第102話 越後凛桜の出会い

 ウチは不登校になった。

 家にいるのも地獄だけど、学校に行くよりはマシだ。どうせお母さんも仕事で昼間はいない。


「不登校なんてどれだけ私の顔に泥を塗れば気が済むの!」

「ごめんなさい」


 怒鳴られるのにも、もう慣れた。

 心を殺してごめんなさいと言えば、その内お母さん疲れてどこかへと行ってしまう。怒鳴るのだって体力がいるのだ。


 そんなウチの楽しみといえば、部屋の窓から見える景色だった。

 近所の小学生達にバスケを教えている中学生男子。

 笑顔を浮かべて小学生達にバスケを教えるその人から目が離せなくなった。

 何でそんなに寂しそうな顔をするのだろう、と。


「おーい、そこの窓から見てる子! 君もバスケやってみないか!」


 ある日、いつものように窓から彼を眺めているとそう声をかけられた。

 どうやらウチがいつも窓から見ていたことはバレていたようだ。

 筑間正治と名乗ったその人はウチの一個上の先輩だった。

 バスケをしようと誘われたので、ウチは慌てて切らずに放置していたボサボサの髪をヘアゴムで留める。それは昔お姉ちゃんにもらった誕生日プレゼントだった。

 ルールは一応知っていたので、先輩の手ほどきを受けながらボールに触っていると先輩は楽し気に笑って言った。


「女の子なのにすごいフィジカルだな。そんだけ背が高ければ大活躍間違いなしだ」

「そう、なんですか?」

「おう、そんだけタッパがあれば練習次第じゃそうとういい線いくぞ。引きこもってた割に運動神経もいいみたいだしな」


 その言葉がきっかけだった。

 ウチは学校に通うようになってバスケ部に入部した。

 不登校の奴がいきなり部活に入って馴染めるわけもなかったけど、ボールに触れられるだけでも楽しかった。


 ボールを奪おうとぶつかってくる奴らは何もしなくても簡単に弾き返される。そこで自信が付いた。

 体育の授業で同じようにクラスメイトを弾き飛ばせば、ギャグ漫画みたいに吹っ飛ぶ。

 男子相手でも負けることはなかった。


 それがどうしようもなく気持ち良かった。

 弱い者いじめは相手が弱いからこそ成り立つ。

 大人しかったウチが不機嫌そうに机を軽く蹴れば、誰も逆らわなくなった。


 これでいいんだ。そうだよ、一番わかりやすい見本がすぐ傍にいたじゃないか。

 いじめられたくなきゃ、いじめっこみたいに振舞えばいいんだ。

 それからウチは筑間先輩と同じ高校に入るために必死に勉強した。


 そこで出会ったのは、腹立たしいほどにお姉ちゃんと似たような性格の完璧美少女だった。

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