第122話 恋人初日
出すもん出したら動く気にならん。
どうにも事後の無気力状態には抗えない。このまま眠気に身を任せてしまいたい。
こちとら百メートル走レベルの運動をしていたのだ。しかも、それを何回も。疲れないはずがない。
「なんてことをクロも毎回考えてたんだろうなぁ……」
夏祭りの後、紅百合が散々人の劣情を煽るものだからブレーキが完全に壊れた。
紅百合が事前に遅くなる旨を連絡していなかったら危なかった。いや、割ともう手遅れかもしれないけど。
信じられないことに、これは付き合ってすぐの出来事である。
クロから体の相性が良いとは聞いていたけど、まさかここまでとは思わなかった。
本当に、本っ当に気をつけなければいけない……!
「純、もう一回どう?」
「あのね、時間的にも厳しいし、体力的にも限界だから」
「ちぇー、ケチ」
頬を膨らませる紅百合の頭を撫でて何とかもう一回戦を回避する。
いや、気持ち的にも体力的にもいける。ただ紅百合の帰宅時間があまりにも遅くなり過ぎると恵莉花からの信頼度が下がってしまうのだ。
そう僕達はただの肉体関係ではない。
気持ちが通じ合ったことでようやく築けた恋人なのだ。
……恋人になって初日にするのはどうかと思うと言われたら何も言い返せないのだけれど。
「というか、シャワー浴びてきなよ。さすがに体中その状態で帰宅されるのはまずい」
「でも、シャワー入ったらいろいろバレると思うんだけど……」
「それはもう諦めてる」
「純が諦めないでよ! 説明するのあたしなのよ!?」
紅百合が風呂場に向かったのを確認して、僕は壁に向かって話しかける。
「何だかんだで気は遣えるんだね」
すると、壁からぬるっとモモが現れる。
『ふん、脳破壊を防ぐための自己防衛よ』
不機嫌そうに鼻を鳴らすと、モモは静かに告げる。
『未来は確実に分岐した。でもね、あたしの未練は晴れてない』
「少なくとも、筑間先輩との現状を解決できない以上は安心できないってか」
モモが成仏しなかったのは、それだけ彼女の未練の中で越後さんの存在が大きいからだ。
越後さんが救われたとモモが思ったとき、未練は晴れる。
それはクロのときと同様、自己満足に過ぎないのかもしれない。
「現代でやり残したことがあるなら今の内にやっておきなよ」
『あら、随分と自信があるみたいね。何か秘策でもあるの?』
どうせ人間なんて人のためと言いつつ、エゴと自己満足で生きているのだ。
それなら大切な人達が幸せになった方がいいというものである。
「秘策ってほどじゃないよ」
毒を持って毒を制すように、妖怪バスケやろうぜにはバスケが一番効くということだ。
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