第100話 ○○○凛桜
昔からお母さんは家の支配者だった。
お父さんがまだ一緒に暮らしていた頃からもそうだった。
お姉ちゃんは習い事や塾でいつも忙しそうにしていて、お母さんに怒られてばかり。
お父さんがお姉ちゃんを庇えば「また私を悪者にして!」とお母さんが怒鳴り散らす。
暴力を振るわれたことは一度だってない。
それでも、お母さんの言葉はいつだって凶器だった。
でも、お母さんが仕事も家のことも頑張っているのは知っていたから責めることはできなかった。
だから、ウチだけでもお母さんを好きでいてあげなきゃかわいそうだ。そう思った。
「凛桜はお父さんとお母さんどっちの味方なの!?」
「お、お母さん……」
「ほらみなさい! 私は仕事をしたまま家事だってやってる。あなたはこの子達や私に何かしたことあるの!?」
お父さんには申し訳なかったけど、ウチはお母さんを見捨てることはできなかった。
「凛桜、お母さんの味方するのやめなよ」
「えっ」
「あんな奴の言うこと聞いてたら碌なことにならないよ。ちゃんと自分の気持ちを大切にしてね」
お姉ちゃんはいつだってお母さんを嫌っていた。
それも仕方のないことだと思う。だって、一番の被害者はお姉ちゃんだったもの。
怒られるのはいつだってお姉ちゃんで、お母さんの味方をしていたウチはそこまで怒られなかった。
今思えばウチは子供ながらにずる賢い立ち回りをしていたのだと思う。
だからバチが当たったんだと思った。
「離婚?」
「大丈夫、安心して。私が二人を立派な人間に育ててみせるから」
違う。違うよ、お母さん。
ウチはただ家族みんなで仲良く暮らしたかっただけなんだ。
お母さんがかわいそうだから味方をしていただけで、お父さんだって大好きだったんだ。
「あんな人いない方がいいものね」
笑顔を浮かべるお母さんにウチは何も言えなかった。
そして、お母さんが離婚してから全てが変わってしまった。
お姉ちゃんは前から比べて更に良い子になった。少しの隙もない完璧な〝自慢の娘〟だ。
それに比べて出来の悪かったウチはお姉ちゃんといつも比べられてお母さんに怒られるようになった。
そこで理解したのだ。お母さんがウチに優しかったのは、自分を悪者扱いするお父さんとお姉ちゃんがいたから。
お父さんはいなくなり、お姉ちゃんは従順になって求められた結果を出すようになった。
つまり、お母さんにとってウチはいらない子になってしまったのだ。
「うわっ、えちごリラだ!」
「ゴリラ菌たっち!」
「バーリア! はいゴリラ菌きかなーい!」
「残念、ゴリラ菌はバリア貫通ですー!」
変わったのは家の中だけじゃない。
元々カッコイイ苗字と羨ましがられていたのに、お母さんの旧姓である〝越後〟に苗字が変わってからというもの、ウチは周囲からいじめられるようになった。
名前だけじゃない。ウチの服は全部お姉ちゃんのお古でよれよれであまり綺麗な状態じゃなかったことも原因の一つなのだろう。
小学生にとって汚く見えるやつは排除してもいい奴。そう思われてしまうのだ。
家でも地獄、学校でも地獄。
子供ながらに何でこんな目に遭わなきゃいけないんだと何度も思った。
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