形に戻ったのかもしれない。

 そんな風に満足気に頷いていると、紅百合は頬を紅潮させて僕に耳打ちしてきた。


「ところで、純……あたし、今下着つけてないんだけど帰ったらどう?」

「いろいろ台無しだよ」


 まあ、結論から言うと……〝生徒会長〟しちゃったよね。

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