第110話 地雷原を回避
それから三人揃って腕を組んで唸ったところで答えはでなかった。
どうすれば二人の距離を近づけられるのか。そんなの僕達だけで答えが出るわけもなかったのだ。
大人しく筑間先輩達と合流すると、越後さんは楽し気な笑みを浮かべていた。
借りてきた猫のように大人しくなっているのかと思っていたが、どうやら僕の思っていた以上に二人の関係は良好らしい。
「ふぅあぁぁぁ……さて、買い物も終わったし帰るか」
大きなあくびをすると、筑間先輩は伸びをしながらそう言った。
てっきり、またバスケしようぜと言ってくるものだと思っていたが違ったらしい。
「んじゃ、お先に失礼」
何だか拍子抜けしてしまって、反応が遅れてしまう。
僕達の方を振り返ることもせずに帰路に就く筑間先輩の背中はやけに寂しそうだった。
その背中を見ていると、紅百合のことが絡んだときのクロを思い出してしまう。
「それでリラち。先輩とはどうだった――」
「あのさ」
そこで吉祥院さんの言葉を遮って越後さんが告げる。
「筑間先輩を救うのを手伝ってほしいんだ」
越後さんの表情は真剣そのものだった。その表情を見て、僕は納得する。
二人きりで話しているときに何かがあったのだ。
「わかった。協力するよ」
「さすがツクモ」
当然だという風に笑みを浮かべると、そのまま越後さんは口元を吊り上げた。
「仕方ないわね。親友の恋路は応援しなきゃだもんね」
紅百合もやれやれといった風に肩を竦め、協力することを表明する。
「でも、救うって具体的にどうするのー?」
「それはこれから考える! というか、一緒に考えてほしい!」
吉祥院さんの疑問に、越後さんは力強くそう答えた。清々しいほどにノープランである。
「カフェでも入って作戦会議する?」
「夕飯前だし別の場所が良い気がするわ」
スマホで時刻を確認しながら提案すると、紅百合が眉を寄せた。
夕方とはいえ、まだ時間は早い。これから話し合うのなら場所を移動する必要はあるだろう。
そう思っての発言だったのだけど、吉祥院さんが思い出したかのように口を開く。
「ここから一番近いのは吉祥院さんの家じゃない」
「アケビ、家使える?」
「それは無理」
吉祥院さんは珍しく硬い表情を浮かべて即答した。
しまった。この人はこの人で何かしらの闇を抱えていたんだった。
「僕の家でいいんじゃないかな。紅百合はしょっちゅう来てるし」
吉祥院さんの家は地雷原も同然。それを知っている以上、そこに向かわせるのは関係の悪化を招く可能性がある。
そう思った僕は慌てて会議の場所に自分の家を指定した。
「あれ、名前呼び……まさか」
「「違うから」」
ハッとした表情を浮かべる越後さんに、僕と紅百合の声が重なる。
「吉祥院さんのノリに振り回された結果よ」
「ああ、そういうね……」
一番付き合いの長い越後さんはそれだけで納得していた。
「それじゃあ、シロ君の家に出発だー!」
「本当に、掴めない人だな……」
この明るさで闇が深い吉祥院さんに深いため息が出た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます