第104話 バスケは楽しくやるのが一番

 グッパーの結果、筑間先輩と一緒にお店を回ることになった。

 ウチらが買うのは、紙皿や紙コップの類。

 アケビ曰く、この商業施設の中に百均ショップがあるからとのことだったけど、それならわざわざお台場までくる必要はない。大方、みんなで遊びたかっただけだろう。

 ウチはチラリと筑間先輩の顔を盗み見る。


「ん、どうかしたか?」

「い、いえ! 何でもないです!」


 アケビが筑間先輩を誘ったのはウチが筑間先輩と一緒に行動できるようにするためだろう。

 アケビはウチのことをよく理解している。


 吉祥院朱実きっしょういんあけびは高校に入学して最初に友達になった子だった。

 不思議な子だった。

 見た目はイケイケのギャルでありながら、実際に話してみると無気力で受け身なことが多かった。

 事情を聞いてみれば、中学のときにいじめにあって不登校になっていたから人と関わるのが得意じゃないとのことだった。

 それを聞いたとき、絶対にこの子は放っておけないと思った。


 だって、いじめられているのはウチと同じだったから。

 アケビとはすぐに打ち解けることができたけど、ウチの捻くれた性格はそう簡単に直るわけじゃない。

 でも、クユリとの一件があってウチはようやく真っ直ぐに自分らしく生きられるような気がした。本当にツクモには感謝してもしきれない。


「凛桜ちゃん変わったな」

「やっぱり、クユリのセンスいいですよね」

「いや、服とメイクじゃなくて雰囲気だよ」


 筑間先輩は苦笑すると、ウチの顔をジッと見つめて言った。


「前と比べて穏やかに笑うようなったなぁって思ってさ」

「そう、なんですかね?」


 確かに、クユリと仲良くなる前のウチには余裕がなかった。

 常に周囲を威圧して自分の立場を守り、バスケ部ではただ我武者羅に練習に励んでいた。

 家はシンプルに地獄だし、心が休まるときはなかったかもしれない。


「もし、そう思ってもらえるのならクユリ達のおかげです」

「そっか、凛桜ちゃんにもそう思える友達ができたってことか」


 筑間先輩はウチの顔を見て優しく笑う。その視線がむず痒くて、思わず目を逸らした。


「初めて会ったときは今にも死にそうな顔してたもんな」

「そんな顔して……たろうなぁ」


 不登校になって窓から筑間先輩を眺めるだけの日々を思い出せば、そういう顔をしていたのは当然だろう。


「でも、先輩がバスケを教えてくれたおかげで今は楽しくやれてますよ」

「そいつは良かった。バスケは楽しくやるのが一番だからな」


 そう言って笑った筑間先輩の表情は、あのとき窓から見ていたのと同じ寂しそうな表情だった。

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