第109話 筑間正治という人間
クロのノートとモモを通して未来を知った。
結局のところ、モモが防ぎたかったのは越後さんが僕に惚れることだ。
モモの未練を晴らすには、筑間先輩との仲を取り持つか、僕と紅百合が付き合うことくらいなわけだけど、どうにもしっくりこなかった。
「それで、話はついたの?」
紅百合はトイレから帰ってきた僕に、単刀直入にそう訊ねた。
「うーん、どうだろう……」
「何よ、はっきりしないわね」
煮え切らない僕に紅百合は唇を尖らせる。
紅百合としては、ここでモモから洗いざらい全てを聞き出して解決の一手としたいのだろう。
「二人で何こそこそ話してるのー? もしかして、私はお邪魔虫だったかなー」
そこで前を歩いていた吉祥院さんがニヤニヤと笑みを浮かべながらやってくる。
「そ、そんなことないよ」
この笑みの裏にどれだけの闇が隠れているのだろうか。
モモの言っていた未来での吉祥院さんを思うと、どこに地雷が隠れているかわからず顔が引き攣ってしまう。
そんな僕を見て紅百合は怪訝な表情を浮かべていた。あとで紅百合にも情報共有をしなければ。
「それより、そろそろ越後さん達と合流した方がいいんじゃない?」
話題を変えるため、僕は二人にそう提案した。
とにもかくにも、モモを成仏させるための鍵は越後さんだ。
筑間先輩との仲を取り持つのは難しいかもしれないが、吉祥院さんがこの場を設けてくれたことで集まりやすくなった。
ただ気に入られた後輩というだけの僕じゃ彼の心を開くのは難しいかもしれない。
それでも、やるしかないのだ。
これ以上モモの未練を放置していたら本当に悪霊になりかねないし。
「えー、まだ二人っきりにしてあげようよー」
「さすがにフォローなしで二人きりはハードル高いんじゃない?」
「リラがわたわたしている様子が目に浮かぶわ……」
それは想像に難くない。
そもそも越後さんは暴力的コミュニケーションでカースト上位を維持していた人間だ。
それ以前は不登校だったこともあり、筑間先輩のエスコートに期待するしかない。
とはいえ、だ。
クロのノートにあった〝正治さん〟ならともかく、今の筑間先輩はただの〝妖怪バスケやろうぜ〟である。
出会ってからあの人がバスケ以外でコミュニケーションを取っているところを見たことがない。
バスケへの情熱を捨てようとして、結局捨てきれずにワーカホリックになったのがクロの時間軸での筑間先輩。
僕がバスケ部に入ったことでバスケへの情熱を取り戻し、共に起業する仲間になったのがモモの時間軸での筑間先輩。
じゃあ、このいろんなことがめちゃくちゃになった時間軸での筑間先輩はどうなるのか。
彼に対する情報ならたくさんある。
だけど、僕は筑間正治という人間そのものをあまりにも知らな過ぎた。
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